009:ドリアラの正体

 拠点を離れてどれ位進んだだろう。もうかれこれ数日間、ただただ歩いている。

 先に進むにつれて魔獣も徐々に強くなっていく。最初は、Lv15前後であった魔獣も今やLv35にまでなっている。


 そこで出会った、バックベアーLV35

 遠くで仰ぐように手を交互に振っているだけの魔物。それに反応するようにアナウスが僕の前に飛び出していた。

 何をしているのか分からなかったが、歩いて魔獣の間合いに入る時に躓(つまず)いて転んだ時に全てが分かった。

 転んだことで攻撃を避けたような形になり裏にあった岩が切り裂かれたのだ!

 手を振っているのではなく、かまいたちを発生させて攻撃していたのをアナウスが全て防いでいたことを知って青ざめた。


 それから、もう何百体の魔獣を倒しただろう。全く先の見えない状況に苛立ち始めていた。


「なぎさちゃん。そんなにイラついたらダメよ。こんな時はお風呂に入ったらいいんじゃないの」


「そうだね! ありがとうドリアラ」


 僕はドリアラにどれだけ救われただろうか。明るく優しい声で話しかけてくれるおかげで精神が保たれているのかもしれない。1人だったらきっと精神崩壊していただろう。


 何日もこの地で過ごしていると、お風呂を作るのも手慣れたものだ。手ごろな穴を見つけてお風呂を作る。『緑水』は洗浄効果があるので、わざわざ洗浄しなくてもお湯を入れるだけできれいになる。ここに来た当初より放出できる湯量も大分増えた気がする。 


 お風呂に入るとやっぱり心が落ち着く。そのまま空を見上げれば小さな悩みなんて吹っ飛ばす。


「なぎさちゃんは好きな人いないのー」  

 急にドリアラが話題を振ってきた。


「昔、好きだった人は居たよ。幼馴染なんだけど神隠しにあったように消えてしまったんだ」


「なぎさちゃんのその言い方、愛がこもっているね。本当にその子が好きだったんだねー」


「うん。これだけははっきり言える。好きだった。だけど告白する前に消えてしまったんだ」


「近いうちにきっと良い人に巡り逢えるよ。私の予想は当たることで有名だから。でもその子と好きだった子が出会ったらどうなるのかなー」


「ドリアラ。いじわるだね。でも、本当に出会うとしたらどんな人なんだろう」


 何気ない会話で笑い合い、さっきまでの苛立ちもすっかり無くなっていた。気分をリフレッシュさせて更に進み続ける。


 テルテルゴースト Lv48

 黒いオイルを空に飛ばし雨の様に降らす。オイルに接触すると発火してしばらく燃え続けている。そのオイルも全てアナウスが防いでくれたが、徐々に纏う炎の量も増えて火の玉になりながらも魔獣を倒していた。


 進むほどに魔獣も強くなりLv50台まで襲ってくるようになっていた。しかも、1匹2匹ではなく大群で……。

 しかし、どんな魔獣が出てもどれだけの数が居てもアナウスの力で撃破することが出来た。

 

 ……気になることが1点だけある。この地に足を踏み入れてから思っていたが、魔獣のどこかしらにピンク色の塊がくっついているのだ。特に何も害はないし倒すと消えてしまうのだが……


 更に先へ進んでいくと、荒れ果てた地にぽつりぽつりと植物が自生している。見渡すと、その植物は道のように一方向に向かって生えている。先に進むにつれて植物の数が増え植物の道が濃くなっていく。


 植物の道に導かれるように進んでいく……


 そういえば植物が生えていた辺りから1匹も魔獣の姿を見なくなった。緑の道をしばらく進んでいくと一本の大樹が神々しく立っていた。


「なぎさちゃん。あれはベヌスの大樹よ! やっとここまで来たんだー」


 その大樹は樹齢何百年…… いや千年以上経っているのだろう。とても大きな神々しい大樹。そんな大樹も緑を失い樹木も枯れていた。


 ……枯れているとはいえ、あまりにも立派な大樹に上から下まで舐めるように眺め見とれていた。


「なぎさちゃん。大樹に洞(うろ)があるからそこに行ってみて」


 ドリアラに言われるがまま大樹に近づくと、とても大きな洞があった。洞には大きな扉があり、何本もの枝が巻きついて入ることを拒むかのように閉ざされていた。


 ……まるで封印されているように


「なぎさちゃん。その扉に触れてみて」


 扉に近づき枝が巻き付いている扉にそっと触れた。触れた途端に力が抜けるような感覚に襲われ膝をついた。


 薄れゆく意識の中、ドリアラが「ありがとう」と言った気がした。


 僕が触れた場所から命が吹き込まれたように生命力が広がっていく。大樹だけでなく周辺の台地にまで緑が広がり荒れ果てた荒野を覆っていく。まるで僕を中心にこの地が生き返っていくように思えた。


 ……その想いがこみ上げる中意識を失った。



 目を覚ますと頭に気持ちい感触があった。目を開けると緑色の髪をした美しい女性が心配そうにこちらを見つめている。


 女性と目が合い、あまりの美しさに心がドキドキしてしまう。 ……どことなくドリアラに似ていた。


 ハッと我に返り起き上がると、景色は一変していた。今までの荒れ果てた荒野が一本の大樹を中心とした深い森になっていたのだ。


「なぎささんのおかげで力を取り戻すことが出来ました。私はドライアド族の女王ドリアラと申します。これまでの助力ありがとうございました。サキュバス族の企みにより私は力を奪われこの地を追われました。もうどれ程の年月が流れたのかもわかりま──」 


 相変わらず、語り始めると止まらないドリアラを遮った。


「──ドリアラは僕の中にいたドリアラなの?」


「そうです。力の放出を抑えるために小さくなっていました。今はあなたの体から抜けてベヌスの大樹と共になったことで本来の体に戻り緑の力を取り戻すことが出来たのです。しかし一つだけ問題があります。なぎささん、その問題を解決してもらえませんでしょうか」


「あっ はいっ」

 ドリアラの美しい姿に見とれていたせいか、急に頼まれたことで、またもや間抜けな声で返事をしてしまった。

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