強さのひみつ
046:召喚魔法と召喚獣
新しい都市に出発する前に確認しておかなければならない事がある。
『緑の洗礼』でレベルアップしたウタハのもう一つの能力『召喚魔法』を。
──召喚魔法は魔物を呼び出し使役させることが出来る。呼び出せる魔物は様々でただ命令に従うだけの魔物や意思をもった魔物がいる。呼び出した魔物とどのように協力していくかは双方の契約に基づいて行われる──
召喚獣を戦いの中に組み込めれば戦略に幅がでるのではないか。そう考えていたのだが…… 平和を求める人間が戦う力を得る算段をしていることに気づいた。身を守る術は必要なのだと心で正当化するが、平和というのは力の上にこそ成り立つものなのではないのかと考えてしまう。
「ウタハ。封印していた召喚魔法を試そうかと思うんだ」
「そういえば私、召喚魔法が使えたんですね。……すっかり忘れていました。以前は『木人』と契約していたんです。呼んでみますか?」
「試してもらっていいかな」
魔方陣を描き魔法を詠唱すると、描かれた魔法陣から這い出るように手を出し頭を出し…… 出口をこじ開けるように巨大な召喚獣がゆっくりと現れた。
「えっ!? えっ!? 大きい…… 『木人』さん随分と大きくなりましたね」
『姉さんが能力アップしたおかげで『エント』にランクアップしましたよ。やっと会えて嬉しいです! 寂しかったです!』
30mを超えているだろう召喚獣が、遥か高い位置から低い声を響かせウタハとの再開を喜んでいた。あまりにも巨大すぎる召喚獣には丁重に帰ってもらった。
「ははは。あのサイズですとあまり呼べなくなっちゃいましたね」
「ずいぶんと大きな召喚獣を呼んだのじゃ」
「『エント』を普段の戦闘で呼び出すのは難しいから新しい召喚獣と契約することは出来ないの?」
「新しく召喚した魔獣と契約できれば私のパートナーにする事ができますよ」
ウタハによると、召喚魔法で描いた魔法陣から新たな召喚獣を呼び出して主従契約を結ぶことが出来ればいつでも呼び出せるようになる。新たに召喚した魔獣を必ず従属出来るわけでなく、何らかの条件を付けてお互いが気に入れば契約となるらしい。
「試してみますね」
ウタハは魔方陣を描き新しい召喚獣を呼び出した。
……魔方陣は光が走るように描かれ、まばゆい光と共に召喚獣が徐々に存在を明らかにしていく。
『あら、おにーちゃん久しぶり~』
魔獣は右手をフリフリしながらフレンドリーに声を掛けてきた。
「あら、アルラウネじゃない。久しぶりね~」
リリスが笑顔になって笑顔でに切り返す。
召喚されたのは、ベオカでウリフ老人や村の皆と一緒に霊芝草を守っていた魔獣であった。アルラウネってこんなにフレンドリーだったのか…… あの時は攻撃は防がれるしツルも切られるし、焼き尽くされそうになったので怖くて震えていたそうだ。
「ウリフが死んじゃってね~。ボチボチ町のみんなを手伝ってるよ~。ま~前みたいに義理立てる必要もないし、にーちゃんたちのこと好きだから手伝ってあげる」
召喚した本人であるウタハ不在で召喚獣の主従契約が結ばれた。ウタハには簡単にその時の経緯を説明しておいた。
「それでは、アルラウネさん。よろしくお願いします」
『おっけー。あくまで私はにーちゃんとねーちゃんの為に手伝うんだからな』
そう言ってアルラウネは魔方陣に消えていった。
「アルラウネさんの能力は凄いですよ!」
召喚して主従契約を結ぶと、本体を呼び出して一緒に戦うことが通常の方法なのだが、上位種はわざわざ呼び出さなくてもスキルだけ使用することが出来るという。
「見ていてください」
ウタハが指示した地面からツルがうにょうにょと伸びてくる。それを何本か出して見せた。
「これで、後衛としての戦いに幅が出来ます。私の矢筒は10本しか入れられませんでしたから」
「そういえば、なぎささんも召喚獣と契約できるかもしれませんね。召喚魔導師としてなんとなく適性を感じるんです」
「試してみませんか?」
「僕が召喚なんて無理だと思うけど…… 折角だから試してみようかな。魔方陣ってどうやって描くの?」
「それでしたら私が魔方陣を描きますので、そこに何かを呼びだすように魔力を込めながら念じて下さい」
ウタハは魔方陣を踊るように描き光を集める。光りを放った魔方陣に僕は何を念じていいのか分からず、ひたすら『こい、こい、こい……』と念じる。魔力の込め方も分からないのでとりあえず丹田にエネルギーを集めて魔方陣に流すようにイメージしてみた。
「来ました!」
青く光る魔法陣から現れた巨大な青い竜。激しい水を纏い低くうなるような声で名乗り鋭い目でこちらを見ている。
『我が名は三柱族が1人リヴァイアサン。我を呼び出したのはお前か』
「リィィ…… リヴァイアサンを呼んじゃったのですか」
ビックリした表紙に尻餅をつくウタハ。ユニは前屈みになってのめり込むようにキラキラした瞳でリヴァイアサンの体を舐めるように見ている。
「なぎさと言います。私と召喚の主従契約をしてもらえませんか」
『ワシを呼んだという事は上位の水使いか。ワシにその水を飲ませてみろ! この体いっぱいに飲ませられたら契約してやろう』
なぎさはリヴァイアサンに水の力を浴びせ続けた。その水をリヴァイアサンが吸っていく…… 吸っていく…… 吸っていく……
……吸っていく ……吸っていく。リヴァイアサンの体の既に2倍まで膨らんでいた。
『待った、待った…… もう良い。これ以上飲ませられたら太くなりすぎて外に出られん。と、いう事で契約してやる。 しかし、この体をどうにかせんとならんから暫くは出てこれんぞ。 この水を放出しても良いが、そこの帝国が水没してしまうからな。スキルも軽く使うと大洪水になって一帯を水没させるから使うなよ』
そう言い残しリヴァイアサンは魔法陣に潜るように帰った。
「なんの為に出てきたのじゃ、契約をするけど呼べない、スキルも使うなじゃと…… 何のために来たんじゃ~」
「ふしぎな召喚獣でしたね」
「い、いや凄い事ですよ。リリス、ユニ。三柱族と言えば最高峰の魔獣ですよ。人が呼び出せる代物ではないのですよ」
凄いのかもしれないけど、呼べないし使えないのは、気にすることないかもしれない。……しかしあの召喚獣はどこかで見た気がする。
砂浜での休息を終え、西にある『バチ王国』に向けて出発した。
【物語解説】
なぎさは召喚魔方陣を描くことができなかった。そもそも水の力を使うときも魔方陣は描かれず、色の力はスキルのようなので魔方陣自体を必要としない。 もし、リヴァイアサンを呼ぶ必要があるときは魔方陣を誰かに描いてもらわなければならない。
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