012:なぎさとリリス【第1部完】

「『緑の環』に緑水を与えて……」


 そうか! 僕は緑水をリリスに向かって放った。

 緑水はリリスの傷を修復するとともに枝から漂う怪しいオーラを払う。邪気を払われた枝は逃げるように地面の中に吸い込まれていった。


「なぎさ、わたしも一緒に戦うよ」


 解放されたリリスは雷撃をアクデーモンに向かって放つ。


 バッチーン


 雷撃はアクデーモンの盾に当たり、四方八方に飛び散り消え去る。アクデーモンの攻撃リストにリリスが加えられたかのように、巨大な斧がリリスを襲う。リリスは避ける判断が出来ずにその場にとどまっている。そこを僕が飛びついてなんとか回避した。


「ありがとう」


「大丈夫? 僕が引きつけるから後ろでサポートをお願い」


「わたしは攻撃魔法が得意だから任せて」


 リリスはアクデーモンと距離をとって魔法でサポートをする。炎に雷、氷に土、風に水など弱点を探すように様々な攻撃魔法を詠唱していく。

 しかし、魔力が大幅に減少しているせいか下位の魔法しか唱えられず、有効打になるような攻撃は無かった。


 この状況を必死に考えた。死と隣り合わせの戦い…… リリスを護りたいという強い気持ちが僕の冷静さを助ける。


「リリス! 雷だ! 僕の攻撃の後に雷を撃ってくれ」


 僕は目一杯の水を天井に当ててアクデーモンに滝のように浴びせた。追撃するようにリリスは雷撃を詠唱して放たれた雷がアクデーモンを襲う。雷撃は盾で防がれてしまうが、盾に跳ね返されることもなく取り囲むように広がっていった。


「「グワァァァァ」」


 アクデーモンは苦しがっている。僕は砂利を混ぜた水をアクデーモンに浴びせることで全身を濡らしてリリスの雷撃で感電させたのだ。


 リリスは魔力が弱っているせいか、感電を利用した攻撃でも大したダメージは与えられなかった。


 さっき、アクデーモンに浴びせた水の放出で気づいたことがある。


 ……いまだかつてないほどの水が放出されたことに。必死にアクデーモンを攻撃した時とは比較にならないほど大量に放出されていた。


 僕はもてる水の力を使ってジェット水流をイメージしながら水を力強く放出した。細く渦を巻いてレーザービームのような攻撃がアクデーモンを襲う。


 ガンッ! ザシュ


 水の勢いが凄まじくドリルのように盾を貫通し左肩までも風穴を空けていた。

 両肩に大きな傷を負ったアクデーモンは、恐怖とも憎悪ともとれる声でこちらに向かって言い放った。


「「お前の事覚えておくぞ。 必ずお前たちを葬ってやる」」

 足元に魔法陣が描かれ、強い光と共に吸い込まれるように消えていった。


 僕は震えていた。冷静になって戦いを振り返る。 ……今まで一度も戦ったことのない僕になぜこんな力があるのか分からなかった。

 しかし一つ分かったことがある。僕の気持ち次第で、唯一の魔法である水の力が強くも弱くもなるということが。


 僕はリリスに駆け寄り緑水で回復させて無事を確認する。緑水の効果でリリスの擦り傷や汚れもきれいに回復していた。


「ありがとう」  リリスは僕にジャンプして抱きついた。

「本当にありがとう」  リリスは抱きついたまま涙を浮かべている。

「もう私は何があってもついていく。一生ついていくんだから」

 リリスは更に強く抱きしめた。今までの想いを心の中で整理するかように目を瞑り頬をピンクに染めた。


 良くわからない指輪と言いアクデーモンといい唐突な展開に混乱している。しかし嫌な感じはなく吊り橋効果かもしれないが、リリスとの出会いが必然である感覚があった。


 ……これが運命の赤い糸というものなのかもしれない。


「これから一緒に歩もう」 


「うん!」

 リリスは抱き着いたまま僕の目を見つめて満面の笑みを浮かべていた。


 

▽ ▽ ▽

 リリスと共にドリアラの元に戻った僕は経緯を説明した。


「なぎささん。問題を解決してくれてありがとうございます」


「ドリアラ様、サキュバス族が受けた恩を仇で返すような形となり申し訳ありません。サキュバス族の生き残りとしてどんな罰でも受ける覚悟です」


「リ、リリス…… 君は長老たちに騙されて仕方がなかったんだよ。ドリアラお願いするよ。リリスを許してもらえないかな」


「サキュバス族リリス。今回の件については、サキュバス族として責任をとってもらいます」


「はい」


「ド、ドリアラ……」


「罰としてベヌスの恩人であるなぎさに尽くしてしっかり守ること」


…………


「ありがとうございます」

 リリスは瞼に涙を溜めて沢山の雫をこぼしながらドリアラに何度もお礼を言った。


「これでベヌスも平和になります。まだまだこの地は昔のように戻っていませんが、私が時間をかけて美しい国に戻していきます。 この国は地上との接点が無くほとんど知られていません。地上に戻ってもこの国の事は絶対に話さないようにお願いします。 最後にこの国の霊木ジゲンフォーの繊維を編み込んだバックを差し上げます」  ──僕の肩に斜め掛けバックがかかった。


 ジゲンフォのバックは、ある程度の荷物であれば感能次元に記録され保存出来るというもの。ただし、感能次元を認識できる者にしか使用する事ができず、収納口はその人の魔力がキーとなるので、自分しか自分の物を取り出すことが出来ないという。


「これからあなた方を地上に戻しますが、今の私は本来あるべき場所に転移させることしかできません。またどこかで会いましょう。とは言っても感能次元でつながっているのですけれどね」


 ドリアラはいつもの通り一気に話し、話が終わると詠唱を始めた。


 僕とリリスの下に魔法陣が描かれ強く光る。あるべき場所に転移する光が……




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※リリス専用ストーリー 

 (3)終焉 (1章終了までのネタバレを含む):https://kakuyomu.jp/works/1177354054894155286/episodes/1177354054894171414

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