056:葛藤する人、格好つける人
僕は1人で荷車の中にあるお風呂で考えていた。
ピンクスライムのことが頭から離れない。あのスライムを倒せばもっともっと強くなれる……
ピンクスライムのいるベヌスに行くには、ど「うするんだろう…… ピンクスライムのいるベヌスに行く方法は……」
「ベヌスでも見かけるのは稀でしたよ。守護隊にいたとき一度だけ見ました」
心の中で考えていたのつもりが、途中から声に出ていたらしい…… ん! いつの間にか全員湯船に……
せ、狭い。鍵を閉めて1人で入っていたはずなのに。
「こらー。何1人の世界に入っているのじゃ。みんなの相手をするのじゃー」
お風呂の中でユニにくすぐられてしまう。くすぐられるのに弱いので、暴れるように湯船の中で手足をバシャバシャさせてしまった。
「ぐぅぁぁぁぁ」 ──ボコボコボコボコ
「ハァ、ハァ、ハァ……」
(……ふぅ、溺れ死ぬかと思った)
逃げるようにお風呂を飛び出し、服を着るのも中途半端に部屋まで一気に駆け上がった。急に3人が裸でお風呂にいたこと、くすぐられて暴れてしまったことを思い出して悶絶してしまった。
部屋に戻り、衣服を直し気を取り直す。一息付こう窓際の椅子で夜空を眺めていると、いつの間にかベヌスへの行き方を考えていた。
あの時は泥船が沈んで気づいたら海底神殿にいたんだよなぁ。そこで転移門を使って「ベヌスに渡った。やっぱり海底神殿への行き方を考えなくては。……うーん。さっぱり行き方が分からないや」
「マーマー共和国に海底神殿の行き方が伝わってると聞いたことがありますよ」
ウワァァ
また途中から声が出ていたようだ。心の声に返答されたようで大声を出してしまった。
「まま、ま、まぁマー共和国?」
素っ頓狂に返事をしてしまった。立て続けにビックリしたことで、心拍数が大きく上がり、ドキドキする自分の心音がリリスまで聞こえるんじゃないかと思うほど高鳴っていた。
「ええ。長老から聞いたことがあるの。マーマー共和国に住むある種族がサキュバス族の前の守護者だったそうで、いつでも戻ってこれるように、その種族に海底神殿へ渡る方法が伝わっているという話なの」
「それなら、その種族を探しにマーマー共和国へ行ってみよう!」
マーマー共和国までの道のりは長い。バチ王国からヨハマ連邦を越えていく必要がある。その前にやらなくてはならないk……
チュッ
温かく柔らかい感触が唇に触れた。気づくと目の前に困ったような顔をしたリリスが見つめていた。
「そんなに考えすぎないで。わたしはなぎさの味方よ。大変だと思うけど、みんな仲良く気楽にいきましょ」
「わたしは、じゃなくて『わたしたちは』です」
「ユニもいるのじゃ」
ウタハとユニが扉からひょっこり顔を出していた。そこからチューしただのと騒がしかったがすっかり元気を取り戻すことが出来た。
▽ ▽ ▽
今、僕たちはハッコウにいる。
──(回想)──
「夢枕で、ドリアラが色の力を回収しないと国のバランスが崩れて世界に混沌を…… というのも気になっていてね」
「それでは、わたしたちで回収してしまうのはどうでしょう」
─ ─ ─ ─
色の力を回収するため、ナンシ奴隷商人のせいで泊まれなかった宿に来ていた。
あろうことかウタハに護衛(サンガ・ウンガ)を倒されたナンシも滞在していたのだ。こちらからアクションは仕掛けず、見つからないように行動しないとならない。
同じハッコウにいる限りどこで絡まれるか分からない。リリスたちを部屋に残して情報収集へ向かおうとしたが…… 置いていかれる事に気づいたユニが不満を爆発させた。
「いやなのじゃ、いやなのじゃ。閉じこもりはいやなのじゃ。連れて行くのじゃ、連れて行くのじゃー。美味しいものを食べるのじゃー」
「ユニ落ち着いて。ちょっと待っててくれれば新しいゲームを作るから」
直ぐに作業に取り掛かった。ユニたちはその様子をじっと見ている。そして作ったゲームは『シウ(うし)返し』というもの。8×8の格子状のマスが書かれたボードと、マスの大きさに合わせた表裏白黒で分かれた円盤を64個作る。
自分の色を決めて、順番に相手の色を挟んで取り合う。挟んだ円盤を自分の色にひっくり返して、最終的に色が多い方が勝ちというゲームだ。
これに喜んだユニは、早速ウタハに挑戦状を叩きつけていた。
酒場は活気に包まれ、漢たちがジョッキを片手に持って上下に振りながら歌っている。漢たちに負けじと豪快に酒を飲んでいる女性、夢中で食事に食らいついている者、静かに語り合っている者など沢山の人で賑わっていた。
聞き耳を立てると、情報というより発掘での愚痴や自慢話がほとんどであった。「今日は何々を見つけたとかぞ」とか「でっかい魔獣を倒してやった!」などの話に花……というより多肉植物が咲いている。
気になった情報といえば、秘宝を持ち帰ってギルドに届けると、公爵家の一員に取り立てられるというどこかで聞いたような話や、遺跡の中の温度が急に暑くなったり寒くなったりするという話しだった。
これ以上の有用な情報は得られないので宿屋に戻った。酒場を出たところで男が待ち構えており、ぶっきらぼうに声をかけてきた。
「おい。おまえ、なぎさだろ」
振り返ると、見知った顔でそこにいた。ウタハが倒したナンシ奴隷商人の護衛、剣闘士サンガである。
「なんでしょう。これから宿に戻るのですが」
「格好つけてるんじゃねぇ。戦乙女のいないお前は格好だけだ。戦乙女パーティーを倒せば名があがる。俺の恰好良さも上がるってもんよ」
初めて会った時もそうだが、サンガは格好の良さを気にするようである。髪をかき上げる仕草や、ポーズを作るような大袈裟な行動が多い。
格好を気にする割には、負けたウタハがいない時を狙って挑んでくるなんて全然格好良くないぞ! ……などと言えるわけもなく。
『変質』を使って足元の摩擦を限りなく小さくして滑らせた。
ツルン ……… ドスン ──少し傾斜をつけたのが良かったのか転ばせることに成功した。
チャンスとばかりに一目散に逃げた。ここで戦ったとしても、結果として勝っても負けても良いことはない。サンガは何か叫んでいたが気にしないで逃げた。
宿に戻ると、シウ返し大会が開催されていた。勝敗の記録用紙を見ると50試合……随分と回数を重ねていた。3人の強さを見るべく1勝負ずつ挑んだ。
「なぎさ、強いね。なにか戦略があったらこっそり教えてちょうだい」
「なぎさ、ズルをしているのじゃ」
「なぎささん、強すぎます。どうしてそんなに色を増やすことができるんですか」
オセロの基本。端を取ることを実践しただけで圧勝した。やはり皆は素人戦法、多くの色を返せる場所を狙っているだけなので、これでは僕に勝てるわけがない。
ほのぼのとしたやり取りが明日への英気を蓄えつつ夜は更けていった。
……「勝ったのじゃー」 ……「負けてしまいました」
(……早く寝なさい)
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