011:1本につながる道

「私は、族長たちの悪意に気づかず言われるがままだった。ここに捕らわれてからどれ程の時間が経ったのか分からない。これからは私の意思で平和に生きていきたいの!」


 僕はリリスの話をしっかり聞いた。リリスの気持ちや考え方だけでなく、神殿の小部屋で見た本の一端を思い出しながら……


 そして、答えを出した。



「僕は『岩谷 なぎさ』この世界に来てから流されるままこの地に来た。この地で生きる事への執着が自分の意思を持つキッカケになったんだ」

「君も長老たち言われるがまま、この地に連れてこられた。この地で生きる事への執着が君の意思を持つ切っ掛けになったんだ」

「同じ気持ちを歩んできた者同士僕と一緒に行こう。僕はまだまだ弱いけど、君みたいな人をを助けられるようになりたい。これは僕の意思だ」 


「私もあなたと一緒に行きたい。私もあなたを護りたい。これは私の意思よ」


 キラリ


 僕の指にはまっている指輪が光った。


「それは…… 私の指輪…… そう。あなたが運命の人……」


「運命の人?」


「そう。私たちサキュバス族は魂の指輪を作ることが出来るの。 自分の魂を込めた指輪に選ばれた異性と結ばれる運命にあると言われている。 そうやって結婚した者同士は皆幸せに暮らしていたわ」

「平和な時に幸せな家庭を夢見て作ったの。族長に捕らわれた時に捨てられてしまった物なの…… そう…… あなたが」


 リリスの頬が赤くなっているのを感じた。 僕はドリアラの言った一言を思い出した。


──回想──

「近いうちにきっと良い人に巡り逢えるよ。私の予想は当たることで有名だから」

──────


 そう考えていたとき僕の中にいたものが飛び出した。


「アナウス!」  ──リリスが叫んだ。


 アナウスは周りの力を取り込むように姿を変えていった。

 巨大な斧を手を持つ悪魔のような獣のような姿に……


 マップには『アクデーモン レベル90』そう記録されている。

  

「魔神アクデーモン! 太古にサキュバスが仕えていたとされる神」

 リリスは震えながら声をあげた。


 アクデーモンは巨大な斧を右手に持ち、左手に盾を構えてこちらを見ている。


「「人間。感謝するぞ。たくさんの魔獣の血を吸ったおかげで、我の姿を取り戻すことが出来た。 バカなサキュバスの魔力を奪い、バカな人間により血を奪う」」


 大きな笑い声が部屋の中に響き渡った。その笑い声は天井にある小石をまばらに落とすほどだった。


「あっ…… アナウス………」


 僕の中からアナウスがいなくなった。今まで僕の力の源となっていたものが……

 今までの魔獣討伐が全てアナウスの力であった事を思い出すように記憶がフラシュバックする。


 恐怖! この場面で一度も戦闘をしたことのない僕が感じることの出来る唯一の感情。僕は1歩…… また1歩と後ずさる。踵(かかと)が引っかかり後ろに倒れ込むように尻もちをついてしまった。


 アクデーモンは大きな足音を響かせながらリリスへとゆっくりと近づく。


 リリスを目がけて手に持った巨大な斧を振り上げた。


「助けて! お願い」

 リリスは絶望の表情を浮かべ、こちらに訴えかける。


 アクデーモンは巨大な斧をリリスに向かって振り下ろした。


「やめろー」


 ──咄嗟だった。 とにかく助けたいと願ったんだ。


 僕のもてる水の力をアクデーモンに力いっぱい放った。


 ザシュ!!   ドーン!!


「「ぐああ」」

 苦悶の声が部屋の中に響き渡る。 


 水の力がアクデーモンの右肩を貫通し壁まで吹き飛ばして激突させた。


「すごい」

 リリスが感嘆の声をあげる。その声に呆気にとられていた僕が我に返った。


 アクデーモンは体制を立て直し僕を睨みつける。


「「人間! お前は何者だ。 魔神である私に傷をつけるとは!」」


 アクデーモンは巨大な斧を僕に向かって振り下ろす。力強く速い攻撃であったが斧の動きを捉えることは出来ていた。


 ザシュッ


 斧をかわすが、斧の刃が地面をえぐった衝撃で飛び散った小石と共に壁まで吹き飛ばされてしまう。連続して斧を振るい続けるアクデーモン、それを避けるが衝撃ダメージを受け続ける僕。


『緑水』で回復しながらアクデーモンの攻撃を避け続けた。


 隙をついては水の力で攻撃を仕掛けるが左手に持つ盾で防がれてしまう。


 そんな攻防が続いていた。


「なぎさ。私を開放して」


 封印を解く方法が分からなかった。

 リリスを封じている枝を水の力で切り裂いたが、もの凄いスピードで再生される。アクデーモンとの攻防の中で隙を見て何度か試したが同じであった。


 しかし、攻防を続ける中でドリアラの依頼を思い出した。


「『緑の環』に緑水を与えて……」 そうか! 僕は緑水をリリスに向かって放った。





【物語解説】

 アーティファクトであるアナウスは、注がれた魔力を10倍に拡張し主の命令で動くマジックアイテムだと伝えられていた。


 正体は太古に討伐されて力を失った魔神の魂である。

 力を失いなんとか姿を保っている状態であったが、リリスの魔力を吸収し力を得ることが出来た。

 本来は生贄を用いた儀を実施することで復活するのだが、ドライアドの血で完全なる復活を試みたが女王に逃げられてしまった。神殿まで追い詰めたが祭壇の聖光の力により女王が守られ女王の血を得ることができなかった。

 女王が諦めて聖光から逃げだす所を捕えようとしていたところに、なぎさが訪れたのだ。

 女王を諦めなぎさに取り憑いて魔獣を倒させることで、大量の魔獣の血を吸って具現化の力を蓄えたのである。


 実はアクデーモンのレベルは80。想像以上になぎさが魔獣を討伐したため、かねてより強力になって降臨したのである。

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