031:いざスカイブ帝国へ

『スカイブ帝国』

 この世界で最も軍事力がある多様な種族が暮らす大国である。南のタマサイ王国、東のバチ王国と敵対関係にあり、お互いの勢力は拮抗している。

 各国ではこの拮抗を破るべく特殊な力を求めて何年……年十年と捜索活動が続けられていた。


 ベオカを出発したなぎさ一行は、スカイブ帝国へと向かっていた。

 当面の目標は各国を巡り、平和な国で『ふろやマウントフジ』を再開すること。

 出来るだけ多くの人にお風呂の良さを分かってもらうことが目的だ。


 ……その先にお風呂王国を作れたら。 なんて夢物語を考えている。


 鼻歌を歌うユニの馬車に牽かれて街道を進んでいる。

 馬が鼻歌を歌っているのを聞かれたら不審に思われないか気になっていたが、本人が機嫌よく馬車を牽いているので黙っていた。人に迷惑をかけず楽しんでいるならそれが一番良い。


「国境が見えてきたぞ。ユニは絶対に喋らないように気をつけてね」


「分かっているのじゃ。なぎさは心配性じゃの」


 タマサイ王国とスカイブ帝国の国境にあるキサヨウ砦。ここを抜ける必要がある。砦の大きな扉を抜け、兵士に止められる──

「まて! ここはスカイプ帝国へ入る国境だ! 帝国に入る目的はなんだ」


「行商人と旅をしております。スカイブ帝国に商品の買付けに参りたいと思っております。」


 スカイブ帝国では、トーナメント開催前で参加や観戦を目的とした人や、商売を目的とした商人が多く来ることから、許可証が高騰していると言うことだ。

「今なら通常の5倍、白金貨1枚でいいぞ。払わなければ許可は出せない。帰りな!」


「兵士さん。本来は金貨2枚で良いのですよね」

 リリスに違和感がある。何かの魔法が発動しているような感じがする……


「──分かりました。白金貨1枚払います」

 急いで僕はバックから取り出した白金貨1枚を兵士に手渡した。


「タシカニ イタダキマシタ。 コウガクナ キンカ ヲ ハラッテ イタダキマシタ ノデ コチラヲ オモチ クダサイ」

 兵士から渡された許可証はとても立派な封筒に入っている。許可証は『シルバー許可証』と書かれていた。


「ドウゾ キヲ ツケテ タビヲ ツヅケテ クダサイ」 


 無事? にスカイブ帝国へ抜ける国境を越えることができた。


「なぎさ、無事に通れて良かったね」


「リリス、兵士に何かしたの? 何か違和感を覚えたけど……」


「えへへ。分かっちゃった? ちょっとだけ精神に介入させてもらったの」


「リリス。やるのじゃ! 凄いのじゃ! 何か立派なものを渡されておったのじゃ」

 馬車を牽くユニは鼻歌を再開し、上機嫌に馬車を牽いていた。


 スカイブ帝国の道中にあるフクロンに立ち寄った。 ベオカと同規模の村で帝国に向かう者の補給と休憩の場である。


 フクロンでは、食料と素材を補給した。必要な買い物をしている間、馬車を牽くユニの休憩にリリスが付き添い、広場で休憩をしていてもらった。


 広場ではリリスとユニが談笑しながらなぎさを待っていた。 そこへ、パーティーが争っている声が聞こえてきた……


「お前、なんでいつも失敗しているんだよ」

「そうだよ、あんな召喚獣じゃゴブリンも殺せないぞ」

「し・か・も、あの歌は何だ。もう少し効果を上げられないのか!」


 緑色の髪をした女性が3人の仲間から責められていた。話を聞いていると、この女性を含む4人で洞窟に狩りに行った時のようだ。


 戦士、狩人、魔法使いの3人が攻撃役で、彼女の召喚獣が盾となり仲間を守る。負ったダメージを歌で回復というのが基本陣形のようだ。しかし、歌のバフ効果が薄く、回復も追いつかなくなってきた所で召喚獣が撃破され戦線崩壊して逃走したようだ。


「次こそちゃんとやれよ。拾ってやった恩を忘れるなよ」


「わ、分かりました。がんばります。よろしくお願いします」


 責められていた女性が一人残されていた。そこへリリスとユニは声をかけた。

「大丈夫ですか? ずいぶんと責められていたようですが」


「良いんです。私が至らないのがいけないので…… ありがとうございます。もう行きますね」


 彼女はパーティーの元に慌てて走っていった。


「大丈夫なのかな」


「本人が大丈夫と言っているのだから信じるのじゃ」


「ユニ。本人の表面的な言葉だけを信じちゃだめよ。本当は何を思っているのか、どうしたいのかを知る必要もあるのよ」


「リリスはお母さんみたいなのじゃ」


 丁度買い物から戻り、ユニに話すリリスが人差し指を出し手を上下させているのを見ると母が子に説教しているように見え『クスッ』っとした。


 フクロンの食堂で、責められている女性の一件を聞いた。リリスとユニにどっちが正しいか責められてが「もう少し詳しく話を聞いて判断したいね」と、逃げてしまった。


 国境を越えてから道中には冒険者や商人など多くの人を見かける。そのせいなのか魔物の類や盗賊などは一切出てこなかった。



▽ ▽ ▽

 帝国首都への入場は厳しかった。長蛇の列が出来る程、1件1件時間をかけて検閲が行われていた。

 検閲では、荷車はもちろんのこと、バックの中身まで確認された。 バックの中身を見られた時は焦ったが、自分以外がジゲンフォのバックを覗くと違ったものが見えるらしい。


「なんだこのバック、銀貨と本しか入っていないぞ。この程度しかなくて生活できるのか」


 ぶっきらぼうに検閲官に言われたが、『シルバー許可証』を見せると、それ以上は追求されることなく入国が許された。


 街の中は人、人、人、人、人、人で溢れかえっている。

 人間だけでなく様々な種族が闊歩していた。同じ種族でも肌の色が違う等、様々な人々が生活しているようだ。


 帝国に来て最初にやらなければならないのは、ギルドで滞在許可を取らなければならない。 検閲官に帝国で過ごすものは、必ずギルドで滞在許可を取る必要があり、持っていなければ『不法滞在』で罰せられると説明され、仮滞在許可証を渡された。


 ギルドはとても広く、いかにも冒険者の集まる場所という感じがする。 そこに冒険者が所狭しと集まっていた。

 依頼ボードを確認する者、自慢話に華を咲かせている物。情報交換をしていている者、静かに酒を飲んでいる者など様々である。


「いらっしゃい。私はギルドの受付を任されているメリンダと申します」

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