030:少年の友達

 宿で食事処での強力な魔物について考えていた。


「森の強い魔物って何が出るんでしょうね」


「そんな魔物は何匹居ようとユニたちがやっつけるのじゃ」

 ──角を武器化させてバッタバッタと倒す勢いで振り回している。


「村の屈強な人でさえ返り討ちにされたと言っていたからね。討伐出来るかもしれないけど、倒したら目立っちゃうよ」

 薬の製法については興味がある。製法を知れれば、これから待ち受ける旅で物理的な回復薬は貴重だ。 なにせ、回復が出来るのが僕の緑水だけであり魔人エリファスと時のように何かの制約を課せられる時が来るかもしれない。


「それなら、薬草の採取を名目にして森を探索するのはどうでしょう」


「それがいいのじゃ。それなら素材なんかもゲット出来て良いのじゃ。なあ…… なあ! なぎさ良いじゃろ」

 上目遣いで見つめ、腕をギュッと掴んで子供のように引っ張っぱっている。 


「そうだね。薬草と他の素材を採取しに森を探索してみよう。今日はもう遅いから明日、ベオカの人に相談しよう」

 ──僕は1人抜け出して荷車のお風呂に入って鋭気を養った。


 サムゲン大森林の探索は非常に危険で、獣や魔物が多く出没するので強く止められた。近くを探索するという条件で渋々許可をもらえた。


 村民からは、商人に魔物を倒すことは難しいので、出会ったら一目散に村の中心に建つ『リークの塔』に向かって走るように言われた。


▽ ▽ ▽

 森に入って暫く探索すると違和感を覚えた。 この違和感は経験がある。


 ……結界だ


 リリスも結界の存在を感じ取っていた。夢魔の力を使って結界に使われている魔力の元を探り当てる。サキュバス族の力があれば魔力を辿って脳内に入るこむことが出来るが、夢魔が苦手なリリスにとっては逆探知するのが精一杯だった。しかし闇雲に歩き回るより遥かに助かる。


 結界を抜けた先には開かれた土地が広がっていた。草原の中に作られた畑、それを囲うように柵が立てられ人工的な造りとなっている。


「これは…… 霊芝草…… これ1本でハイポーション100本を作れる幻の薬草がこんなに…… 神殿で貴重な薬草として1つ2つは見たことあるけどこんなに……」

 畑を見たリリスは呆然としている。キノコの形をした植物で、人為的に栽培する事が不可能とされる薬草。


「そこにいるのは誰だぁ」


 発声した人物を探すも人の気配はない。気のせいかと思って振り向くと……

 棘のあるツタが地面から何本も伸び、ムチのようにしなって叩きつけてきた。


「ウォーターシールド」

 つい叫んでしまった。特に詠唱や名前を呼ぶ必要はないのだが。


 水が盾となりツタから身を護る。そのまま水の盾を刃に変えてツタを切り裂く。切り裂かれ行き場のなくなったツタは地面に散乱し吸い込まれるように消えていった。

 キリがないほど何本もツタが生えてくる。水の力で薙ぎ払うと貴重な霊芝草にまで被害が及びそうであった。


「リリス。炎でツタを焼き尽くすんだ」

  

「なぎさ。任せて」  

『……スプレッドファイア』


 掌の上に炎の核が生まれ、回りから炎を集めるように大きくなっていく。延焼を防ぐためツルの周りに壁を作る。


「やめてくれー」

 年寄りの声が響きわたった。 その声を聞いたリリスは詠唱を止め集まった炎が消滅する。


「お願いだ……やめて……くれ」

 老人がツタに走り寄り抱きついた。


 ツタは地面に引っ込み、すれ違うように女の子が地面から生えてきた。


 緑色の肌(薄)、緑色の服(深)、緑色の髪(濃)。頭には大きな赤い花が一輪咲いている。尻尾はツタが地面に繋がっていた。


「すまんな。あんちゃんたち」

 食事処でサムゲン大森林に強い魔物が居ると言っていた男だ。


「あんちゃん達に頼みがあるんだ。ここの事は黙っていて欲しい」

 探索をなんとか止めさせようとしていた男が手を合わせ頼んでいる。


「いきなり襲ってきて負けたら謝るというのは虫のいい話なのじゃ」

 ユニが頬を膨らませ男たちを指差し、ぷんぷんしている。


 もともとベオカは貧しい村で名産もなく農業で細々と暮らしていた。ある時、その老人が子供の頃にこの大森林で魔物を拾ったんだ……… 老人が語り始めた。


▼ ▼ 回想 ▼ ▼

「あー 遅くなっちゃったな。父ちゃんに叱られちまうよ」

 ウリフ少年は自生している薬草を採取し自宅に走って戻る。


「キューキュー」


「なんの鳴き声だ……」

 ウリフ少年が鳴き声の主を探すと、小さな植物の魔物が泣いていた。


「キューキュー」


「よしよし。 親たちとはぐれたのか……」

 よし! 俺が育ててやろう。 お前の名前は『アルラウネだ!』

 そう言ってウリフ少年は村人の黙って魔物を育てていた。


 何年か経ち、アルラウネも大きくなると「ウリフ、ウリフ」言葉を覚えた。その頃には強い情があり、少しづつ言葉を覚えるアルラウネに愛情を感じる程になっていた。


 いつものように散歩に出かけると、自生した薬草にアルウラネの分泌物がかかった。痕跡を消すために薬草を持ち帰った。家に着いて持ち帰った薬草を見るとキノコの草になっていたのだ。

 魔物の分泌物で出来た草が村に影響を与えたら大事だと思い、思い切って村長に相談したのだ。村長によるとキノコの様な草は『霊芝草』という伝説に近い植物である事が分かり、1本でハイポーション100本は作れるほどの薬草で、広く知れ渡ればアラウルネは捕らわれて村が破壊されかねないと考えた。


 そこで、村長はサムゲン大森林の一角にアラウルネの住処として大規模な結界を張ったが強大な魔力を消費し命が尽きた。ウリフは村長を継ぎ、アルラウネの魔力を結界の維持に使いつつ村人と協力して霊芝草の栽培を始めたのだ。

▲ ▲ ▲ ▲


 ベオカは生活できる収入があれば十分なので外部に売らないように芝居をうっていた。 中には僕たちの様に村から探索に出る人がいるが、結界で方向感覚を狂わせて迷うようにしてあった。


 ベオカの秘密は見返り無しで黙っていても良かったが、リリスから立場を平等にした方が村民は安心できると言われ、霊芝草を数本分けてもらう事にした。


 夜になると、秘密を共有する仲間として村長からもてなされた。


 翌日、スカイブ帝国に向けて村を発った。ウリフ老人は馬車が見えなくなるまで手を振っていた。

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