054:手に汗握るオークション

 ──オークション当日


「ユニー!いつまで寝てるの!。もう行くわよ」

「待ってくださーい。わたしもまだ髪を梳かしてないですぅ」


 いつものバタバタした朝を迎えて会場に向かった。

 

 ジャンガラは会場に預けてある。審査を受けると出品が確約されるので、評価後の価値を知って取り消されたり、逃げられないようにする措置だ。それと当日持参する時に奪われないようにする配慮もある。


 この国は上位商人が連合を組んでギルドを結成している。バチ王国は国王制なので王が国を統治しているが、実質の支配は上位商人で国政を握っている。

 そういった事から、王族や爵位を持つ者はこの国の守衛として動き、商人たちに税金という形で雇われている構図となっている。


 オークションはギルド大ホールで開催される。オークション会場への入場には厳密な手続きが必要となるが、出品者は評価ランクによって座席が優遇され、優遇さらた者は専用入口を介して入場する。


 一般参加者は、支払う金額によってアリーナから立見席まで選ぶことが出来る。 千人規模の入場者数となるので、大切なギルドの収入源なるのかもしれない。

 会場に向かっていると、手前の区画まで長蛇の列が伸びており、オークション人気の高さがうかがえる。


「頑張って高く売るのじゃ」

 

「そうは言っても、銅板を積み上げて引き抜くゲームだよ。さすがに出品するのは恥ずかしいな」

 ジャンガラを出品するのは恥ずかしかった。日本のおもちゃである木板を積み上げて引き抜くゲームを銅板にしただけの物である。当たり前の物を皆に自慢しなければならない気分だ。


「大丈夫。面白くてハマるゲームはそうそうありません」


「うん。大丈夫ですよ。徹夜でやっても飽きないですから」


 会場は中央にあるステージを中心に、座席が放射状に広がっている。入口で渡されたプレートに記載されている座席番号は、アリーナ席のステージ裏側。座席からステージを跨(また)いだ前方には、煌(きら)びやかな服装をした御仁達が座っていた。


 オークションは、ランクC→B→Aの順に実施され、最後にオークション初となるSランクがお目見えする。



 軽快な音楽と共に複数の照明が観客席をぐるっと照らし、中央のステージに集まった。同時にステージの下から燕尾服を来た男がせり出す。


「さーみなさん。お待たせしました。本日のオークションを仕切らせていただきます、マシロ商会広報担当『メギラ』と申します。このオークションでみなさまの宝物が見つかる事を祈っております」


 入札方法は、入場時に貸与したプレートに手を触れて声を出すと、ステージ上方にあるスピーカーから会場全体に声が広がる仕組みとなっている。

 その仕組みで金額を言い合って出品物を競い、入札する者がいなければ、最終提示者が購入権を得る。購入権はキャンセル不可で払えなければ法的な措置が執られると注意があった。


 ──Cランクは全60品──

 ミスリル、オリハルコンなどの珍しい鉱石を始め、一般的な鉱石で作られた武具のハイクオリティー品やハイポーションなどの治療薬をダース売りなどアイテムの大量出品が目立った。

 その中から、オリハルコン、ミスリル、プラチナなどの鉱石を無理のない範囲で購入。鉱石は加工できる者以外には無用の長物となるので、人気が薄く比較的楽に競り落とすことが出来た。



──Bランクは全30品──

 数年に一度店先に並ぶかも?というものや、誰も見たことがない、価値よりも貴重品といった類のものが出品された。Cランクより価格が低くなるものも多い。


 僕が出品したジャンガラは予想に反して人気だった。銅板を加工したことが良かったようで、材料が木片だと木工職人が簡単に真似て作れるが、銅板であればそうはいかない。安全用につけた角の丸みが技術的に評価された。

 子供にねだられた両親や技術的に参考にしたい職人、転売できると踏んだ商人で争われた。結局は金に物を言わせた商人に大白金貨 1枚で落札された。


 ──Aランクは全10品──

 固有名詞を持つ伝説級の武具やアイテム、霊芝草もその中に含まれていた。


 手を出したのは『新緑の炎を包む緑の宝石』。青魔人の宮殿で黒と赤の2色の宝石をいただいたので、同系統の宝石を何としても手に入れたかった。


 さすがにAランクともなると簡単には落札できない。ミスリル貨1枚…… 2枚…… ミスリル貨2枚と百金貨1枚…… どんどん競り上がっていく。ジャンガラを競り落とした商人と一騎打ちになった。最終的にはミスリル貨5枚で競り落としたが、ここまで戦えたのは青魔人の宮殿でいただいた財宝のおかげである。


 思わず立ち上がってガッツポーズをしてしまった。手は汗まみれでもわっと湯気が出ている。横に座るリリスたちも体を前のめりにさせ真剣な表情で見つめていた。


「いやー。かなりのお金を使っちゃったよ。やっぱり欲しいものがあると熱くなっちゃうね」


「なぎささん。大丈夫なのですか。そんな大金払えるのですか?」

 不安そうな顔になりオドオドと心配しながらウタハが声をかけてきた。普通に考えたら一般人がオークションで使う金額ではない。感覚的にはちょっとした高級車が買える金額だ。


「大丈夫だよ。青魔人の宮殿でもらったお金と今までコツコツと貯めてきたお金で支払うことが出来るよ。落札した宝石はどこかできっと使うと思うんだ」


「なぎさ、そんなにお金があるなら、今晩は贅沢させるのじゃ」


「いいね! なぎさ。たまにはいいでしょ」


「そうだね。今日の夜はみんなの好きなものを食べよう!」


「わーい (なのじゃ)」  ──みんながハモった



「さー。とうとう来ました。オークション初のSランクです。これは、伝説級の逸品。数百年前の文献で1度だけ見つけることが出来た品なのです。みなさま心してご覧ください」


 ──バチ王国初のSランクのオークションが始まった





【物語解説】

 『ジャンガラ』は大白金貨1枚なので日本円で50万円。『新緑の炎を包む緑の宝石』はミスリル貨5枚なので日本円で500万ほどです。


 今更ですが硬貨の設定です。 ※イメージとして掴みやすいように日本円換算にした大体の価値です。 

 ミスリル貨 1,000,000

 大白金貨  500,000   白金貨 100,000

 大金貨  50,000   金貨 10,000

 銀貨  5,000

 大銅貨  1,000   銅貨 500

 賊貨   100   釖(とう)貨   10





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