053:バチのオークション

 バチ王国を歩いると、いろいろなお店が並び、露店や特産店が目や鼻を楽しませる。店舗も充実していて、いかに自店の素晴らしさをアピールするようにようにショーケースに並んでいる。陳列されている品々は目を引くものばかりだった。

 

 街には案内所も設置され、目的に応じたお店を案内してくれるサービスもある。始めてくる街の店は善し悪しが分からないので、宿屋を紹介してもらった。


「安心して泊まれる宿なら『水前宿』だね。価格は高いが良心的で良い宿だよ。強い商人が付いているから安全だしね」


 こういった大きな商業都市は、スリや何らかの裏家業の人間が集まり田舎物をカモにすると相場が決まっている。下手をしたらハッコウで絡まれたナンシ商人みたいな者がいるかもしれない。


 噴水公園の前にある『水前宿』は、大きな通り沿いに位置し、青を基調とした西洋風の建物を構えていた。宿は女将と娘の2人で切り盛りしている。

 カウンターの横には、目立つように大きな文字で『第168回オークション開催』と書かれたチラシが貼られている。

 宿娘の話では、バチ王国で定期的に開催されるオークションは、スカイブ帝国のトーナメントと双璧を成す人気イベントだと言う。ただ出場者がメインとなるトーナメントより、観戦者も参加できるオークション方が絶対に上だと力説していた。


 オークションの開催が近いせいもあって、多くの人がバチに集まっているので、予約キャンセルが出た1部屋しか空いていなかった。

 部屋を確保したら、食材や素材の買い出しをしておく。日本みたいに品切れしても数日経てば入荷するわけではないので日頃の備蓄が重要となる。ここは流石に商業都市というだけあって、食材も素材も今まで見たことないものや、かなりの量を買い付けることができた。


 


「なぎさー。暇なのじゃー」

 宿に戻るや否や大きな声が耳を突き抜けた。布団に仰向けに寝転がったユニが手足をバタバタさせている。


 …………


「じゃあ、ちょっとしたゲームを作るから待ってね」

 昔遊んだゲームを思い出しながら『変質』を使って作っていく。

 ──直方体のパーツを銅板で54本作る。それを3つずつ交互に並べて積み上げて塔を作っていく。参加者が順番に好きな場所から1本ずつ抜いて山を崩した人が負けというゲームだ──


 名付けて『ジャンガラ』



 ガシャン!  ──ユニは繊細なゲームが苦手なのか、銅板の塔を崩しまくっている。


「もう一回やるのじゃ、もう一回やるのじゃ」

 ジャンガラはみんなを熱くさせていた。銅板の塔を見つめる眼差し、銅板を抜く震えた手、べったりと手にかいた汗。いまだかつてない緊張感がジャンガラというゲームを舞台にして繰り広げられていた。


 こういった集中力を必要とするゲームはリリスが非常に強い。せっかちなユニは銅板を一気に引き抜くので崩してしまう。ウタハには困難に挑戦したいタイプなのかあえて難しいところを抜きにいく。


コンッ コンッ コンッ


「お邪魔します。お食事の準備が出来ました。1階の食堂に…… なんですか、それは?」


 宿屋の娘が営業モードから素に戻ったのか、小走りで近寄って四方八方からジャンガラをのぞき込む。 興味津々だった宿娘に、ジャンガラのルールを説明した。


「一回やらせて下さい!」


 リリスvsユニvs宿娘 女の戦いが始まった。


 安全に銅板を抜いていくリリス。宿娘は迷いながら手をフラフラさせて抜けそうな所を探してから抜いていく。ユニは食器の下にあるクロスを一気に引き抜くように銅板を抜いていく。それぞれの性格が見事に現れた対決となった。


……ガラガラガラ ガッシャーン


 これまでの経験の差が出たのか宿娘が塔を倒してしまった。頭を抱えて悔しがっている宿娘。「もう1回だけやらせて下さい!」とお願いしたところで、下の階から大きな声が聞こえてきた。

「タリナー、何やっているのー。早く食事の準備をしなさーい」


 宿娘タリナは、『いけねっ』と言いながら舌を出す。


「ゲームってやったことないですが面白いですね。この街のオークションは珍しいものが高値で取引されるんですよ。ジャンガラを出品してみてみたら人気が出るかもしれませんね。私が申し込んでおきますね」


 宿屋の娘は颯爽と部屋を出ていった。僕にとってはありきたりのゲームで、オークションへ出品すると言われてもピンとこなかった。どんな商品がオークションに並ぶのかが気になって、タリナの申し込んだオークションはそのままお願いしてしまった。


 ……ジャンガラをもう何組か作っておこう。



▽ ▽ ▽

 オークションは3日後、中央広場にある大講堂で開催される。事前に出品物の審査を受けてオークションに相応しいか評価される。


 事前審査は価値によってランクA、B、Cの3段階と出品不可で評価される。

 AかBの評価が貰えればアリーナ席の観戦券が与えられるので、B評価以上となるように審査官へのアピールも力が入っている。銅板積み上げゲーム『ジャンガラ』は、まさかの『B』評価だった。木工製でなく銅板製というのが評価されたようだ。


 審査中に、いまだかつてないレアアイテムを持参した出品者がいると大騒ぎしていた。あまりにも貴重過ぎて『ランクS』という評価が新たに追加されるほどの大発見らしい。その審査会場が離れていたのでどんなものなのかは見ることができなかった。


 

 審査が終わると、出品物を会場に預けてくることになっているた。その夜は、『ジャンガラ』をリリスたちが遊べるようにもう1個作ってから酒場へ情報収集に向かった。


『今度のオークションには超貴重なアイテムが出品された』

『グレイブ王国のトーナメントでレベル1桁台パーティーが優勝した』

『イナバ湖付近で絨毯にのった女の幽霊が目撃されていたが、急に無くなったので成仏したのだろう』


 そんな噂が酒場を賑わしていた。と、いうか2つは僕たちに関係がある噂だ。1桁台パーティーいえば『チームなかよし』。絨毯に乗った女の幽霊って『ペルシャ』のことかと…… この2つの噂は置いておいて、貴重なアイテムについての話を集める。


『運が良ければ百年に一度見つかるかもしれない生き物。その生き物を見つけた者は人間を超える力が得られるという』そんな噂だった。人間を超える? 一体どんなアイテムなのか気になる。何百年に一度と言われると、プレミア感が満載で僕の心がくすぐられるのは日本人だからであろうか。




 ──そしてオークション当日の朝を迎えた


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