044:ファザリアのちから

「──今度は、僕たちが相手をします」


「逃げなくて良いのかい。追いはしないよ」

 余裕を持っているのだろう。美しく整えられた長い白髭を親指と人差し指で挟み滑らせながら弄りニコニコしていた。


「リリス。ユニ、カメリンの相手をお願いしてもいいかな」


「任せて (るのじゃ)。なぎさ」


「ホッホッホ。カメリンや…… いきなさい」



「むっ、む、り、だ、よ。わた、し……たちが、まった、く…かなわなかった……しかも……ふた……り、なんて……」


「大丈夫です。安心して見ていてください」

 ウタハは古式を抱き寄せ乱れた髪を整えるように頭を撫でて落ち着かせた。


 カメリンは再び鋭い尻尾を残して手足と頭を甲羅に隠し高速回転をする。そのまま踊るように動き回りユニを襲う。

 丸薬を飲んで変態した女性化ユニは、角を大きなハンマーに変形させて迫りくる高速回転しているカメリンの動きに合わせてバッドをスイングするように打ちつけ吹き飛ばした。


 カメリンは鉄の球のように壁まで吹き飛び弾むように跳ねかえって女性化ユニの元に戻る。甲羅が下を向いてしまい手足をジタバタさせるが揺りかごのように揺れるだけで起きあがることは出来ない。


「ウシシなのじゃ。さっき見たのを試してみるのじゃ」

 ハンマーを刀に変形させ……


「陣」

 ユニの周りに陣が走るように描かれジタバタしているカメリンを捉える。一瞬ユニが動いたかと思うと既に刀は鞘に収められていた。


 無音のまま動きが止まったカメリンに2本の斜線が入る。3つに分断された体が滑るようにずれ落ちた。


「私がトドメね。『コネクトトルネード』」

 詠唱が完了していたリリスは、炎と氷の魔法を同時に放出する。その力はすべてを飲み込む勢いで渦を巻きながら分断されたカメリンを包み一瞬で消し去った。


「今まで、複数属性の魔法を同時に打つなんて考えたこともなかった。もっといろいろ出来そうね」


 古式は驚愕していた。戦乙女が居てのパーティーだと思っていただけに……

 恐ろしいほどの強さを持っているその仲間たちに……


「ホッホッホ、やりますね。私はファザリア、灰のファザリアです。そこの坊主(ぼうず)や、先の短い老いぼれと一戦交えてもらおうかね」

 手を振りかざすと、リリスとユニ、気絶している勇者たちは滑るようにウタハの居る扉前まで移動する。それを取り囲むように黒い液体が弧を描き追いかけるように炎が燃え上がって壁を作った。


「みんなはそこで見ていてくださいね」


 ファザリアは椅子からゆっくりと立ち上がり、階段を下りてくる。


「さてやりましょうか」


 ファザリアを中心として黒い液体が波紋のようの広がり液体を追うように真っ赤な炎が立ち上がり火柱を作り出した。天井まで届こうかという高さに分厚く広がる炎が風を巻き起こし威圧感を増長させる。

 ファザリアは手を振り払うと、火柱の中から黒い大小の雫が大量に向かってくる。その雫は順に発火し黒い炎となって僕を襲った。


 僕は水の力を竜巻のように巻き上げ僕を中心とした水柱作って対抗した。黒い炎は分厚い水柱に遮られ水蒸気を上げながら消えていった。


 火柱と水柱が向かい合い対峙する。数秒の膠着状態が長い時を感じさせた……


 先に仕掛けたのは僕。水の力をレーザーのように放出しファザリアを薙ぎ払う。

 水の力は火柱を斬るように薙ぎ払うが寸前でファザリアはジャンプしてそれを避ける。ファザリアはそのまま空中で火球を宙に何百個…… いや何千個も作りだして雨のように降り注いだ。


 僕を襲った火球は水柱で防ぎ水蒸気が立ち上り天井を濡らして水滴を垂らす。地面に落ちた火球は地面に突き刺さって天井まで届くほどの火柱を巻き上げる。


沈黙が辺りを包む──


「はっはっは。負けじゃ負けじゃ。お主やるの~。そうか…… 緑と紫を……。その力無しでわしに勝つとはとんでもない坊主じゃ」


「どういうことですか」


「お主の水柱をワシの火球が抜けられない時点で勝てんのじゃ。お主が放った水は火柱を切り裂きよった。いくらやってもわしの力じゃお主の水柱を破れんのじゃ」


 ファザリアが手を振り払うと、扉の前でリリスたちを取り囲んでいた炎は消え去り語り始めた。


 この老人は灰のファザリア。ドリアラやヘルメスと同様に色の力を守護する者であった。

 この迷宮は元々『灰の迷宮』と言い、人を育てることを趣味とするファザリアが誰でも自由に戦闘の経験が積めるようにフロアごとに強さの違う魔獣を置いて自己研鑽出来るように作った場所であった。

 鍛錬中にケガや死にそうになるとファザリアが入り口に転移させて、より深い階層へ何度でも再挑戦出来る安全な試練の場だった。 


 しかし、灰の力を知った皇帝がファザリアを倒してアーティファクトを奪って我が物にしようと結界で迷宮を封鎖した。そこにトーナメントを使って強い人間を選定し秘宝探索させていたのだ。その探索者に人参をぶらさげてこの迷宮に差し向けていたのだ。


「まあ、お主なら大丈夫だろ。ほれ」

 ファザリアは灰色をした蝋燭(ろうそく)をなぎさに投げ渡した。

 

 蝋燭をキャッチすると、蝋燭から灰色のオーラが溢れだし体を包み込むように流れ込んできた。


「灰の力は『燃料涌泉(ねんりょうゆうせん)』と『熱与奪(ねつよだつ)』だぞ」

 燃料を生み出し熱を与奪する力だという。燃料を発生させて熱を加えれば発火する。ファザリアがやった火柱や火球はこれを応用したもので、熱を奪えば凍らすことも出来るそうだ。


 試しに燃料をイメージして少し放出すると黒いドロッとした液体が湧き出し熱をイメージすると……


 ドッカ──────ン!!!


 風圧で吹っ飛ぶほどの大爆発が起きた。


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