018:お風呂屋さんを作ろう その1


 風呂好きの僕としてはこの町にお風呂屋さんを作りお風呂の良さをみんな知ってもらおうと決意した。


 それに……


 お風呂屋さんを作ればお客さんが来る。

 お客さんが来ればお金を稼げる。

 お金を稼げばリリスとの生活基盤が出来る。


 見事な3段論法だ。


「リリス。この町にお風呂屋さんを作ろう。お湯は魔法で出せるし、建物も『変質』を使って自分で作れる。直ぐにでも始められるぞ」

 僕はガッツポーズをして自信がある所を見せた。


「私はなぎさについていくよ」

 リリスの笑顔がまぶしく輝いていた。 


 ……しかしいくら自前でお店が出来ても、この国のルールが分からない。勝手に土地を使う事はできないだろうし、登記や税金もあるだろう。


 お金については心当たりがある。ヘルメスの洞窟でいただいた物を売るという手段が……


 魔法屋の主人はミゲルと名乗った。ミゲルにポーションの売却について相談する。


「道具はな、ハイクオリティ、ミドルクオリティ、ロークオリティ、規格外に分類されるんだよ。当然品質が良いほうが高価だな」


  冒険で見つけたポーションを売りたいと話をしたら、ポーションを持っていること自体ビックリされた程だ。


 ヘルメスの洞窟から持ってきたポーションは、全てがハイクオリティ品で何本も出したら怪しまれそうで、偶然見つけたということで1本買取してもらった。


 この世界の便利な所は、神の啓示で罪が確定するので、店舗は賞罰のみ読み取れる簡易装置を使い、問題なければ簡単に買い取ってもらえる。


 白金貨1枚。どの程度の価値か分からないが、かなりの価値ということだけは分かった。


「この町で商売をしたいのですが、どのようにすればよろしいでしょうか」


 ミゲルにこの町に来たばかりで右も左も分からないことを伝えて教えてもらった。

 

「そこの嬢ちゃんと2人でやるのか。それならギルドを訪ねな」



▽ ▽ ▽

「初めての方ですね。私はギルドの看板娘兼受付のメリルと申します」


「冒険者登録ですか。初めての方はランクがストーンになります。頑張れば直ぐカッパーになれますよ」

「今はストーンの冒険者にお勧めの依頼が入っています。地下水路のネズミ退治なのですが簡単な上に金貨1枚の高額報酬です。どうでしょう」


 受付嬢は矢継ぎ早に依頼を勧めてきた。……この依頼に何かあるのだろうか。


「いえ。僕はこの町でお店を開く手続きをしに来ました。どのように手続きすればよろしいでしょうか」


「そうですか。残念です。商売をするためには先ず土地が必要です。お持ちですか?」


「……無ければ露天や貸し店舗という方法もあります」


「できたらお風呂屋さんを開きたいと思っているので、土地の手配も出来たらお願いしたいのですが出来ますでしょうか」


「はい。私どもは土地の斡旋もやっておりますのでご紹介できます。 しかし……お風呂屋さんとはどんなお店なのですか」


「お風呂屋というのは、大きな箱の中にお湯を入れて心と体をリフレッシュすることを対価にお金をいただくお店です」


「そうですか。 この町でも貴族の区画に湯浴み場がありますが、この辺りは平民が多く井戸の水を使った湯浴みの習慣しかないのですよ」


「僕は、みんなにお風呂の良さを分かってもらいたくてお店を始める決心をしました」


「……分かりました。ギルド長に今回の話を通しておきます。 営業が出来る状態になったらお越しください。 この町は基本的に商売人には優しく、よっぽどの競合や賞罰が無ければ認められないということはありません」


「土地については、中心地の空き部屋であれば月に金貨5枚。土地だけであれば月に3枚でお貸しすることが出来ます」


「白金貨1枚で手に入る土地はないでしょうか」


「白金貨1枚ですか……」


「一か所だけございます。郊外なのでかなり広い土地で農業などが出来るようになっています。しかし、木や岩などで荒れ放題となっているので買い手がつかず困っている物件ですが…」


「そこでお願いします」

 僕は即答した。木や岩は『変質』で素材にすることが出来るのでむしろありがたいくらいの土地である。


「それでは、これが土地の地図と権利プレートになります」


 白金貨1枚を手渡し、土地の地図と権利プレートを受け取った。


「権利プレートは魔法により土地の権利が記録されているのでくれぐれも無くさないで下さいね。もし、土地の整備が必要であれば『なんでも屋』さんにお願いするか、このギルドで依頼してください。白金貨5枚くらいが相場になると思います」


「もう一度聞きますがネズミを退治してもらえませんか。ネズミが大嫌いで……」


「ごめんなさい。今は直ぐにでもお店の準備をしたいので」

 

 ギルド嬢はとても残念な顔をしていたが手を振って見送ってくれた。


 実際に購入した郊外にある土地を見にきた。


「確かに荒れ放題だ」


 太く大きな木。地面から突き出ている岩。伸び放題になっている雑草。普通に考えたらこんな土地を使おうなんて考えないだろう。

 さすがに安いだけはある。人に頼んで整地してもらったら白金貨5枚が相場と言っていたな……土地の5倍のお金じゃないか。


 この荒れた土地を『変質』で木や石、草に至るまで全て素材化しバックに収納する。 荒廃していたせいでボコボコになっている地面の上に石をコーティングして重みで平らに馴らす。 そしてコーティングした石を素材に戻すと整地された時の出来上がり。


 今度はメインディッシュに取りかかるぞ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る