101:旧ヘルメスの洞窟あらため……

 リリスと初めてハッサドに降り立った時に襲ってきた『クルマ三姉妹』。確かにここはタマサイの重要な拠点と言ってた。タマサイ王はどこまでハッサドの秘密を知っているのだろうか。



「そういえば、リリスはハッサドに転送されたときに出会った3人を男性って言ってたよね。クルマ三姉妹って言ってたから女性だったと思うよ」


「あら。そうだったんですか……」


「うん。大きな兜をかぶっていたから顔は良く分からなかったけど、鎧を脱いだ時に胸が見えたから間違えないと思うよ」


「なぎさはどこを見ているのじゃー」


「なぎささんは、胸が大きな女性が好みなのですね! それなら儀式でより大きくなった私を見て下さいよ!」


「なぎさちゃん。変な事言わないの! 話が進まないじゃない」


「変な事を言っているつもりは……」


「言い訳しないで進める!」



「なぎさは、本当にアカリの前では形無しね。わたしもいつかアカリのようになれるかしら」


「リリスはそのままでいいから。うん。それが一番いいと思うよ!」



 さて、ここからどのように進むのが良いだろう。ハッサドの探索を先にするか、それともタマサイを目指して情報を探るか……


「なぎさちゃん。この洞窟は居心地がいいわね。殺風景だし無機質だけど心を安らげてくれる何かがあるのよねぇ。温度も快適だし」


「アカリさん、確かにそうですね! 初めてこの洞窟に来ましたけど素晴らしく居心地が良いです。いっそ、私たちの拠点のひとつにしちゃいましょうか!」


「ウタハ、いい考えなのじゃ。こういう所で過ごすのも良いのじゃ!」


「いいのかなぁ…… ヘルメスに祟られないかな……」


「なぎさ。いいじゃない。ヘルメスはなぎさに紫の力を託したのだから、この洞窟も引き継いでしまってもいいんじゃないかしら」



「う~ん………… そうだね! ヘルメスが返せっていったら素直に返却する事にして結界も張ってあるから、拠点の一つに使わせてもらおうか」

 

 手に持っていたヘルメスの日記が浮かび上がり自然にページがパラパラと捲られていく。何も書かれていないページまででたどり着くと、文字が紙にサラサラと書かれているように浮かび上がる。全てが書き終わると、文字は宙に浮かび上がりなぎさの目の前で停止した。


【この洞窟をなぎさに譲ろう。ただし、さっさと彼女たちの指輪を作ってあげる事! その指輪はキット役に立つだろう】


 読み終わったのが分かるのか、自然と文字は霧散し何事もなかったかの様に本が閉じられ手に戻る。


「指輪か……」



「そうじゃ! 忘れていたのじゃ! さっさとみんなの指輪を作るのじゃ!」



 実際に指輪づくりを見たことがあるリリスの指導によって『運命の指輪』作りが始まった。



「一つ目は、みんなが持っているハートブルマニア鉱石に魔力と一緒に『運命の人』と出会いたいと想いを寄せるの。魔力の大小は関係ないからね」


「ふむふむ。なぎささーん!」


「ウタハ。想いっていうのはそういうのではないの。運命の人に導いて欲しいという強い気持ちを込めるのよ」


「運命の人、運命の人、運命の人なのじゃー」


「二つ目は、なぎさに渡します。念のためどの石が自分のものかをしっかり覚えておいてね。微妙に石の形が違うから、特徴を覚えておくといいわよ」


「リリスちゃん。もうおしまいなの?」


「ええ。わたしたちがやることは、魔力に想いを乗せて込める事と、出来上がった指輪をしばらく持って、自分の生命力と馴染ませることね。そうすれば、『運命の指輪』の完成よ。


「なぎささん! くれぐれもお願いしますね!」


 僕の右手に石を握らせ、両手で拳を握ってくる。上目遣いで必死な顔をしながら見つめてくるウタハ。ユニにアカリに石を渡され、リリスからも渡される。


「リリスも指輪を作るの?」


「ええ。せっかくだから作ってもらおうかと思っているの。みんながお願いしているのに、私だけ仲間外れみたいでいやだもん」


みんなから石を預かり指輪づくりに取り掛かる。その前に、みんなの想いをのせた石を扱う事に神聖な気持ちを整えようとお風呂に入ることを考えた。


「みんな、これからみんなの想いを込めた大事な指輪を作ってくるね。僕にとっての神聖な場所はお風呂だからお風呂場で作ってくるよ」


 リリスの石、ユニの石、ウタハの石、アカリの石をひとつひとつ預りバックにしまう。そのままお風呂場に向かった。


 お風呂…… 僕はみんなの想いがこもった石を大切に扱いたい。やっぱり心を清めるにはお風呂だよな。そのまま衣類を脱いでお風呂に飛びこ…… 


「こういう時はきちんとやらないとな」


 衣服を丁寧にたたみゆっくりと湯に浸かる。それぞれが何を考え何を想って指輪に想いを込めたのか、お風呂の縁によりかかり肘を出して天井を眺めて考えていた。


 「リリスとはベヌスの大樹、ユニとは鉱山…… (あそこは何鉱山なんだろう?)、ウタハとはスカイブ帝国、アカリとは墓場 (と言っていいのだろうか)。色々なところで出会い今は同じ時間を刻んでいる。 不思議なものだなぁ」


 この世界に転移したクラスメートたちは今どうしているんだろう。聖たちや竜崎、先生とは会った。運転していた瀬場さんや、そのほかのクラスメート………… …… ……


…………


…………


…………


…………



……「なぎさ。なぎさ」


「ん…… ん~」


 頬を叩かれる感触を微かに感じる。そして頭には幸せな間食……


「!」 ──以前にのぼせたときのことが光の速さで頭に蘇った。


 目を開き体を起こす…… 頭がクラクラしている。目の前にはリリスが心配そうに見つめ頬を叩いていた。状態を起こしたことで意識を取り戻したのが分かったのか安堵の表情を浮かべている。


 後ろには、ユニ、ウタハ、アカリも覗き込んでいる。


「なぎさ。考え事するときはお風呂からでなさい。前から思っていたけど、お風呂が好きなのは分かるんだけど、長くお湯に入っているの苦手でしょ」


「リリスちゃん、その前に…… なぎさちゃん、そろそろ前を隠したらどうなの」


「!!」 ──そういえば裸…… みんなに心配をさせてしまったと同時に醜態を晒してそまったのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る