029:サムゲン大森林の魔物

 ベオカは薬草の産地で、森で採取した薬草を使ったポーションはとても評判が良かった。そのポーションを定期的にタマサイ王国に卸すことで収入を得ている。

 ランクの低い冒険者は高価なポーションを買えないので、この森で自生している薬草を採取して回復薬として利用している。


 ベオカに入るにはサムゲン大森林の端を抜ける必要がある。


 森に入ると雰囲気が一変した。木々は深く薄暗い街道。夜には暗闇が包み込み、右も左も視界がゼロになりそうな道であった。

 そんな暗さを吹き飛ばすように、ユニの牽く馬車が軽快に走っていく。辺りには魔獣や魔物、盗賊たちが潜んでいるのが分かった。

 ……魔獣は餌を、盗賊は冒険者の金品を狙っている。


 森に入って早々に、槍を持ち革装備に身を包んだリザードマンが立ち塞がった。全身が鱗で覆われ目は鋭く赤く光っている。少し離れた場所に、魔法陣を描いている魔導士と剣や斧を持った男たちが身構えていた。


 リザードマン(召喚) LV12 離れた男たちのレベルは不明だ。

 メイシンガでも気になっていたが、レベルがマップで確認できる者と出来ない者がいる。理由は分からないが、男たちのレベルは分からなかった。 


「白馬をよこせ。その美しい白馬ならバチ王国のオークションに出せば高値で売れそうだよ。こんな上玉が通るなんてラッキーだな」

 離れた場所で剣を持った男が刃を舌で舐めた。


 クククッ

 (……つい僕は、そのまま刃で舌を切って出血し慌てふためく様子を想像してしまった)


「何を笑ってやがる。この人数に召喚したリザードマンがいるんだぞ。素直に全て置いて逃げた方が身のためだぞ」


「そこの女は俺たちが可愛がってやるから安心して死ね」


「なぎさに死ねって言ったの?」

 リリスのスイッチが入った。怒りのオーラが纏われ強い威圧感が盗賊を襲う。その時の目つきは未だかつてないほど鋭かった。

 掌に黄色い光玉が現れ、回りの力を吸収するかように電気が集まり放電先を探すようにバチバチとしている。


『サンダーディフュージョン』


 黄色い光玉から雷が何本も盗賊を目がけて放電する。リザードマンは消失し盗賊は落雷の衝撃で戦闘不能になり、体を駆け巡る電気によりマヒし身動きがとれなくなっていた。


 盗賊たちはロープでしっかり拘束して道の隅っこに置き去りにした。自警団に引き渡すのが良いだろうが目立ちたくないからだ。


 ……盗賊たちが魔獣の餌にならないことを祈るばかりだ。


 道中には、獣や魔獣が度々現れ、それを撃破していく。

 人型に戻ったユニが自分より大きなハンマーを振り回してみたり、妙に長い剣を使ってみたり長い槍を突き刺してみたり……楽しそうに戦っていた。


 本人曰く「角が戻って戦えるのが楽しいのじゃ」と語った。


 森の中では、自生した薬草を幾つか採取することが出来た。リリスが言うには、普通の薬草で特別ではないのに何故王国が必死になって村のポーションを欲しがるのか理解が出来ないらしい。



▽ ▽ ▽

 ──タマサイ王国を中心に、西のマーマー共和国、北のスカイブ帝国にまたがるサムゲン大森林で初めて薬草のポーション化に成功した村。その製法を知ろうと様々な国から人が訪れ製法を盗もうとするが、村の結束は固くその秘密は守られていた。

 過去のタマサイ王が権力で製法を奪おうと考えたが、自ら全てを燃やしてポーション製作を出来なくしたことにより国政に甚大な被害を及ぼした。その事件から規定数の薬を定期的に納品することを条件に手出しをしない案で譲歩したほど重要な村であった。


「ついたー。ユニありがとう」


「ユニ。ありがとう。ここまでがんばってくれて」


「馬車を牽くのは楽しいのじゃ。いつでもやるのじゃ」


 荷車を厩舎に預けるが、荷車を牽く馬がいないことを不審に思われた。偶然見つけた魔法アイテムで馬を呼び出していると嘘をついたら「凄いのみつけたねー」とあまり深く突っ込まれなかった。

 ……ユニがユニコーンに変身した事実より、魔法アイテムで呼び出すことにした方が危険が及びにくいと考えた。


 村では買い物と情報収集を主におこなう。


 特に食料品は出来るだけ多く買い込む。バックに収納すれば生魚だろうが生肉だろう生野菜だろうが腐らないので問題ない。


 ……そういえば最近はキチンと食事をしている。ベヌスで魔獣の生肉に食らいついていた頃が懐かしい。


 食材を買ったら次は商材。

 旅の目的を商人の交易目的にしている。このメンバーであれば武者修行や冒険者より何をするにしてもやり易いと考えた。その為には商材が必要なのだ。しかし、何をどう揃えば良いのか分からないので、買い付け品をプロの目で見られたら怪しまれるのかもしれない。


 一通りの準備をしたら情報収集だ。情報収集といえば酒場が基本。しかしベオカは小さな村なので、酒場と言っても宿屋に併設している食事処である。


「おー、にーちゃん。この村には何をしにきたんだ」


「はい。薬草が有名な村と聞いたので買い付けに来ました。しかし売っている場所が分からなくて困っているんです」


 にこやかだった村人の顔が一瞬こわばった気がした。


「そいつは運がなかったな。森に巨大で強力な魔物が現れたおかげで薬草の栽培地を荒らして売るほどの量を確保できないんだ」


「そーなんだよな。どこから来たのかそいつのせいでサッパリだよ。国に納品する分でやっとだよ」


「そうそう。退治しようにも腕に自信のある俺たちでも返り討ちだよ。危険だから戦うのだけは止めておけよ」


「そういえば、スカイブ帝国で勇者が召喚されたって噂だな。森のモンスターも狩ってくれないかな」


 見るからに屈強な男たちでも森に出る魔物にはかなわないらしい。レベル20程ある村人でも倒せない魔物というのはかなり強力なのだろう。


 気になるのは勇者の召喚。この世界にも勇者っているんだな。もしかして魔王もいたりして……。勇者と魔王の戦い……不謹慎だけどゲームみたいで心が熱くなった。

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