055:強さのひみつ
「とうとうこの時が来ました。王国初! Sランクの登場です。伝説級を遥かに超えた…… そう。文献に1度しか登場していない逸品です。みなさま心してご覧ください」
──バチ王国初のSランクオークションが始まった
会場の中には、割れんばかりの歓声が沸き上がった。興奮した1人がプレートを介して会場全体に雄叫(おたけ)びを響かせると、釣られるように広がってしまい運営側が注意する一幕もあった。
ステージ下から、屈強そうな衛兵に挟まれたガラスケースがせり出してきた。ケースの中ではピンク色の拳大程のスライムがプニプニと跳ねている。
今までの大歓声が嘘のよう静まり返り、時を止められたかのような静寂が会場を包む。
「「なんじゃあれー」」
ユニの大声が観客の時間を取り戻す。客席のあちらこちらでガヤガヤが広がった。
(……このピンク色のスライムをどこかで見たことがあるような)
ステージ中央で客席を見渡しているメギラは、ニヤニヤしながら観客の反応を楽しんでいる。
「そう。その反応が欲しかったのです。これほどにまでに知られていないからこそのSランクです。とはいえ、この状態でのオークションは難しいので、まずは説明させていただきます」
──古い文献に1つだけあった記録……
数百年前に書かれた文献で、数多(あまた)の魔人を討伐した『英雄レイ』の話である。
レベル30台だった修業時代に、いつも通り魔獣と戦って戦闘技術を磨いていると、天からピンク色のスライムがフワフワと舞い降りて魔獣にくっついた。
初めて見るスライムがとても美しく、捕獲してペットにしようと考えて魔獣を討伐したら、魔獣と一緒にスライムも消えてしまっていた。 ……倒した時に体に違和感を覚えたという。
レベルの確認スキルを使うと『レベル55』の表示。人間の到達限界とされる、レベル50を遥かに超えていたという…… その力をもって、伝説の英雄になっていくストーリーであった。
「他では絶対に手に入らない、一生に一度あるかないかのチャンスをくれた『ゼロ』に感謝します。それではオークション………… スタート」
─ (回想) ─ ※009話
……気になることが1点だけある。この地に足を踏み入れてから思っていたが、魔獣のどこかしらにピンク色の塊がくっついているのだ。特に何も害はないし倒すと消えてしまうのだが……
─ ─ ─ ─
(……思い出した! このピンクスライム、ベヌスで魔獣と戦っていたときに、気になっていたピンクの塊だ! 僕は全く戦っていなかったけど、そのスライムの経験値が糧となってレベルを上げていたのか…… それなら僕の力にも説明がつく…… )
「なぎささん。ボーッとして何かあったんですか? 物凄い汗をかいていますけど」
「大丈夫。何でもないよ」 (……今はオークションを見守ろう)
説明を聞いた参加者は、どう値段を付けて良いのか迷っているようで、少しづつ金額が上がっていく…… ミスリル貨1枚まで上がった所で、戦士風の男が値を一気に吊り上げた。
「ミスリル貨5枚。俺は英雄になるチャンスを、みすみす逃さないぞ!」
余計な言葉を付け加えたせいか、そこから競りが盛り上がり、入札の応酬が始まった。
ミスリル貨10枚、11枚、12枚、13枚…… ここまで来ると、白金貨単位で上がっていく。 入札金額は留まることを知らずメギラは競りを一時中断してしまった。
「入札額が高騰しすぎてしまったため、時間を空けて再開いたします。しかし、この状態で競ることは適切ではないと判断し、ミスリル貨10枚以上の入札方式に変更して再開します。参加希望者はギルド特別室までお越しください」
保留という形で締め括られ、不完全燃焼のままオークションは幕を閉じた。僕たちは、オークションの支払いと受け取り手続きのため、指定された部屋に向かった。
購入品の代金を支払ってアイテムを受け取る。そして出品物の落札金額から10パーセントの手数料を抜かれた代金を受け取った。
「君は、Aランクの商品を落札してたよね」
恰幅(かっぷく)の良い男が声をかけてきた。ターバンを巻いた、いかにも商人ですと服装だけで紹介出来る男だ。指には高価そうな指輪をたくさんはめている。
「私はモールス。君の銅板を買い取らせてもらった者だよ。それにしてもこの加工技術は素晴らしいものだ。どこで手に入れたんだい」
商人は腹積もりを悟られないように銅板の出所を探ってきた。さすがに一流の商人である、顔色一つ変えず雑談のように情報を得ようとする。
「私はなぎさと言います。行商の旅をしており、とある場所で買い付けました。場所だけはご勘弁願います」
「はっはっは。そうかそうか。まあ良い。そこで君も挑戦してみてはどうかな。この情報は銅板のおまけだ」
モールスの情報とは、ハッコウの遺跡で秘宝を見つけてはどうかというもの。この王国にいる商人が、人を雇ったり奴隷を使ったりして我先と探し回っている。
この秘宝を見つけてギルドに納めれば、この国での強い権力と一生贅沢できるお金が手に入るというものであった。
「じゃあ、私はピンクスライムの入札に行くから失礼するよ」
それにしてもピンクスライム…… 僕の糧になっていたのか…… あの時は数えきれないくらい倒した。実際に倒したのはアナウスだから、僕とアナウスに経験値が入っているなら、僕は絶対にアナウスには勝てるわけは無い。しかし『アクデーモン』となったアナウスを退けた…… 一体どういうことなのだろう。 いくら考えても分からなかった。
【物語解説】
なぎさの言った通り討伐した魔獣の経験値と、ピンクスライムの経験値が蓄積されて強さを得ていた。アナウスは実体を失っており、魔獣の血を吸収していたので、経験値は全く入っていなかった。
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