015:ヘルメスの洞窟

 お風呂に入ってサッパリしてから洞窟内の探索を再開した。

 洞窟内の倉庫には、薬や鉱石、武具などが所狭しと棚に並んでいる。この洞窟は無人のようなので道具は今後の旅に有効活用させてもらうことにした。


 ジゲンフォのバッグは本当に便利だ。一体どれだけ入るのか想像できない程に収納が出来る。


 キッチンには、いつから置かれているか分からない食材が大量に保管されていた。肉や魚、野菜や豆など豊富に置かれ鮮度は取り立てホヤホヤのように美しく輝いている。

 食品が置かれている棚が白いオーラを纏っているので何らかの魔法効果が鮮度を保たせているのだろう。

 この棚も今後の旅に役立ちそうなのでバックにしまっておいた。


 部屋の奥には窯が設置されている。せっかくなので薪をくべて牛(シウ)肉を塩コショウで味付けしてフライパンで焼いていく。香ばしい匂いが食欲を誘う。さらにデザートとして、林檎(ゴンリ)を8等分にカットして薄く砂糖を振ってゆっくりとフライパンで焼いた。


「この、温かいゴンリ美味しいぃ」


 リリスは甘くしたゴンリのデザートを気に入ったようで頬を赤くしながら笑顔でいっぱいにしながらいくつも食べていた。シウ肉ステーキも香ばしい香りを鼻腔に感じながら満足そうに食べていた。

 自分が作った料理を笑顔で食べてくれると、その笑顔に癒されて嬉しい気持ちが心を温かくする。


 食事をしながらの他愛のない会話がとても幸せに感じる。異世界にきてから波乱万丈の時間を過ごしてきたのが嘘のようだ。


 楽しい食事の時間が終えて書庫の調査に取り掛かる。

 書庫には沢山の書物が並び、魔法や付与の書、錬金術の本などを中心に様々な本が集められていた。

 その中の1冊に『原始的な錬金術を道具を用いない方法で創れないか』と最初のページに書かれた実験日誌がある。どうやら周辺の本はその実験に付随する参考書のようであった。


 奥の小部屋に白いオーラを纏ったテーブルに1冊の本が開かれていた。本を読もうとしたが文字を解読することができずに内容は分からない。ページをめくろうとした指が本に触れた瞬間にその本が紫色に輝きだした。

 紫の光は上方に伸びてホログラムのようにスラっとしたローブの女性を映し出す。


「ヘルメス!」

 リリスが映し出された人物を見て声をあげた。


「この本を読む者よ。私は紫のヘルメス。この洞窟は結界で保護されているので安心してほしい。王国がアルケミス族の持つ紫の珠を探し続けている。私の死期も近づいておりこのままでは世界が混沌に包まれてしまう。この結界を通りし者よ、私の力を受け継ぎこの力を私の代わりに護ってくれ」


 リリスはこの書の人物を知っていた。この人物はハッサドを治めていたアルケミス族の族長ヘルメス。リリスが神殿で暮らしている時に短い期間だが一緒に暮らしたことがあるらしい。


 ヘルメスは錬金術の力をタマサイ王国に狙われ、アルケミス族は力を奪われないようにハッサドから脱出を試みた。しかし追い詰められたアルケミス族は、ヘルメスを逃がすために秘術を用いて王国兵を撃退した後に力の流出を防ぐために自ら命を絶った。


 ハッサドを脱出したヘルメスはドリアラに助けられて神殿に匿われ神殿でサキュバス族と平和に暮らしていたが、自分の死期を悟ったヘルメスは力を後世に遺すと言い残して神殿を去ったのだ。


 遺言が終わると紫の珠となって僕の手に収まり強い紫の光を放った。紫色の光は僕の手に吸収されるように消えていく……

 吸収された光が脳内に靄となって現れ、3頭身のヘルメスを作り出した。


「私はアルケミス族ヘルメス。紫の錬金術師である私の能力『変質』と『変性』を授ける」


 そう言い残して煙のように消え去った。


「久しぶりにヘルメスに会えたよ。昔と変わらない奇麗なお姉さんだった。折角奇麗なのにいっつも魔女のローブを着てたよ。 なぎさ。ヘルメスの力、護ってあげてね」


 リリスは真剣な眼差しで僕の目をじっと見つめて話を続けた。


「なぎさ。それと私からお願いがあるの」


 お願いとは僕の能力の事だった。全盛期のリリスより強い力があり『緑の力』や『紫の力』などの色を受け継ぐ器がある。その力を知られたり誇示したりすることで、利用されたり狙われたりされることを心配していた。


「その力、私みたいに利用されてほしくない。あなたと平和に暮らしたい。それが私の望みなの」 


「分かった。自分が強いという実感はないけど、リリスと普通の生き方ができるようにがんばるよ」


 リリスの両肩をそっと掴んで引き寄せ、目を見つめながら額にキスをした。


「よし。二人でここを脱出しよう」

 なぎさは力強く言った。  

 


【物語解説】

 ベヌスで受け継いだ『緑の剣』、ハッサドで受け継いだ『紫の珠』。この二つはアーティファクトであり隠された能力があります。なぎさはこの力をまだ知りません。


いつかきっとその効果が必要になってくる時がきます。


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