091:海底神殿の行方

 マーハとペリーヌ王女が玄関から入ってきた。どうやら、天界と海底神殿への扉が無事につながったようだ。


「なぎささん、ありがとうございます。おかげで海底神殿と天界の通じる扉が開通しました。以前私どもが住んでいた場所に屋敷を立てました」


「なんだ! お前たちは! この神殿への侵入者か!」


「パパやめて。この人たちは私たちサキュバス族の前の守護者、天女族情報ペリーヌ王女よ」


「その王女様が何の用なんだい…… ここはサキュバス族が…… そうか……ドライアド族に反旗を翻した以上、お役御免って訳か」


「それは~ 違いますわよ~。私たちは~ あなた達を追い出すつもりはありませんわよ~」


「そうです。私たちは、あなた達サキュバス族と共存できればと考えています。サキュバス族5人と私たち天女族で海底神殿を守っていきましょう」



「それでは~ 早速~、この村についてどう作っていくか~ 打合せしましょう~」


 マーハは、ペリーヌ王女と共にガドル、レイナの両親を連れて出ていった。



「リリスは子供のころはどんな子だったのじゃ」


「リリスはねぇ。あまり友人と呼べる人が居なかったのよ。サキュバス族の特性と全く違った適性を持っていたので異分子扱いされていたのかもね」


「でも、レイナちゃんだけは私を偏見を持たないで接してくれてわ。私にとってかけがえのない友人だったのよ」


「だって、リリスだって私と同(おんな)じ普通の女の子じゃない。特別視する方がおかしいと思うのよね。一緒に勉強したり運命の指輪を作ったり……」



「ねぇねぇレイナ。私の運命の人を見つけのたのよ」


 そう言って、僕の腕を掴んで指にハメられた指輪を見せた。指輪に着座する小さな石にその場の人々の顔を映しキラリと光っていた。


「リリスちゃん良いなぁ~。もう運命の人を見つけたんだ。私の運命の人ってどうやって探そう……父さんと母さん、あとは……リリスと両親だけの国で運命の人が見つかるわけがないじゃないー」


 レイナが立ち上がりダダをこねるように地団駄を踏むと、指輪がポロリと落ちた。その指輪を拾った瞬間に指輪が消えた。


キラリッ


 その指輪の石だけが僕の指にある指輪の石の隣にハメ込まれていた。指輪の二つの小さな石が指輪の輝きを増し美しく光っている。


「えっ えっ」


 その場にいる誰もが指輪の輝きを見ながら混乱していた。僕は混乱して、指輪を引き抜こうとするがびくともしなかった。


「わーい。私の王子様が見つかったわ~」


 能天気に喜ぶレイナを裏腹に、どうしてよいのか分からない状況の僕をアカリ。ユニ、ウタハは睨んでいた。


「こ、これは一体……」


「あらあら~ なぎささんは複数の女性を受け入れる器を持っているのねぇ。娘のリリスは嬉しくないかもしれないけど、それほどサキュバス族に魔力を供給することが出来る力を持っているってことなの。 それに、あくまで指輪はお呪(まじな)いだからあとはお互いの気持ち次第ね」



「ユニも指輪を作ってなぎさに持たせたいのじゃー」


「ユニさん。私も指輪を作ったらなぎささんにハメてもらいますよー。折角だからアカリさんも試そうよ」


「ユニちゃんとウタハちゃんが言うなら試してやるかなっ。石はあるから台座となる鉱石を採りにいかないとねっ」



「ママ、運命の指輪を作りたいんだけど、洞窟の鉱石を採掘しても良いかなぁ」


「リリス。運命の指を作る素材は枯渇してしまったみたいなの。この間、見回りの中で洞窟に行った時に『ハートブルマニア鉱石』と共に枯れてしまっていたのよ」



…………



「不公平なのじゃーー。なぎさ! 絶対に見つけ出して、指輪を作るのじゃ!」



「なぎささんはモテモテなのですねぇ。娘のリリスをこれからもよろしくお願いします」


「リリスー。今度なぎささんを連れてWデートしようよ! リリスも一緒にゆっくりと話をしたいし将来の事もはなしたいじゃない。何よりふたりの王子様が同じ人だなんて楽しいじゃない」



 リリスは複雑な気持ちだった。アカリとなぎさが仲良くしているのは許せる。ユニやウタハも姉妹の様に感じているので、それほど嫉妬することはなかったが、幼馴染のレイナになぎさを取られるのだけは許せなかった。



「あっ、仕事に戻らなきゃ。じゃあ、またねー。 ……リリス。今度、未来の旦那様とダブルデートしようねー絶対よ!」


 レイナは颯爽と手を振りながら出ていった。サキュバス族の村を復興するため日々努力しているのだ。



 リリスの心は揺れている。サキュバス族として復興のためにここに残った方が良いのか。でも、なぎさたちとは離れたくない。ここで離れてしまっては、今度、いつ会えるか分からない。一緒に行きたい…… でも、父や母、レイナたちやペリーヌ王女たちに任せてしまって良いのだろうか。


「リリス。無理してここに残ることはないのよ。なぎささんと一緒にいたい気持ちは良くわかるわ。わたしだって若いころはガドルとの恋愛で不安は沢山あったもの」


「……ママ」


「なぎささん、ユニさん、ウタハさん、アカリさん。いつもリリスと一緒にいてくれてありがとうございます。家族の様なあなた達に知っていて欲しいことがあるのよ」


「知っていて欲しい事とはなんなのじゃ?」


「リリス。話してしまって良いわよね」


「ルリさん、リリスさん、そんな重要そうなことを私たちが聞いてよいのですか? なぎささんだけの方が良ければ席を外しますが」


「ユニ、ウタハ、アカリ、あなた達にも聞いて欲しいの」


 アカリは押し黙っていた。何の話かは分からない。でも、私にも関係がある話なのではないかと言う予感だけはしていたのだ。


 ……ひと時の沈黙が流れる。誰もがルリの語りだすのをじっと待っていた。




「実は…… リリスは、本当の意味での私たちの子ではないの」







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