017:ハッサドからの脱出

 マップ使ってこの洞窟をくまなく探すと、お風呂にしている穴の下に隠し部屋を発見した。


 盲点だった。ハッサド内は人気(ひとけ)を避けながら走り回って色々と調べたがこの洞窟だけは調べていなかった。


「見つかって良かったじゃない」


 リリスが僕の顔を覗き込み最高の笑顔でフォローしてくれた。この笑顔にはいつも救われる。リリスは僕を癒してくれる最高のパートナーだ。


 お風呂場に溜めているお湯を吸収して底を調べる。底は特に何の変哲もない底であり底以外の何物でもなかった。ただ底の下に部屋がある事は確実なので底を抜くため色々と試した。


 が……


 何をしても傷がつかなかった。アクデーモンを貫いた水だろうと、リリスの魔法だろうと全く効果が無かった。


 色々と試して気付いた事がある。この場所は錬金術の洞窟であることを考えると『変質』を使った底抜きが必要なことに…… この解は見事に的中した。『変質』を使って底を抜くと地下に続く階段を発見した。

 ──この異常に硬い鉱石は何かの役に立ちそうなので、大量に素材化してバックにしまった。


 それにしてもヘルメスは良く考えている。鍵穴も無く物理でも魔法でも傷を付けられない…… 自分の能力でしか開かない扉を作った事に感心してしまった。


 地下へと続く階段をリリスと共に降りていく。リリスの魔法つかった即席の松明を作り通路を照らす。きれいに整備された階段を降りていくと小さな部屋に辿り着いた。


 部屋の中心には魔法陣が描かれ奥に続く扉が見えた。魔法陣に近づくとバックの中にある紫の珠に反応して魔法陣に強い光が灯った。

 二人は顔を見合わせてうなずいて魔法陣に足を踏み入れると、魔方陣から光が溢れだし二人を包んだ。まばゆい光が眩しくて目を開けていられない。強く目を瞑っていると、耳が感じていた静けさが、豪快に大量の水が落ちる音に変わった。


 瞼の奥に見える暗闇に白さがもったことで、明るい場所に移動したことを理解した。


 「ここはどこだろう」


 マップで周辺を確認すると、『メイシンガ』と呼ばれる町の外れにある滝の裏に人工的に作られた洞窟の中だった。


 転送した魔法陣は力を失い何をしても再起動できなかった。


「もうハッサドには戻れないか……」

「まーいいじゃん。これから2人でどうしようか考えようよ」

「じゃあ先ずは2人で町に行ってみよう」 


 この洞窟の出口に向かって歩いていくと、何かの角の様な物を拾った。不思議な素材で、しっかりと手入れがしてある美しい角。失くした人も探しているだろうから、持ち主が見つかったら渡してあげようとバックにしまった。


「その角はどうするの?」

「貴重なものみたいだからね。持ち主が見つかれば届けてあげようと思ってね」

「さすが優しいのね。そういう所も好きよ」


 洞窟の入り口にはやはり結界が張られていた。滝で降り注ぐ大量の水が結界を遮っていた。


 メイシンガまでの道のりは田園風景が広がる。特に整備されているわけではなく、木々が折れて荒れている場所や、2メートルはあろうかという雑草が群生していたり、大きな岩や石が散乱していたりする。時折見える田畑や家畜を飼っているだろう牧場やぽつりぽつりと建っている家が見えた。


 メイシンガの街を歩いていると、本当にゲームの世界を歩いている気分になる。この世界に来て街の散策は初めてなので見るものすべてが新鮮だった。


 武器屋に道具屋、宿屋にギルド。なんでも屋に魔法屋、教会まである。

 遠くの方には大きな屋敷が見える。きっと領主か貴族など有力者の家なのだろう。今の僕には関係がない場所だ。


 看板や露店に出ている値札を見ていると不思議な事に気づく。この世界の文字は日本と異なることは分かるが理解できるということだ。言葉についてもそうだ。今まで気にしていなかったが、なぜ分かるのか不明である。


 ……通りがかった教会を見て「神のおかげかな」などと思ってしまうのは、この世界が神を信仰している影響を受けてしまったのかと考えてしまう。


 露天の値札を見てもう一つ気づいたことがある。


「お金が全然ない!」


 考えてみると僕はこの世界でお金というものを見たことも遣ったこともないのだ。


「リリス。この国のお金はどうなってるの」

「んー。私も分からない。地上では嫌われていたから買い物もしたことないの」


 そういえば……いつのまにかリリスの角と羽も無くなっていた。


「リ、リリス。角と羽はどうしたの?」

「何年経ってもサキュバスだと知られるのが怖いから魔法で見えなくしてるの」


 リリスは角のあった場所をさすっている。


「そんな事が出来るんだ。 その姿も可愛いね」 


「えへへ~」 ……リリスは照れていた。


 先ずはこの町で生活する資金が必要だ。お金を稼ぐのに……ん? さっきから通行人が僕の事をジロジロみている。何でだろう……


「おかーさんこの人、囚人の服を着てるよー」


 幼い女の子が僕を指差した。急いで駆け寄ってくる女性。女の子の口を塞ぎ脇に抱えて走り去って行った。


「服か!」


 そういえばキクで着替えさせられてそのままであった。特に変な服ではないから気にしていなかったが囚人の服だったのか。

 直ぐ路地裏に入り。まわりに人が居ないことを確認して『変質』を使った服装チェンジをした。


「これでよしっ」

「なぎさ似合うよー」


 リリスはなぎさの袖を引っ張り笑顔を見せてくれた。

 路地裏を出てメイシンガの街を散策していると、どこにもお風呂屋さんがない事に気付いた。その現実に、風呂好きの僕としてはこの町にお風呂屋さんを作ってみんなにお風呂の良さを伝えたいと思ったのだ。


 この状況にベストマッチの言葉がある。


 『善は急げ』



【物語解説】

 なぎさがハッサドを脱出した頃、もう一つの物語が動いていた。


ただの風呂好きが異世界最強外伝

デバフ使いのストーカー:https://kakuyomu.jp/works/1177354054893786173/episodes/1177354054893786189

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