022:とらわれた少女

 魔法陣の中心には拐われた女の子が意識を失い横たわっている。


 僕たちは女の子の事を知らないし、女の子も僕たちの事を知らない。助ける義理なんてないのかもしれない。しかし、犯罪に巻き込まれた少女を放っておくことなんてできない。


 ……しかしこのシチュエーションでなんと声をかけて姿を見せたら良いのか考えてしまう。


「女の子をどうするのですか」

 リリスが僕を引っ張り男たちの前に姿を現した。


「なんだお前たちは」

 頭に刺青のある武闘着を着た男が奥から出てくる。いかにも『全て俺の拳で……』みたいな親玉的な存在であった。


「その女の子に何をするのです」


「この女は大事な生贄だ。魔人の力を復活させてこの国を支配するのだ」

 低い声で笑っている。よっぽど自分に自信があるのだろう。


「この場所は魔物が多く魔除けの鈴がなければ人間なんぞに入ってこれないはずだ」


「偶然だと思います。魔物なんてモンスターはいなかったですよ」

 そう魔物なんていなかった。僕たちが倒した魔物にはそれぞれに名前がある。


 (……魔物という名前のモンスターはいなかった。うん嘘はついていない)


「おいっ」

 ──親玉が魔法陣の周りにいる魔導師に合図した。


「はっ!」

 ──魔導師は魔法の詠唱を始めた。


 魔導師の足元に魔方陣が描かれる。

 そこには数十体にも及ぶスケルトンが召喚され、カタカタと音を立てて僕たちに向かってきた。


 僕にはモンスターの群れ殲滅する技が一つ考えていた。

 

『変質』で、地面の表面を薄く残して下に穴を掘るように素材化して土を抜き取る。いわゆる落とし穴を作ったのだ。


 先頭を走るスケルトンが落とし穴の上を走り抜けると地面が抜けて落下する。後ろから追従するスケルトンも地面の穴を広げるように続けて落ちていった。


 知能の低いモンスターであればこそ出来る技である。


 穴の中でうごめくスケルトン。僕は穴に向かって岩の塊を天井近くの見えない位置に『変質』していくつも作り、スケルトンが落ちた穴に向かって隕石の様に落とした。


 スケルトン全滅。


 思い描いた通りに技が決まりドキドキしていた。


「こんなところに落とし穴があるなんて…… しかも落とし穴に落ちた衝撃で落石があるなんて運は僕たちに味方しているようだ」


 親玉を始め、配下の者たちも信じられないような顔をしていた。

 ……まあ当然だろう。


 親玉やメンバーがあっけにとられている隙に、リリスが精神に介入する魔法『スリープ』を仕掛けていた。


 リリスから広がる青い霧が親玉たちを包み込む。


 親玉には効果がなかったが配下たちは睡眠状態に入っていた。


「全員は無理でした。やっぱり私は精神系の魔法は苦手です」

 リリスは頭を掻きながらペロリと舌を出した。


「おまえらー」

 親玉が怒り狂ってこちらを睨み付けている。


 親玉は気を練るように力を溜めると、体の周りに黒いオーラが纏われる。纏ったオーラを一気に開放すると、その場から黒い靄(もや)が配下に向かって伸びて包み込んでいった。


 配下を包み込んだ靄は生命力を吸いとるように濃度を増していく。吸い取られている者は逆に生命力が減ってしぼんでいくのが見えた。

 ……最終的には全ての生命力を失ったように消失していった。


 その靄を通してエネルギーが吸収されるように親玉へ流れ込み、力が集まっていくのを感じた。

 全ての靄を吸収すると親玉の体を突き破るように変形していく…… 大きな角、額に六芒星。ヤギの顔をした魔物がとなった。


「我は魔人エリファス。魔神サタン様に仕える魔人である。そこの人間。お前たちは厄介な存在だ。私の力を復活する計画を邪魔しおってぇ」

 親玉は魔人となりこちらに敵意を向けている。


「お前たちの血をもって魔法陣を起動し、その少女の生贄によって力を復活させてやる」


 『魔人エリファス Lv50』


 自分のレベルがいくつなのか。リリスのレベルはいくつか分からないが全力で戦わなくてはならない。相手のレベルに惑わされてリリスに何かあったら後悔しか残らない。


 アクデーモンを貫いた水の力で先制する。しかし水の力はエリファスに吸収されるように消失してしまった。


 追撃するようにリリスは火球を放つ。……エリファスを炎で包みこむが吸収されるように消失していった。


「ふはは。そんな攻撃は効かない。この私は魔法の絶対耐性をもっているのだ。攻撃に魔法が付与されていれば全て無効化することができるのだ」


 そういう事か。わざわざ教えてもらったのはありがたいが、僕は水の魔法、リリスは攻撃魔法しか使えない今、やつを倒す術がない。


「「メテオライト」」

 ──エリファスは両手を広げ詠唱した。


 バスッ バスッ バスッ バスッ バスッ バスッ …… …… ……


 僕とリリスの足元に魔法陣が現れ小さな火球が幾つも飛び出してた。


「うあっ」

「キャー」

 僕とリリスは魔法の直撃を受けた。僕はダメージもなく持ちこたえたが、リリスは直撃による魔法ダメージを受けて後ろに飛ばされ倒れてしまった。


 直ぐにリリスに駆け寄り、緑水で回復しつつ策を練る。


 ……きっと1人だったら逃げ出していただろう。今はリリスや倒れている女の子を護りたい。いや、護らなくてはならない。


 魔法攻撃が効かないという事は、物理で攻撃する必要がある。戦いながらいろいろと試した。


 先ずは『小石』、指で弾きエリファスにダメージを与えることが出来る。しかし有効打にはならず牽制程度。

 次は『大石』、投擲に向かないので、水の力を使って弾き飛ばす。力加減が難しく強すぎると石を貫通してしまう。失敗することも多いが、ダメージは強め。

   

『変質』を使った攻撃

 ・地面をつらら状に突起させる刺突攻撃。

 ・超圧縮させた石を弾く…超圧縮させた分重量があるので射程が短かい。

 ・接近攻撃用に岩を圧縮した剣を『変質』で作成。

 変質を使った攻撃は熟練度が低く回避される事が多い。特に、剣術経験がない僕にとってみようみまねでの攻撃はあまり役に立たなかった。


 これらを駆使して戦うが熟練度が低いのせいか回避されてしまう。エリファスの攻撃を受けてもダメージを受けないので消耗戦になった。


 エリファスは魔法の絶対防御で魔法が効かないだけでなく、物理防御魔法も使っているようで攻撃が当たっても有効打になっていない。

 ……物理防御魔法を破らなければ勝ち目はない。戦いながら破る方法を考えていかなければ。消耗戦を見据えてリリスと少女を先ずは逃がそう。


 エリファスの隙をみて魔法陣の少女を救い出し、緑水で回復させてリリスに預けた。ここは男らしく「後は任せろ。今は2人で脱出するんだ!」とカッコをつけた。



 ……緑水が効いたのか少女が目を覚ました。

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