103:青魔人の恐怖

「ねえ、なぎさちゃん。本当に煙が出て来たけど……」


「前と同じなら変な所に飛ばされるのじゃ」


 真っ白な煙が徐々に薄くなり視界が回復してくる。


 辺りは砂漠が広がっていた。奥には美しいオアシス。その先に立派な宮殿が見える。そして…… 目の前にはランプから出ている煙の先と同化するように青い色をした上半身だけの人? がいた。


『呼ばれて飛び出た青魔人~ ……って、なんであんたがくるのデスかー』


「今回は私がランプをこすったのよ。魔人さん」


 アカリは一歩前に出て、すずらん型の傘を広げて肩に背負う。真っ黒な傘先にライトを灯す。


『君は吸血鬼デスかー。昔、ハイゲイドという男に娘の生命を救って欲しいと頼まれたことがありマシたねー』


「青魔人さん、その願いはどうしたのかしら」


『私にはそんな力はありまセーン。昔出会った光とも闇ともとれる存在に会ったことを教えてあげただけデース』


「これだけ教えて! その存在は『舞』と名乗ってなかったかしら」


『うーん。確かにマーイとか言っていた気がするのデース』


「ありがとう魔人さん、これで私がなんでハイゲイドに狙われたか分かったわ」


「アカリ、舞って『神薙舞さん』のこと? 君の伯母さんじゃないか」


「そうね。小さいころに伯母さんにおとぎ話を何回か聞かされたことがあったのよ、なぎさと出会って旅をしているうちに、ふと思い出すことが多くなってなんとなく重なる所を感じていたのよ」


「じゃあ、舞おばさんはこの世界に来たことがある……」


「そういうことになるわね」



『そろそろいいデスかー。願い事はまだ受けられませんが、宮殿の物なら持って行って良いデスよー。なぎさがほとんど持っていったから何も無いデスけどねー』


「戦わなくていいのですか?」


『良いのデース。どうせ君たちにかなわないし、レベルを減らしたくありませんからねー』


「じゃあ、今のタマサイ王国について教えてもらうことはできないかな。それで終わりにするってことで」


『…………分かりマシた』


 何故か今まで明るい感じが一気に無くなる。何かあるのだろうか…… そのまま、青魔人は静かに語りだした。


『タマサイ王国の第1王子には馬頭鬼がが、王妃には牛頭鬼が憑依している』

『邪悪な人間を滅ぼし、魔神に仕えるモノが支配する世界を作る』


 ということらしい。であれば、タマサイ王国の王は魔神によって殺されてしまったのだろう。しかし、なぜ国を乗っ取り兵を使って統一させようとしているのか。


「そんな勝手なことが許されるわけないのじゃ、魔族を滅ぼすのじゃ」


『その考えなんだよ。魔族も同じ考えなんだよ。良い人間もいれば悪い人間もいる。逆に悪い魔族もいれば良い魔族もいる』


「そんな…… 共存の道はないのですか?」


『それは無理だね。君たちも魔獣や魔族を倒してきただろ。そういうことさ。あとは、君たちが人間側につくのか、魔神側につくのかということだね』


「…………」


『君たちは、タマサイ王国の事を知りたいって聞いたって事は、知ってるんだろ羅沙鬼様の話を。自分たちの身勝手さでほろんだ自業自得の村の話を…… 力は弱いくせに何を勘違いしているのか自分たちが支配していると思い込んでいる人間たちはこの世界にいらないと思わないか』


「…………」


『それともう一つ教えておいてやる。昔、タマサイ王国で流行り病で多くの人が死んだことがあってな。君たちはそれを見たら悲しむと思うんだ。しかし、その後、自然がどうなったと思う、魔神たちがどうしたと思う? 川は澄み空は奇麗になった。ワシたちはその中で食物連鎖の歯車として生きられるわけよ。もちろん悪いやつもいたけどな。しかし、それは人間も変わらんだろ』


「それなら、今まで通りのバランスで過ごしていくことは出来ないんですか」


『そのバランスを崩そうとしているのが、タマサイやスカイブだろう。まあ良い、話すことは話した。次に会うときは味方なのか敵になるのか分からないが。その時までお前たちの事は黙っておいてやるよ』


 辺りを白煙が包み視界を奪う。広がる白煙の中意気消沈していた。白煙を抜けると知らない場所に移動していた。


「ここはどこだろう……」


 真っ暗な洞窟の中にいる。辺りは暗く壁にはランプがはめ込まれていた。『燃料湧泉』と『熱与奪』で明かりを作り出す。階段を上っていくと地下室を隠すように扉で塞がれており、持ち上げると家の中に出た。


 マップで辺りを確認すると『ヨクサ』の西にある小屋のようだ。タマサイ王国の北に位置し、北にはスカイブ帝国、西にはバチ王国がある。ハッサドにいたはずだが、青魔人に間違った出口に送られたのだろか。


「もしかしたら、青魔人が見せたいものがあるのかもしれませんね」


 リリスが建物を見回すが、特に変わった者はなく扉に手をかけ外に出た。小屋の周りは森に囲まれ、近くには小さな池がある。池の中は魚が泳ぎ地面が見える程透き通っている。


「神聖な場所ね。空気も水も奇麗だし…… 人は澄んでいないけど未開の地という感じね。それにこの辺り一帯は結界が張られているようね」


「ちょうどいいのじゃ、誰が住んでいるのか分からないし占拠するのじゃ」


「流石にそれは…… でも、人が戻ってくるまで隠れ家にさせてもらおうか」


「じゃあ、ちょっと近くにあるヨクサに情報収集に行ってこようかな。ちょっと待っててね。もし、誰か戻ってきたら事情を説明して暫くいさせてもらえないかお願いしておいてね」


 マップを確認しながらヨクサに向かって歩いていく。獣道を抜けていくが動物は一匹も見当たらずただ草木を分けて進んで行く。念のため村の出入り口に回り込んで旅人を装って村に入った。


「ペットの村、ヨクサへようこそ」






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