052:レベル1桁パーティーふたたび

 一人の男が仕方無さそうにファイティングポーズを作って拳の合間からこちらを見つめ、右手を前に出してカモンと挑発してきた。


「おとなしく諦めてくれや。俺は、ミスリルランクの拳闘士ウンガだ」


 もう一人の男は剣を担ぎ盾をダランと降ろしている。余裕なのか顎を使ってウンガに『イケ』と言っているかのように指図するが、奴隷商人ナンシに「お前もいけ」と怒号され仕方なしに武器を構えた。


「同じくミスリルランクの剣闘士サンガだ」


 サンガとウンガが身構える後ろで、ナンシを始めとした十数人の集団がニヤニヤしながら盾に剣をぶつけたり高い位置で拍手をしたりと大きな音を立て挑発する。


「こんな所で戦ったら賞罰が付いてしまいますよ」


 キクで領主から聞いた『神の啓示』の話を持ち出すと、ナンシが腹を抱えてリンボーダンスでもする勢いのエビぞりで倒れそうになりながら大笑いをした。


「そんなもん、金の力でいくらでも消せるからな。何を言っても無駄だ! 今なら女どもを差し出せば半殺しで勘弁してやるよ」


 ここまで来たら致し方ない。ウタハに耳打ちでしてサンガとウンガの相手をお願いした。


「ハハハ、お嬢さん1人で立ち向かおうってのか。そっちの男は女に戦わせてブルってやがる。ウンガよさっさとやっちまおうぜ」


 サンガは剣をウンガはナックルを構えて左右に回り込むようにウタハへ襲い掛かる。ウタハは一歩引いて弓の両端を使って2人の攻撃を受け止める。屈んで弓を引き2人が前にバランスを崩したところへ両者の鳩尾(みぞおち)にパンチを叩きこみ気絶させた。

 ──ウタハが弓で攻撃を受けて注目を集めている隙に『変質』でナンシと仲間たちの真下にある地面を丸く突起させて股間に狙い、バレないようにすぐに消失させていた。 


 サンガとウンガは気絶し、ナンシを含む仲間たちは股間を抑えて転げまわっている。中にはあまり効いていない者や恍惚の表情を浮かべている者もいたが、この隙に皆を連れて町を出た。 ……折角お風呂付きの宿を予約していたのに!





 このままバチ王国に向かうと日没までに到着出来ないので、街道の外れでキャンプを設営して夜を明かす。


 ペルシャの屋敷といい、ハッコウといい最近は新しいお風呂から縁遠くなっている気がする。そんな事を考えながら夕食作りに取りかかった。


 小麦粉に食塩水を加えながら良くこねていき、ひと纏まりになったら30分程寝かす。

 寝かした塊を大きな袋に入れて足で踏んでこねると強いコシが出るのだ。これをユニが裸足になって踏んでいく。グニュグニュした踏み心地が気持ちいいようでたくさんの踵(かかと)の跡をつけていた。これを綿棒で伸ばして刀で細く切れば麺の完成。


 出汁は沸騰したお湯に、自作の醤油と砂糖を加えて細切りにしたリト肉とイシ茸を入れてしっかりと煮詰めていく。


 具材はかきあげ。器に卵と冷水と塩少々を入れて良く混ぜたら、小麦粉を加えてをざっくり混ぜる。細切りにした野菜を入れて油で揚ていく。

 仕上げは麺を茹でてしっかり湯切りして器に汁とともに入れてかき揚げを盛れば完成。


 焚火を囲んでうどんを食べていると、キャンプで食べたカレーメンを思い出す。食事は大量に作って好きなだけ食べられるようにしてある。余ってもジゲンフォのバックに保存しておけば非常時に役に立つ。


 この夜はかき揚げを皆で食べまくった。静寂な空間にいつまでも、かき揚げのサクサク音が鳴り響いていた……

 

 食後はやっぱりお風呂。メイシンガのふろやで作った空を見上げられる露天風呂を模して作った。安全対策に柵で囲って脱衣所を作れば完成。


「なつかしーい」 「ふろやの風呂じゃ」


 リリスとユニは『ふろやマウントフジ』を知っているがウタハは初見だ。 ゆったりと風呂に入り、星空を眺めながらメイシンガの良い事、悪い事を含めて思い出話を聞かせた。


「わたしが加入する前の話を聞かせてもらえるのは嬉しいです。そういう話を聞いていると、仲間として認めてもらえたんだなーって気分になります。ただ、ちょっと嫉妬しちゃう部分もありますけどね」


 ……平和だ ……本当に平和だ


 この時間は心が安らぐ。


 この平和が末永く続く場所を求めて旅を続けていきたい。


「うにゃー。頭がふらふらです~ ブクブクブク」


 ウタハが沈んでいる…… 大変だお風呂でのぼせてしまったようだ。

 急いでウタハをお風呂の中から抱え上げ、お姫様抱っこをしたまま荷車に寝かせた。


「こういったドタバタも含めて幸せなんだなー」

 星空を眺めると荷車から聞こえてくるリリスやユニの騒がしい声。そんな声を聞きながら幸せを噛みしめていた。




▽ ▽ ▽

『バチ王国首都』

 ──この世界で一番の商業都市である。街並みは近代的で高い建造物も多い。この都市では商人が経済の起点となっていることか強い権力をもっている。そのため言語でコミュニケーションが取れる人族やそれに準じた種族が多く生活する都市である──


 首都では、ランクプレートの確認をされる。検閲は甘めでスカイブ帝国で作ったランクプレートを見せたらそのまま街に入れた。しかし、この国でも滞在許可は必要で、ギルドに行って手続きするように言われた。


 ギルドは門を抜け直ぐの場所にあった。スカイブ帝国より近代的な建物であるが、中は色調が違うだけで似たような作りであった。


「すいません。滞在許可をお願いします」


 ギルドでは受付嬢マリンが対応してくれた。滞在許可の手続きは、スカイブ帝国と同様にランクプレートに記録する装置で書き込まれる。


『イワヤ ナギサ  LV.1 バチ王国ランク:ストーン  賞罰:帝国シルバー許可証』


『リリス・シフォン・サッキー LV.5 バチ王国ランク:ストーン  賞罰:帝国シルバー許可証』


『ユニ・ツンデ・コーン LV.3 バチ王国ランク:ストーン  賞罰:帝国シルバー許可証』


『ウタハ・ルグリ・ニード LV.7 バチ王国ランク:ストーン 賞罰:なし』


 ランクは各国で分かれているが賞罰は共有されていた。更にユニのレベルが2から3に1つ上がっていた。


「わーい。やったのじゃレベルが1つあがったのじゃ」

 ユニが全身を使って喜びを表現している。


 ユニの叫ぶような喜びが、冒険者たちの注目を誘い冒険者たちの視線を一斉に浴びた。


「あの男レベル1だって……」

「女の方がレベル高いとは恥ずかしいな……」

「あんな男になんで美女が集まっているんだ……」


 そんな言葉が聞こえてきた。やっぱり言われることはスカイブ帝国と一緒だ。2回目ともなれば慣れたもので、気にせずギルドを後にして宿屋を探した。

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