014:サキュバスの食事

「食べて食欲を満たすこともできるけどサキュバス本来の摂取方法もあるのよ。 ……なぎさが相手なら私はそっちの方が良いかな」


 リリスは人差し指を自分の唇に運び小悪魔のような笑顔をこちらに向けた。


「精力をもらうのよ。あげた方はちょっと疲れた感じになるけど」


「いいよ。どんな方法かは分からないけど、これからずっと一緒だからリリスの好きなようにして良いよ。……でも疲れるならほどほどにしてね」


 リリスは手の平をヒラヒラさせて低くなるように仕草で訴える。屈んでリリスと目線を合わせると僕の肩に手をまわし、顔を引き寄せて唇を重ねた。その感触を味わうような間があったが、口を通じて一気に何かを吸われたような感覚に襲われた。


 スゥ──────


 目をつぶって頬をピンクに染めたリリスを愛おしく感じていた。


「なぎさ凄いね。余裕がありそうだったから一杯もらっちゃった。でも疲れた様子は全然ないのね」


 僕は今まで通りの平静さを装っていたが、顔が真っ赤になり鼻の下が伸びているのが自分でもわかった。


「な、ななな。ビックリしたよ。そんな方法で食事できるんだ。……でも僕以外から吸ったらダメだよ」


「なぎさ。嫉妬してくれるの? 大丈夫よ。私はあなたのものよ」


 (……嫉妬ではなく忠告のつもりで言ったのだが喜んでいるリリスを見て何も言えない)


「ちなみに精力って何が吸われたの? なにも変わった感じしないけど」


「分かり易く言うと『[精]神次元の[力]』いわゆる魔力ね。なぎさは精力が多すぎて私の吸収量が微々たるものに感じたのかもね。サキュバス族でも特別と言われた私が魔力を吸収しても疲労すら覚えないのはちょっとショックね」


「ハハハ……」

「と、とりあえずあそこに目的の洞窟があるから中を調べよう」


 リリスの手を引いて目の前にある洞窟に向かう。あきらかに何かありそうな森林に囲まれた薄暗い洞窟が口を開けていた。


 この辺一帯は生命体が全く存在しない不思議なエリアで、この洞窟はマップに表示すらされていない。何らかの手段で意図的に隠してあると考えられるが、それより安全な拠点が欲しかった。

 洞窟の中は、蟻の巣穴の様にいくつかの部屋に分かれていた。昔は誰かが住んでいたのか、大きな部屋に古びた椅子やテーブルが置かれている。

 洞窟を一通り調べると、書物庫、倉庫、宝物庫、これは風呂場?……かな。 部屋の真ん中に四角く綺麗にくり抜かれた穴があり、古びた桶やボロボロになったタオルなど、お風呂用品が散乱していた。


 こういった場所を見るといてもたっても居られなくなり、テンションが上がってしまう。どうしても我慢できずに早速お風呂の準備に取り掛かった。

 しかし気になるのは、洞窟に入るときにあった違和感。リリスは「結界が張られている」と言っていたがこの状況下では後回しだ。


「とりあえずお風呂を作るから順番に入ろう」

「お風呂? さっきも言ってたけどお風呂って何?」 ──リリスは不思議そうな顔をしている。


 僕は満面の笑みで説明する。


「お風呂というのはお湯に浸かって温まる場所だよ。お風呂は温まるだけでなく心も体もリフレッシュさせ〇△×□…………温泉というものがあって△×□…………中には秘湯という△×□…………入浴剤も種類があって△×□…………」

 つい好きな事なので切れ目なく言葉を一方的に投げてしまった。話し過ぎに気づき恐る恐るリリスの方を見ると……


 リリスはうんうんと頷きながらしっかり聞いていた。


「お風呂って湯浴みの事なんだね。私も好きよ。だけど封印されていた時は全然出来なかった」


「じゃあ初お風呂だね」


「うん。なぎさの後に入るね」

 ニコニコしながら他の部屋に走っていた。他の部屋に探索へ行ったのだろう。

 僕はくり抜かれた穴の中にお湯を流し込み準備をした。慣れてきたせいか、ものの数秒でお湯を満たすことができた。

 僕は颯爽と裸になり風呂に飛び込んだ。そのまま湯船に浸かってお風呂を満喫していると、リリスが恥ずかしそうにお風呂に入ってきた。


 ……もちろん服は全て脱いでいる


「一緒に湯浴みしたいの」

 リリスは頬を赤くしながら温度を確かめるように片足からお湯に入った。


「お湯に入る湯浴みってしたことないの。神殿では海の水を使って湯浴みをしていたから…… 海の水って冷たいのよ。 魔法を使って温めてから湯浴みすることもあったけど、火の魔法を使えるサキュバスは私しかいなかったから人の目を気にしてみんなに合わせていたわ」


 サキュバスは全般的に魔法を使うことは出来るが、夢魔で象徴されるように幻惑系や精神系の魔法を得意とする種族で火や水などの属性魔法は苦手だったようである。

 

「でも、本当にこのお湯は気持ちいいわね。体の汚れもきれいになるし、傷やけがも治る。なによりもなぎさと一緒にいれる心の栄養が一番だけど」


 お風呂の中でおやつがわりにと唇越しに精気を少し吸い取られた。


 リリスはお礼にと背中を流してくれた。初めて女性と入るお風呂にずっとドキドキしっぱなしであった。

 心の中は欲望を抑えるのに必死だったことはリリスには内緒である。



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