010:亜人サキュバス
問題の解決を約束したなぎさ。ドリアラに詳しく話を聞いた。
緑の力を取り戻しベヌスは緑に囲まれた姿を取り戻すことが出来たが、大地を荒野にした原因が女王の間に入り込んだままになっているので、その異物を調べて排除して欲しいとお願いされた。
「異物のある場所にベヌスに力を供給する『緑の環』があります。そこにあなたの緑水を与えてください」
ドリアラの話を聞いて、アナウスの力を自分の力と錯覚しているせいか間の抜けた返事ではなく力強く了解した。
「任せてください。寂しい一人旅を支えてくれた恩を少しでも返させて下さい」
「ありがとう。私の緑の力はあなたの中に残っています。緑の力を授けた証であるこの剣をお持ちください」
手の上に魔法陣が現れ、魔法陣から現れた剣が手に収まった。
「緑の剣。私の力を封じた特殊道具です。本来の力はまだ発揮できませんが、きっとあなたの役に立つ時がくるでしょう」
緑の剣を受け取り、ドリアラにお礼をして大樹の洞にある扉に向かった。
扉の前で立ち止まり目を瞑る。これまでの事を振り返り気持ちを整理した。
意を決して目を見開き扉に触れると扉は封印が解かれたのか塞いでいた枝が生き物のように引っ込んでいく。
ズゴゴゴゴゴゴッ
何年も閉ざされていた扉が年季を感じさせる重い音とともに開いた。
扉の奥は僅かな光で照らされている。奥へと向かう通路が続いているが、通路を構成する床や壁の木々は力を失っているのか枯れたままだった。その枝枝は僕を導くように力を振り絞り弱い光で足元を照らしてくれた。
枝枝の明りを頼りに奥へと進んでいく。
通路を進むと枝枝が僕に見せているかのように、平和な時代のベヌスがスライドショーのように連続して脳裏に映像を映し出した。
一人の女の子が女王になるまでの歴史。両親、友達、楽しい事、苦しい事、様々な瞬間が脳裏を巡った。
一体どれくらい歩いただろう…… 樹木の中は不思議な空間で、外から見た幹の太さよりも長い距離を歩いている。更に歩き進むと辺りが急に明るくなった。
「広い…… 本当にこの木の中はどうなっているんだろう」
「た…… て」 「たす…… て」 「たすけて……」 「助けて……」
奥の方からかすかに女の子の声が聞こえた気がする。小走りになって部屋の奥まで進むと女の子が枝に絡まれて横たわっていた。
金色の美しく長い髪、頭には角が2本生え赤く大きな瞳の腰に翼がある女の子。首や腕、足などに枝が絡みつき怪しげなオーラがまとわりついている。
「き、君は……」
ゲームでしか見たことのない人間が目の前にいるという現実。これまで散々と非現実を目の当たりにして敵か味方か分からないが、かわいさと相まってドキドキしていた。
「私はリリス。ここに封印されているの。助けて……」
涙を浮かべて僕に一生懸命に訴えている。
僕は迷った。封印されたこの女の子を助けて良いものだろうか。封印されているということは、何らかの罰を受けていると考えるのが自然だ。その罰を勝手に開放して良いものなのだろうか……
「お願い。お願い」
涙ぐみながら必死で訴え続ける。
「封印された理由を聞いても良いかな。助けたいけど封印を勝手に解いて良いものか分からないんだ」
自分に封印を解く力があるのか、ということをアナウスの力を自分の力と錯覚している僕は考えていなかった。
「私は利用されたの」
今までの経緯をこう説明した。
リリスは亜人サキュバス族の女性で、ベヌスに渡る転移門を守護する一族であった。転移門がある神殿で一族は平和に暮らしていたが、突発的に強大な魔力を持って生まれてきたリリスの力に一族の族長たちが魅了されて野心を抱いた。
族長たちはリリスの魔力を源に、一族の秘宝アナウスを復活させてベヌスに送り込んだ。そしてベヌスに力を送る『緑の環』にリリスを封印して荒廃させたという。
「私の魔力をアナウスに送る時、族長は転移門に近く訪れる災厄の対策をすると教えられていました。しかし私は見たのです。アナウスの正体が悪魔であったのを……」
ベヌスを占領したサキュバス族は、ベヌスが荒廃したことで食料の確保が出来ず魔獣が徘徊するようになったせいでこの地に住むことが出来なくなってしまった。神殿に戻ろうとしたが、転移門は既にデスナイトに占拠され戻る事も出来ず絶滅したのだ。
元々サキュバス族は、夢魔の力で人々から恐れられ地上で迫害を受けていた。安住の地を求めて旅をしている時に、ドライアド族に転移門の守護者として神殿を住処として与えられて平和に過ごしていた。
「私は、族長たちの悪意に気づかず言われるがままだった。ここに捕らわれてからどれ程経ったのか分からない。これからは私の意思で平和に生きていきたいの!」
僕はリリスの話をしっかり聞いた。リリスの気持ち、考え方だけでなく、神殿の小部屋で見た本の一端を思い出しながら……
そして、僕は答えを出した。
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