019:お風呂屋さんを作ろう その2

 整地した土地に今度は建物を造る。


 石を圧縮して硬度を上げた杭を作り地面に杭打ちをする。その杭に接着するように基礎を作った。

 建物は、圧縮した木材に、火災防止にオリハルコンを圧縮して膜にしたものをコーティングする。

 外観は、町で見かけた建物を参考に独自のアレンジを加えた。


 こういった作業を少しずつ進めていくのだ。数日で作ることは可能だが、あまりにも早すぎる建築は怪しまれる要因になると考えた。

 ……1人でやってること自体が怪しいのだが、あまり人も通らないので気にする人はいなかった。


「なぎさ。ちょっと私はメリルさんの依頼を片付けてくるね」


「メリルさんの依頼ってネズミ退治だったよね」


「うん。凄く嫌がっていたから助けてあげたくてね」


「僕も行こうか?」


「大丈夫。なぎさは頑張ってお風呂屋さんを作ってて。無理しないから大丈夫よ」


 そう言ってリリスはメリルのためにネズミ退治に出かけた。


 僕の方は、お風呂屋造りを続ける。外観の次に内装に取り掛かった。作る部屋は8つ。 番台、男性用の脱衣所と浴室、女性用の脱衣所と浴室、厨房と談話室兼食堂。最後に自分たちが生活する部屋だ。


 お風呂屋を造るのに素材が足りなくなる。石や土、木などが主で貴重な鉱石はなるべく使用を控えるようにしている。

 石や木を採取するついでに、獣を狩り、革や牙、毛などの素材と獣肉を解体して保管。

 獣の素材に関しては、出来るだけお店に卸すようにしてお店同士の繋がりを作り仲良くなっておいた。



▼ ▼ ▼

 リリスは地下水路にいた。 メリルがお願いしていたネズミ退治に来ている。しかし、ギルドを通していないので正式なものでは無く報酬は出ない。


 地下水路を歩いていると、確かにネズミが大量発生している。

 しかし、特に襲ってくるわけではなくひたすら走り回っている。  ……よく見ると、ネズミは痩せ細り、餌を探しているように見えた。


 水路を奥へ歩いていくと、リリスより大きなネズミが2匹寄り添っていた。


「何しに来たの。ここには何もないぞ」


 2匹のネズミが話しかけてきた。どうやらこのネズミは言葉が通じるようだ。


「私はリリス。ネズミが大量発生した原因を探りに来たの。あなた達に危害を加えるつもりはないわ」


「俺はメリ。こいつは妻のルリだ。俺たちも困ってるんだよ。別に人間たちに危害を加えるつもりはないんだが、餌場にしていた場所に魔獣が住み着いちまってな……仕方がないから地上に餌をとりに行ってるんだよ。俺たちは大家族だからな」


「そう。私が行ってその魔獣を退治してくるわ」


「ありがたいが何もお礼は出来ないぞ!」


「いいのよ。私は別にお礼が欲しくてやっている訳ではないから」


「そうか。もし魔獣を倒してくれたら受けた恩は忘れねぇ。何かの時には役に立つぜ」

 魔獣の住処を教えてもらい向かった。


 住み着いていた魔獣は、1匹のリザードマンだった。


「だれだ、おま………」

 ──話の途中でリリスの火球により燃え尽きた。


 人知れずリリスが地下水路を守った瞬間である。

▲ ▲ ▲



 

 僕は酒場に来ていた。町の人との顔つなぎと情報収集を兼ねてだ。


 この町でお風呂と言えば、湯に入る習慣があるのは貴族のみで湯に浸かるのは湯浴み場に行って入るものだという。平民は井戸水などで、体を洗うのが一般的で湯に入った経験がある人は極僅かだという。

 最初にお客を集めるのは大変だが、湯浴みの素晴らしさを知ってもらえれば絶対にお客が来てくれると手応えは感じていた。


 リリスには、女性の感性で風呂屋の飾りつけやタオル等の購入をお願いした。 また、生活に必要な物品や食料品も集めてもらった。金銭については、素材を卸しているおかげでかなりの貯蓄が増えている。

 ……もしかして、お風呂屋より稼げるのではと思う程だ。


 お風呂屋には僕のこだわりの店名を付けた。


『ふろやマウントフジ』


 『ふろや』という言葉はこの世界にはないのだが、あえて店名に入れた。

 マウントフジと言うのは言わずと知れた銭湯の顔だ。浴室の壁に大きな富士山を着色料と土を使った『変質』で描いた自信作だ。


 後々は食堂もオープンしたいと思っている。

 お風呂で温めた体を食堂で休めながら飲食してもらう。最高のひと時が過ごせるのだ。

 最初は人手もなくどの程度のお客が入るか分からないので、様子を見てオープンする事にした。


 オープン前に最後の一仕事が残っている。


 ……オープン許可をギルド長にからもらうことだ。これで許可が取れなかったらどうなるんだろう。メリルは問題ないと言っていたが不安は大きい。


 ギルドでは、ギルド長のフォラリーが相手をしてくれた。 かなりの切れ者で戦闘能力も高い。この町歴代のギルド長の中でも類を見ない程出来た人だという噂だ。


「ギルド長のフォラリーだ。この町に湯浴み場を作るというのは君かな」


 見た目は40代に見えるが、優しい笑顔の裏に気迫と秘めたる強さを感じた。


「ふろやマウントフジというお店です。湯浴み場ではなく、新しい概念を取り入れたので、『ふろや』としました」


「まあ良い。いつオープンしても構わん。毎月の出店料が払えなくなったら許可は取り消しだから心して商売しろよ。君の所は郊外なので金貨3枚としよう。ちなみにその店を利用するのにいくらとるつもりかね」


「貴族を対象としたお店ではないので、銅貨1枚を考えております。酒場で簡単な食事とお酒を1杯飲む程度の金額にすれば利用しやすいかと思います」


「そうか。じゃあ頑張ってくれたまえ」


 受付嬢メリルに金貨3枚を支払い権利プレートに営業許可を記録してもらった。

 いよいよ『ふろやマウントフジ』 オープンだ!!

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