020:祝!ふろやオープン

 最終的には、ふろやを当初の予定より造り込んだ。


『変質』の能力で修正も建て増しも簡単なのでつい調子に乗ってしまったのだ。

 まずは入口を通ると番頭。『男』と『女』の暖簾をくぐり分かれてもらう。暖簾をくぐった先は脱衣所だ。

 脱衣所には棚を設置して竹籠を置いた。そこに脱衣したものを置いてもらう。

 

 風呂場の作りは特に気合いを入れた。


 郊外の土地なので、購入した土地はかなり広かった。そのおかげで内湯と外湯を1つづつ作れるくらいの広さがあった。


 異世界に来て見た貴族の湯浴み場はいくつものお風呂があったのでかなり狭いほうの部類に入ると思うが、今の僕には2人で営業することを考えるとこれくらいが丁度いいのかもしれない。


 今思い出すと、転生して落ちた湯浴み場にいた女性たちは人間ではなかった。リリスとは違う種族の亜人だったのだと思う。


 お風呂場の内装は、右手側に洗い場として椅子と桶を置いた。椅子の前に水槽を作りお湯を満たしておけば、桶でお湯をすくって体を洗うことが出来る。

 左手側には内湯。岩風呂にした。扉を抜けた先に外湯。こちらは木風呂にした。それぞれの浴槽に出入り階段と手すり、床には転倒防止加工を施したので、子供や老人も安心して入れるように工夫した。 


 外湯に関しては、壁に寄りかかると空を見上げられ場所も作っておいた。ここで空を見上げると夜空の星が奇麗に見える。

 ……デートスポット用に貸し切り混浴時間も検討しよう考えている。


 覗き防止策として外湯を竹の柵で囲う。お風呂からの景観も考え、植物を見繕って日本庭園風にした。

 ……風というのは僕の素人イメージだからだ。


 お湯は僕の緑水を活用する。弱めの治癒効果を持たせて温泉の効能として謳えばお店のウリにもなる。日本で言う『炭酸水素塩泉』という泉質で効能は『切り傷、火傷、慢性皮膚病』だ。緑水の治癒効果と重ねるとぴったり合う。


 実は、飲むことで病気にも効果がある優れもの。更にこのお湯は洗浄効果があるので肌も浴槽も綺麗になるのだ。この辺りの効能は伏せておく。


 緑水を使ったお湯は万能過ぎるので、騒ぎにならないよう効果をかなり弱めた。お湯に入るたびにみんながポンポン傷や病気が治ったら怪しいお湯でも使っているんじゃないかと思われかねないからだ。

 

 僕が転送された時に落ちたお風呂の事を思い出していた。 

 ──しかし、入っていたのは美しい人たちだったなぁ。お風呂に入っていた女性の事を考えるると……


「──なぎさ、鼻の下が伸びてるよ。Hな事を考えているんでしょ」


 アタフタしながら顔を戻した。


 僕たちは住む場所として地下に部屋を作った。その部屋で僕とリリスは夫婦のような生活を楽しんでいるのだ。


 しかし勘違いしては困る。精気はたびたび吸われているが、やましいことはまだない。サキュバスとの間に子供が出来るのかは不明だが現在(いま)は我慢している。


 価格についてはギルド長に話した通り銅貨1枚。これは貴族の湯浴み場が銀貨1枚に対して10分の1である銅貨1枚に設定したのだ。酒場で食事と酒1杯程度を頼んだ料金なら妥当と考えた。


 とうとう僕が昔から夢にしていた『風呂屋をオープンさせる』という夢が叶った記念日となる日が来た。


「一緒に頑張ろう!」

 僕は、かねてからの夢が異世界と言うこの地で叶った事に満足していた。


「元気充填完了」 ──リリスは喜びのあまり僕に抱きついて精気を吸い取った。


『『 それでは ふろやマウントフジ これよりオープン致します 』』


 …………


 …………


 現実は甘くはなかった。色々と人脈を作って知名度を上げなど手を尽くしてきたがお客さんは来なかった。


 2日目、3日目…… いまだお客の数は …0人。


 心では、すぐに繁盛はしないまでも、オープンすればポツポツとお客さんが入って口コミで広がって大忙しになる事を期待していた。しかし数日経って0人とは想定外だ。


 生活費については素材を集めたりポーションを売る事で全然問題はないのだが、それではお風呂屋を始めた意味がない。みんなに喜んでもらってこそのお風呂屋さんなのだから。


 今まで通り、町の人とコミュニケーションを深め酒場に行って風呂屋を口コミで広げているのだが……


 客さんは来なかった……

 

 来なかった………


 そんな中、二人の冒険者が入ってきた。


 背が高く金髪で目が緑色の女性。白いシャキッとした革の鎧をを装備している。言うなれば女騎士。見とれてしまうほどカッコいい。


 もう一人は女の子。リリスと同じくらいの背丈で青いロングヘアーにくりっとした青い目がキレイな女の子。星空をあしらった柄の青と黒を基調としたローブを着ている。


 魔法使いと騎士なのだろうか。初めてのお客さんにリリスが対応する。


「いらっしゃいませ」


「ここは何をする場所なのだ」 

 ローブを着た女性が上目線で声をかけてきた。

 

 僕はお風呂場について簡単に説明をする。


「セレン。試してみたいのじゃ」


「はい。お嬢様。それでは2人お願いします」

 リリスが2人に付き添い案内をする。奥にある脱衣所に行って使い方を説明する。


 2人とも凄腕の冒険者なのだろう。このお風呂場を抜けたその先には高ランク者用の狩場である鉱山があり、そちらからここに来たのだ。


 2人がお風呂に入っている時は不安だった。自信はあるがこの風呂場をこの世界が受け入てくれるか心配だったのだ。


 30分程して女性たちが出てきた。


 彼女たちの表情、仕草、一挙一頭足に至るまで視線を向ける。


 ぼくとリリスで作ったお風呂。どんな感想をもらえるかドキドキしながら彼女たちの言葉を待った。

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