102:脇道にそれるいつもの日常

「みんな、出来たよ」


 それぞれに指輪と手渡す。夜にお風呂でのぼせ醜態を晒してしまった。その後、リリスの膝枕と涼しい氷魔法で癒してもらったのは誰にも言えない……


 指輪を作って思うことがあった。ハートブルマニア鉱石はその人が込めた思いを感じ取れる。誰に想いを寄せているという感じではなく、なんというか色が見えるのだ。その色をそのまま石の色として表出させることが出来るようだった。


 ……ヘルメスはなんで色を表出させなかったんだろう。 単純に面倒だっただけだったりして。と、思っていたが思いのほか色の表出は難しかった。その人の気持ちや想いが渦巻いて、その人を理解していないと安定させることが出来ない程難度が上がる。


「確かに、いくつも作ったら画一的に作りたくなるなぁ」


 

………… ………… ………… …………



………… ………… ………… …………



………… ………… ………… …………



「出来たーー!」


 大声に釣られたのか、一斉にみんながお風呂場に集まってくる。お風呂から湧き出るお湯の香りを嗅ぎながら作ったおかげで心が落ち着く。自分でも『いい仕事をした』と言いたくなるほどだ。


「じゃあ、リリスはこれね」 ──うっすらと金色に輝く石が取り付けられた指輪が手渡される


「なぎさ、ありがとう」


「ユニはこれ」 ──淡いうっすらと紫色に輝く石が取り付けられた指輪が手渡される。


「ありがとうなのじゃー」


「こっちはウタハ」 ──淡くうっすらと緑色に輝く石が取り付けられた指輪が手渡される。


「なぎささん、ありがとうございます!」


「最後はアカリね」 ──淡くうっすらと赤色に輝く石が取り付けられた指輪が手渡される。


「なぎさちゃん、いい仕事したわねー。これは素晴らしいわ。ありがとう」



 みんなに指輪を手渡すと喜んでくれたようで、眺めてはニヤニヤし眺めてはニヤニヤしている。


「それでこれをどうするのじゃー。なぎさに投げつければよいのじゃかー」


「ユニ、まずは私たちの心を指輪に込めるのよ。左手の薬指に指はをはめて馴染ませるのよ。時が来たら光って教えてくれるわ」


「じゃあ、なぎささん! 私の左手の薬指に付けて下さいよー」


「ウタハ、いつも抜け駆けしようとするのはやめるのじゃー。みんな一緒なのじゃー」


「なぎさ、じゃあ、みんなに左手の薬指に指輪をはめてもらっていいかな」


「いいけど、アカリはどうする?」


「んー。じゃあ、せっかくだからお願いしようかな。まあ、単なるお呪いみたいなものだからね」


 それぞれの指に指輪をはめる。それぞれは頬を赤らめ幸せそうな顔をしているので、なんだか気恥ずかしい。しかし、自分にとってみんなは大切な仲間であり家族なのだということを改めて感じることが出来た。


「なぎさちゃん、いつかは本当の家族をどうするか考えないとダメなのよ」


 滅多なことを考えるモノではない。どうも、僕の考えは筒抜けの様だ。


「なぎさは考えが顔に出やすいのよ。でも、わたしは分かり易くて好きよ」


 何もしゃべっていないのに、アカリにリリスに心を読まれてしまう。滅多のことは考えられないな…… 改めて思う事となった。




▽ ▽ ▽

「ねえなぎさ。これからどうするの?」


「うん。メイシンガへ渡ろうと思うんだ」


「メイシンガじゃと! あそこはお風呂屋を潰された場所じゃぞ。いいのかなぎさ!」


「正確にはこのハッサドからの転移先かな。ユニの角が落ちていた場所と言った方が正確かもしれないね。この洞窟をもらったのだがら、転送先の洞窟も使っていいんだと思うんだ。そこを拠点にしようと思ってね」


「なぎさちゃんも言うようになったねぇ」


「なぎさ、メイシンガに近いけどいいの?」


「うん。メイシンの雰囲気を見て決めようかと思っている。どちらにしてもタマサイ首都に行くなら情報を集めないとならないからね。メイシンガかキクに行こうと思っているんだ」


「分かったわ。なぎさがいるんだもん、きっと大丈夫だよね」


 お風呂場の地下に通じる階段を開く。普段はお風呂が入れなくなってしまうので塞いでいた。薄暗い寒暖を『燃料湧泉』と『熱与奪』によって照らし奥に進む。久しぶりの感覚に懐かしさがあった。


「なぎさ、この先の魔法陣に入るんだよね。動かせるのかな」


「うん。大丈夫だと思うよ。ヘルメスに認められたことで新たな力が使えるようになったんだ」


「へー、そうなんですかぁ。良く分かりましたねぇ」


「なんとなく…… なんとなくなんだ。僕につながっている色のちからがどんな状態なのか分かるんだ。その力によってどんな効果があるかまでは分からないんだけどね」


「じゃあ、その力でちゃちゃっと飛ぶのじゃ」


 階段を下り最下層にある魔法陣。以前のまま力なくその形を保っている。奥にある魔法のランプ…… 


「魔法のランプなのじゃー!!」


「魔法のランプですねぇ……」


「ウタハちゃん、ユニちゃん、このランプを知っているの?」



「アカリ……(魔法のランプについて説明:49話~50話)…… なんだ」


「へぇ~、みんなは魔法の世界に行ったってわけね。じゃあ、行ったことない私が擦れば願いを叶えてくれるかな」


 アカリは小走りに走り、魔法陣を飛び越えて魔法のランプをこする。




 ……ランプの先から真っ白な煙が辺りを包んで視界を奪われた。



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