016:紫の力

 ヘルメスに与えられた能力。


『変性と変質』

 これは錬金術に近い。ヘルメス本人も錬金術師と言っていた位である。

 錬金術と言えば、卑金属から金を錬成する能力だ。実際に試してみて分かったのは、『変質』は物質を変化させる能力。その名の通り物質の形を変えることが出来る。万能なのは、鉄と木を変質させて刀を作ると、どういう仕組みか分からないが一体化する。素材を『変質』させて鍔や刀身などの部品を作り、刀を組み上げることも出来た。


 脱出する船をテーブルや椅子などの木材を使って作成したが、薄っぺらい船ができるか一部分しか作れなかったので質量自体はいじれないらしい。


 しかし大石を小石に『変質』することはできるが重量は変わらない。つまり圧縮されたということだ。 ……圧縮するだけあって硬度は格段に増した。


『変性』の能力は良く分からないことが多い。言葉通りなら性質を変えるので卑金属を金に変えたり水を油に変えたりできると思ったがそんな事は出来なかった。この辺りはまだ研究が必要だ。

 ただ、魔法を物質に付与できるが相性があるのか僕の水やリリスの魔法は石などに付与できるものの効果は薄かった。

 

 また、この能力は生命体には効果がない。死んでいれば変質することは出来るが…… これはモザイク案件だろう。


 食料品についても変質は可能だ。ただあくまで形を変化させているだけなので味はそのままだった。


 料理をしている時に気づいたのがジゲンフォのバックである。収納されている間は時間の経過を感じなかった。 料理を作れば持ち運び放題だ。


「なぎさ。随分と研究熱心だね。 あんまり根詰めると疲れちゃうよ」


「そうだね。今日はそろそろ寝ようか」


 洞窟内にあった木を『変質』してベッドを作った。布は無いので、草や茎などを『変質』させた所謂(いわゆる)ゴザで代用。それでも今までの硬い地面に直で寝るよりは寝心地がよかった。リリスは僕の横で寝ているが、僕の腕を掴んで泣いていることもあった。


 翌日も研究を続ける。どんな旅になるのか予想もつかないので出来るだけ自分の能力とリリスの能力を熟知しておきたかった。


 僕が使える唯一の魔法は『水』

 その能力は、水流と水圧、温度が変えられる。『変質』の能力を使えば盾にも剣にも形は変えられるが水は水であった。

 緑水は魔力を上げれば蘇生以外なら何でも回復出来そうなほど強力だ。更に自分で出した水は自分で回収できる。


 リリスは、サキュバス族の固有スキルとして夢魔が使える。

 夢魔は人の夢を覗くことや夢を再構築する事が出来る。しかし夢は欲望やストレスが渦巻いていることが多く、悪夢に飲み込まれてしまうこともあるのであまり入りたくないそうだ。  ……リリスらしいといえばリリスらしい。


 しかし夢に干渉して再構築出来るということは、悪夢を構築して見せ続けることで精神を破壊すこともできるのではないか。ただ、リリスの場合は魔力が強大すぎるため、このサキュバス固有スキルの力がサキュバス族の中弱いらしい。

 魔力が強力なリリスだが大半はアナウスに吸い取られている。枯渇していた時間が長く今は3割程度の力が精一杯。魔法はすべての属性が使えるが、強力な魔法は今の魔法力では足りなかったり、魔力が枯渇してしまったりするので控える必要がある。 ……それと攻撃系魔法が得意なのはサキュバス族としては異端だそうだ。


 この事を前提として、今回はハッサドにある集落に手を出さずに脱出することにした。


 タマサイ王国が関わっているので、余計な騒ぎを起こし自分たちの力や存在を知られたくないからだ。


 集落の人間には存在が知られているので、土と水・トマトを『変質』の能力で僕とリリスの人形を作った。 ……トマトの色を混ぜて獣に食い散らかされた見た目にしてある。

 獣役はハッサドに生息する尻尾が七本ある魔獣『ナナオオオカミ』を捕獲して人形と一緒に集落の人間に発見されるように置いて魔獣に殺されたと思わせたのだ。あとは、うまく集落の人間が騙されてくれるのを祈るばかりだ。


 そして、脱出するための計画を練っていく。どこかにヒントが隠されていないか書物を読みあさった。

 ……ヒントはヘルメスが残した日記にあった。


──日記の概要──

 ハッサドはアルケミス族の島で、この一族の能力を狙ったタマサイ王国の王が攻め込んで来た。

 戦闘能力を持たない民族であるアルケミス族は力の流出を防ぐため自分一人を残して自害した。しかし王国は力の秘密が残されていないかを探るため、手の者にハッサドを探させている。

 私は紫を護る守護者としてこの洞窟に力を伝えられる人物がここを発見できるように結界を施した。

 その後サキュバス族の地に身を寄せたが、死期を悟りこの地へ戻り紫の珠に自分を封印した。 

── ── ── 


「待てよ。サキュバス族に身を寄せて戻ってきた。と、いうことはヘルメスはどうやって行き来したのだろう。この結界の外には獣や王国の手の者が居るというのに……」

「変質の能力で船を作って脱出を試みたが、ハッサド自体に結界が張られているようで海からは出られなかった。転移してきた船着き場以外は出入りが出来ないはず……ということは、どこかに外と繋がる道があるはずだ」


 僕はマップをくまなく探して怪しい個所を発見した。


 それは、お風呂場にあった。

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