057:遺跡のぴぃ
──ハッコウ遺跡
遥か昔、この辺りを治めていた領主が、兵器試験や爆破実験によって大地を無下に扱ったことで、神の怒りに触れ滅ぼされたとされる城跡である。
珍しい金品を宝物庫に集めていた領主であったので、侵入者が多く対策を継ぎ足して講じた結果、複雑な地下通路になったといわれている。その全貌は現在も掴めていない。
「うわー。ここがハッコウ遺跡か」
繁栄を物語る大きさの城壁は崩れ落ち、苔が生えた石垣が広がっている。 城へと続く道は、瓦礫によって塞がれてしまっている。
崩れた城壁の中には、沢山の発掘者や冒険者が準備を整えていた。多くの人混みをかき分けて奥まで進むと、崩れた宝物庫の中に地下へと続く階段が伸びている。
探索を終えて地下から戻ってくる者の中に、疲れ果てた者や怪我をしている者も少なくなかった。
その中には、昨夜に襲われそうになった剣闘士サンガもいたが、こちらに気づいても心の準備をしているのか絡んでこなかった。それほど遺跡探索は危険が大きいのだろう。
人の合間を抜けて地下階段を下りていく。冒険者たちの横を抜けるときに、パーティーメンバーが男1人に対して他が若い女性だったのが気に入らないのか、盛大な野次が飛び交った。
「どこに行っても野次が飛び交いますね」
「前に受付の人からも言われたことあるけど、諦めて気にしないようにしてるよ。ウタハも気にしないようにね」
回りがザワザワしだす。「ウタハ!」「あの戦乙女か!」などの言葉が飛び交ったかと思うと一気に静かになった。
宝物庫の地下は、所々が崩れていたり印が付けられているが、正方形が続いているようなキレイな通路だった。地下通路は問題なく奥へと進むことが出来る。いくつかの分岐点を越え、時折出てくるレベル15程度の魔物を倒しながら最奥に向けて進み続けた。
恐るべきは分岐点の多さ。作った人が目的地に辿り着けるのか心配になるほど多い。探索者にとっては『砂の中から金』を探すようなものだ。
分岐点には冒険者が付けたであろう目印で壁は削られ判別不能になっている物も多い。天井の隅に分かりにくく『変質』で突起を付けておけば壊されたりしないだろう。
道に迷いながら目印である突起を出したり消したり、行き止まりに差し掛かっては戻り進んでは戻りの繰り返しであった。
「こういう迷宮みたいな作りって、入り口付近にショートカット出来る隠し通路とかあったりしないんですかね」
……ウタハさん素晴らしい考えです。全く考えていませんでした。
もうかれこれ3時間程進んでいる僕たちにとっては、戻るべきか進むべきか非常に迷うところである。
何時間も歩いていると気づいたことがある。正解と思われる道を進んでいくと、少しづつ魔物のレベルが強くなっている事に……。入口付近の魔物よりこの辺りの魔物の方がレベルが高くなっていた。
ここが色の力が眠る迷宮だとすると、以前のファザリアみたいに自分たちを高めるダンジョンなのではないかと考えられる。しかし、灰の迷宮で最終階まで辿り着いた勇者パーティーが、最下層の魔物に全く歯が立っていなかったことを考えると何らかのルールがあるのかもしれない。
「いい加減に同じところをグルグル回ってるだけなのじゃー。この風景も見飽きたのじゃー」
「ユニ。こういう迷宮は同じ景色を作ることで迷いやすくしているのよ」
「そういう話じゃないのじゃ」
「まあまあ、着実に前に進んでいるのですから落ち着いて下さい。今までもみんなで乗り越えてきたじゃないですか」
ユニは頬を膨らませて、大きな足音を立てながら付いてくる。あまり納得がいっていないようだ。
……そして、もう何十回も見た行き止まり。
「もー、嫌なのじゃー」
ユニが角を巨大なハンマーに変形させて、突き当りの壁を力任せに叩きつけたた。
ドッカーン…… ガラガラ……
大穴を空けた壁の奥に、一直線に伸びる通路が広がっていた。
「なんじゃこれー。壁の奥に通路があるのじゃ」
「すごいじゃないユニ。でも、全体が崩れて生き埋めになったら危ないから、いきなりはやめてね」
「隠し通路があると分かっただけユニはお手柄だね」
「わーい。なぎさに褒められたのじゃー」
ぴぃぴぃぴぃ
ユニを褒めつつ壁を越えると何かを踏んだ気がした。足元には20センチ程の紫色のミニゴーレムが潰されている。短い手をバタバタさせてその場から脱出しようと一生懸命に体を動かしている。
ミニゴーレムは『ぴぃぴぃ』鳴きながら、ユニが壊した壁と一緒に地面に溶けるように消えていった。
(……紫色、溶けるように消える…… 変質…… の能力は紫の力……)
今日の僕は頭が冴えていた。『紫=変質』 何者かが紫のミニゴーレムを使ってあちらこちらに壁を作り出し、侵入を防止していたんだ!
これに気づいたとき、僕の真下に魔法陣が描かれた。
「みん──」
「なぎさ。どこに行ったの!」
▽ ▽ ▽
見渡す限り暗闇が広がって何も見えない場所にいた。
『燃料湧泉』を使った照明を作って辺りを照らすと、だだっ広い巨大な広間が光によって照らし出される。四方どこを見回しても壁が見当たらない。
ここはとても快適な温度で、エアコンでも使っているように室温が一定に保たれていた。
「お主、変質の力を知るものであるな」
声の発する方を見ると、金色の髪、白いチュニックに一枚布を巻いた10代後半にしか見えない女性が立っていた。
「わらわのゴーレムを見破るとは、私が護る『茶の守り』を授けられる資格者か」
「私はなぎささといいます。変質の力は、ヘルメスに譲ってもらったものです。資格者かどうかは分かりません」
「うむ……紫の能力者であったか。それでは、茶の守護者であるレアーがお主の力量を見定めようぞ」
チュニックを着た女性は消え、部屋の空気感が変わった。急激に暖房の設定温度を上げたように温度が上昇していく…… 暑い ……いや、熱い。それでも更に上昇を続ける。
水の力を氷化して、自身を囲うように壁を作った。徐々に溶ける氷壁、上がり続ける温度との戦いであった。とは言っても厚めに張った氷の壁が、僕の周りの空気を冷やして凍えそうなほど寒かった。
▽ ▽ (なぎさが連れ去られた同時刻) ▽ ▽
「なぎさー」
「なぎさーどこなのじゃ」
「なぎささん。どこに行ったのですか」
魔法陣に包まれてなぎさが消えてしまった。3人はその場をクルクル回るように探している。その場を行ったり来たりしながら、あたふたしているだけだった。
今まで、なぎさと別行動をとったことはあっても、見失うという経験をしていなかった3人は何をどうして良いのか分からず混乱していた。
「わたしがしっかりしなくちゃ。とりあえず、この壁を全て破壊して見通しをよくすれば、なぎさが見つかるかも」
巨大な魔法陣を描き、風魔法の準備に入るリリス。
「ユニがやるのじゃ」
角を破城槌に変形させて壁を破壊しようとするユニ。
「いえいえ、わたしがやります」
ツルを何本も召喚して、床をペシペシさせているだけのウタハ
みんなが混乱していた。
『まあ、まてまて。今はお主たちの主(あるじ)は試練を受けているのでな。もう少し待っておれ』
3人の頭にレアーの声が響き渡ると、強制的に小部屋へと転送された。
小部屋にはテーブルと椅子が置かれ、お茶とお茶菓子まで用意されている。室温が適温に保たれ快適な空間だった。
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