お風呂屋の夢儚く……

013:あるべき場所

 僕とリリスは船着き場にいた。


 空から降り注ぐ日差しが眩しい。


 アクデーモンとの戦いを終え、リリスと共にこの地に降り立った。辺りは木々が多広がり遠くには岩山が見えた。 木々の合間から集落らしきものが見えた。


 周辺の情報をマップで確認すると、この島の名はハッサド。その事実に奇声をあげてしまった。


「ハッサドー!」


 あるべき場所とは、島流しで泥船が沈没していなかったら到着していた目的地であった。

 本来ならここがスタートラインなのだ。あの頃とは違い幾分かの力を手に入れ隣にはリリスもいる。

 そのリリスが奇声をあげて押し黙っていた僕を不安そうに見つめている。


「本来あるべき場所ってこういうことか……」

 ベヌスからの転移先が現実世界であることを期待していただけに、期待は大きく打ち砕かれて落胆が大きかった。


「なぎさ。どうしたの?」


「いや。大丈夫。ちょっとビックリしただけ」

 作り笑顔を返すのが精一杯であったが、リリスは満面の笑みで答えてくれた。


 集落に気がかりなことがある。数十人の者が生活しているがマップを見ると全てが赤丸で表示されている。赤丸は敵意を持たれる生命体なので見つからないように行動する必要がある。


 ……その中の3つの生命体が近づいている。LV10が2人とLV12。 ベヌスで戦ってきた魔獣よりも低いレベル。


 僕のレベルは変わらず1表示だがリリスのレベルは不明である。仲間を示す青で表示されているが、その情報以外は読み取れなかった。リリスに聞いても何故かは分からないと返答。(……当然ではあるが)


 リリスの魔力は、アナウスに吸い取られた上に『緑の環』で吸い続けられていたので、回復にかなりの時間を要すようだ。ある程度の魔力は残っているので低位の魔法を使った戦いには参加できそうであった。


 ……いつのまにか戦うことを前提にして考えるようになっている自分が少し悲しかった。

 

「おいっ! 物資はどうした」


 色々考えていたせいで逃げるのが遅れてしまい住人に気づかれてしまった。銅板を加工した鎧兜を身に着け、剣を構えてこちらを威嚇している。


「船が沈んだ跡はないしお前はどこから来たんだ」

「しかも女まで…… 一人づつしか運ばれないこの島にどうやって2人で来たんだ。答えなさい」


 イレギュラーに慣れていないのか、強い緊張感を漂わせ何回も剣を構えなおしながらこちらの反応を窺っている。


 僕は落ち着いていた。レベルという数字に惑わされてはいけないのだろうが、高レベルの魔物と戦ってきた僕には低く感じていた。数字の感覚がマヒしているのだろう。

「ここはハッサドですか? 事情があって彼女とここに転移してしまったようです。 直ぐに出ていきますので武装を解いて見逃してもらえないでしょうか」


「お願いします」


「無理だな。この島の先発隊である、クルス、ルルス、マルスのクルマ3姉妹がここから生きて帰すわけにはいかない。それに自力で脱出できないから諦めるんだな」

「そうそう。ここはタマサイの重要な拠点だ。見られたからには生きて帰すわけにいかないんだよ」

「まあ、見込みがありそうなら仲間にしてやるが、お前は見込みがなさそうだからな。 お前の血をいただき女は働き手として生かしてやるよ」

「そこの男! まずは死ぬ前に全部脱げ。 血で汚れた衣類は洗うの大変だからなぁ クックック」


 クルス3姉妹の言葉にリリスの目が鋭さを増し感情が昂っている。

「なぎさに害をなすあなたたち……」

 リリスの目が更に鋭くなる。一歩前に踏み出して右手を前に突き出し手を力強く開く。手のひらに光が集まるように魔力が溜まっていく。冷静だった僕はリリスの手をそっと降ろした。

 

「もう少し話を聞いてみよう」

 リリスは素直に従い魔力を解放させて僕の後ろに隠れた。


「少し話しを聞かせてもらえませんでしょうか」

 

「ふざけるな」  ──クルマ3姉妹の声が重なった


 カシャン


 武器を身構えて鎧の擦れる音を響かせながら僕たちを囲うようにジリジリと間合いをとっている。


「お話を聞きたかったのですが、仕方がないですね」


 僕は魔法で応戦した。ケガをさせないように威力を最弱にした熱湯を相手に吹き掛ける。


「あちー」

 クルマ3姉妹は怯んで剣を落とした。更に熱伝導の高い銅の鎧を通して熱が伝わっているようで鎧まで脱ごうとしていた。


 その隙にリリスを脇に抱えて生命体の反応がない方向へ走った。3人は半裸になりながらも追いかけようとするが、追いつけるはずもなかった。


 マップに気になる場所がある。集落の住人や獣などは赤丸で表示されているが、反応が全くない上に、避けるように誰も入らない場所が…… とりあえずその場所に向かった。


「なぎさ。なんであの男たちをやっつけなかったの」


「まあまあ。敵意を持っていたとはいえ、いきなり島民を倒しちゃうのも良くないだろ。それに国の重要な拠点と言ってたのも気になるからね。王国が関わっているならあまりトラブルになることは避けたいんだ」


「それに……」


「それに?」


「もしかしたら素晴らしいお風呂がこの島に隠れているかもしれない!」


 ツッコミかずっこけることを期待したが、納得したように『ウンウン』と頷かれた。


「そういえばリリスの食事は普通のものでいいの?」


「食べて食欲を満たすこともできるけど、サキュバス本来の摂取方法もあるのよ。なぎさが相手なら、私はそっちの方が良いかなー」


 リリスは人差し指を自分の唇に運び小悪魔的な笑顔を僕に向けた。



【あとがき】

 気になる点やアドバイスなど気兼ねなくコメントしていただけるとモチベーションにもつながり、参考になりますのでよろしくお願いします。

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