045:さらばスカイブ帝国【第3章完】
ドッカ──────ン!!!
爆発の衝撃が地面に穴を開け破片が四方八方に飛び散った。
「お主、何をしたんじや」
ファザリアが血相を変えて慌てて駆け寄ってくる。
「ガソリンを放出して熱を加えました」
「ガソリンって何じゃ。燃料と言ったら油じゃぞ」
この国の液体燃料と言えば主に原油。ただここ何百年もこの場所に留まっているので新しい燃料が開発されても知らないと言い訳をしていた。
自身が認知できる液体燃料であれば放出できるようで、不思議なことに石炭なども液体として放出できた。それを『変質』されば石炭として生みだすことができた。
ファザリアは「うひょー」とか騒いでいたが、元来はひょうきんな性格だったようで喜んだり驚いたり騒がしい。みながワイワイやっているときに恐怖を感じているのか、ただ黙って見つめていたのが勇者パーティーの一人、古式凛だ。
「凛ちゃん。この事は内緒にしていてほしいんだ。聖たちが気絶したあとにウタハがカメリンを食い止めて僕たちが逃がした。そういうことでお願いするね」
「なぎさ先輩たちは強いじゃないですか。なんでそれを隠す必要があるのですか」
「僕たちは平和に暮らしたいだけなんだ。そのために力があることをなるべく知られない方が良いと思ってる」
古式に僕の考えを伝えた。ウタハのトーナメントについては僕のミスだと思っている。あそこまで鮮やかに優勝するとは思っておらず、1人で戦わせたことが目立つ要因になってしまったことを…… しかし『戦乙女』の2つ名が襲う者を遮る盾になり、相対的に弱さが際立ったので良かったのかもしれないという事を。
「ファザリアも今まで通り灰の力を護る守護者として秘宝があるフリをしてもらえませんか」
「オッホッホ。良いぞ。面白いものを見せてもらったからのー。そこの刀を持った娘。仲間と共に入り口に飛ばしてやろう」
「あっ、待ってください…… 凛ちゃんさっき刀が折れてたよね。変わりに僕が作った刀を持って行って」
古式は胸の前で拳をぎゅっと握って震わしながら受けとるか迷っているようだ……
「ありがとう……ございます。 なぎさ先輩だと思って大事にするわ」
頬を赤らめ目を瞑り刀を胸に包み込むように抱きしめる。
ファザリアの詠唱で勇者パーティーを囲うように魔法陣が描かれ竜巻が巻き上がるように光が走り竜巻とともに姿を消した。勇者パーティーは無事に転移されたようだ。
「ファザリア。ひとつ教えて欲しいのだけど…… 25階の空にあった光る鉱石はどんな鉱石なの?」
「あれは魔鏡石といって光る鉱石じゃ。まあ正確には光を吸収し発光しているのじゃがのー。この近くの階層は青い光を閉じ込めて壁に混ぜ込んだから青光りしてたじゃろ」
──『魔鏡石』光を吸収し光を放出させる。放出された光をまた吸収して光を放出して……永続的に繰り返して光り続ける鉱石──
「その魔鏡石は少し分けてもらえないですか」
「ほれ、そこにある透明な石がそうじゃ。好きなだけ持っていくとよい」
なぎさはその場にある魔鏡石を『変質』で圧縮してバックにしまった。
「なんじゃ。ジゲンフォのバックも持っているとは…… まさかそんなに持っていかれるとは思わなかったわい。まーまたゆっくり作っていくわい」
「それじゃあ、お前さんたちは海岸の方に転移させるぞ」
「よろしくお願いします」
僕たちを囲うように魔法陣が描かれ、光の竜巻が巻き上がった。
▽ ▽ ▽
「みんな大丈夫?」
倒れている三人の体を古式が順にゆすって意識を回復させる。
「ん、んー。ここはどこだ」
頭を振りながら意識を失った場所と違う風景に混乱しながら辺りを見回す。
「ここは、グレーター迷宮の入り口よ」
「なんで…… ここに。 はっ、あのカメリンとかいう亀はどうした。なぎさたちはどうしたんだ」
「カ……カメリンを……ウタハさんが食い止めている間に……なぎさ先輩たちが扉の外に運んでくれたの…… そこに魔法陣が現れて……私たちはこの場所に転移したみたい」
武術一辺倒の生真面目な古式が嘘をつくことは強い心の葛藤と戦う必要がある。さらには助けてくれたなぎさ先輩への罪悪感が強く、まぶたを腫らすほどに涙をためながら訴える。
「やっぱりウタハさんか。なぎさはウタハさん1人を盾にして好き放題してるんだな! 虎の威を借る狐みたいな なぎさのところにいたらウタハさんが可愛そうだ! 今度会ったときは勇者パーティーに引き入れてやる!」
里中は古式の性格と言動から何か隠していることを気づいていた。しかし、それ以上はあえて触れられなかった。
「よし!最下層まではみんなで行けたんだ。今度こそあの鉄の亀を倒して秘宝を手に入れるぞ」
聖は立ち上がり美しく煌めく剣を空に掲げて気合を入れた。
▽ ▽ ▽
迷宮の北に転移されたなぎさたち。見渡す限りの海……海……海……広い海。
転移先は砂浜だった。海に反射する太陽の光が眩しい。僕が住んでいた地域は海に面していない場所だったので、久しぶりに見た広い海に感動してしまった。
新しい場所を見ると素材になりそうな物を探してしまう自分がいる。ここは膨大な素材の宝庫である。そう『塩』だ。
この世界にある『塩』は海水を汲み上げて蒸発させることで塩を取り出す製法なので生産量が非常に少なく貴重品だ。
『変質』で海水から塩のみを岩塩として素材化する。僕の力は10メートル程度だが採っても採っても岩塩として採取できるので楽しくなってしまった。
……気づいたときには海の塩分が薄まったんじゃないかと思うほど採取していた。
日も傾き始めたので、ここで野営をして出発は明日にした。せっかく開放的な雰囲気なので、お風呂は変わり種の五右衛門風呂にした。もちろん鉄釜でやるほどS(エス)ではない。土で風呂釜を作り『燃料涌泉』で燃料。お湯は海水から塩を抜き取った水だ。屋根のない小屋を作って風呂釜を置けば、星空の見える五右衛門風呂の出来上がり。
『……あーあー その辺りは迷宮から屋外へ出るときの転移先だから結界の中じゃぞ。向こうに見える岩山までは人や魔物は入ってこんぞ』
確かに500メートル程先に岩山が見える…… ゴツゴツとした岩の中に1本だけ細長く岩が伸びており、その上に白い木が穂先のように立っていた。まるで筆のように見える。
結界の中だと周りに気を遣う必要もない。思いっきり海釣りやバーべーキューを楽しんだ。
釣りはユニが1番上手い。勝因は「じーちゃんとやっていたかじゃ」だそうだ。次いでウタハ、流石に冒険者だ。そして僕…… 最下位はリリスである。リリスは敗因を「魚釣りは初めてだから……ごにょごにょ」と語っていた。
海水浴に必要な水着を綿を『変質』して作った。何でもいいと言っていたが、実際に作ってみると色がどうとか形がどうとか色々と注文が増え最終的には皆が満足する水着を完成させた。
海水浴は想像通り騒がしいものになった……
締めは五右衛門風呂。風呂釜を小さ目のにしたのが災いして晒し物になってしまった。3人は初めて見る風呂釜に興味津々で、浸かっているときも中を覗いたり、釜を触ったりとゆっくり出来なかった。
女の子同士のお風呂はワイワイやりながら入っている。……扉の前で番をしていると、女子会さながらの雰囲気で楽しそうな声が扉の外まで漏れてくる。そんな仲間たちに星を見上げながらほっこりしていた。
翌朝、僕たちは新たな街に向かって出発したのだった。
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