084:天界問題
「なぎささん、ペリーヌの心が決まるまでそっと見守ってもらっていいかな。それまでここに滞在したら良いよ」
「ペルシャありがとう。そうさせてもらうよ。それにしてもこの国は空に浮いているなんて不思議だね」
──(回想:51話)
ペルシャは天女族で、羽衣の力で空を飛んで天界にある自分の住む国と、この地を行き来している。天界に来た時には改めてお礼をしたい。天女族といっても、人族やワンダ村で見た人犬族と同列なもので特別な種族ではないことを理解してほしい。それと天女族の存在は秘密してほしい事をお願いされた。
───
「実は空にあるわけじゃないの。場所的には……スカイブ帝国から海を挟んで北ね。豆の木を使って転移していると思ってもらっていいわ。時折流れ着く遭難者にこの地がバレないようにマーハたちがいるのよ」
「話が難しくて分からないのじゃー」
「みなさん、お疲れでしょうから今日の所はお休みください。なぎささんと一緒に寝るのはまだ恥ずかしいので、リリスさんたち女性と一緒に寝たいです。なぎささんは、前に使った客室を使って下さいね」
ペルシャは女性陣を連れて食堂を出て行ってしまった。一人残された僕は料理を平らげ客室に向かった。部屋の中は以前訪れたままでであるが、あれから数か月前しか経ってないのに、かなりの年月が過ぎたような懐かしい感覚になった。
窓を開けて風に当たっていると色々なことを考えてしまう。屋敷を中心に波紋のように広がる田畑、一棟しかない建物で村と呼んでいいのか不思議な村だが、そんか事が微々たることに思えるくらい、気持ちい風と月明かりに照らされた田園風景が美しかった。
「あれ、こんな夜中に人?」
窓から見える広場に人影が見えた。姿は見えないが片方はペリーヌ王女の出で立ちに見える。何か深刻な雰囲気を感じてみんなにバレないように屋敷を抜け出して広場に向かった。
天女族は男性と結婚すると家庭に入って生活をすると話していたので、夜は村に人がいなくなるので人影は珍しいのではないか。王女と密会して人物が気になった。あたりは不穏な緊張感を醸し出していた。
広場まで来ると人影の正体が分かった。マーハであった。王女とふたり深刻な顔をして話し合いをしていた。
「なぎささんじゃないですか~。こんな夜中にどうしたんですか~」
「窓からふたりの姿が見えたもので…… 何かあったんですか」
「実は……」
ペリーヌ王女は黙ってしまった。こんな夜中に密会なんて、部外者には言えないような重大な話なのだろう。王女は何かを言いたそうにしては言葉を飲み込み躊躇している。
「ペリーヌ様~、なぎささんに相談してみましょうよ~。ペルシャ様のように解決してもらえるかもしれませんよ~」
王女は重い口を開いた。天界(この村の名前)に危機が迫っている。海に囲まれたこの村は生活用水として海水と地下水を利用しているのだが、海の汚染が進んで、洗濯や塩の採取に適さない水質になりつつあった。
羽衣専用の貯水池には霊石が沈められているが洗浄効果が薄まっている。
地下水も汚染が進み、飲食に適さなくなってしまっていた。辛うじて洗濯に使えているが、天女として必要な羽衣の清潔が保てず、汚れが積み重ねていくと、機能を失い、空を舞う事も屋敷を使う事も出来なくなってしまう恐れがあるとの事だった。
衛生的な地下水は量が限られているので、飲食分で精いっぱいなので、その他に回す余裕もなく、かといって汚染された海水を飲食にまわすことは危険が伴い出来ないようである。
家庭にいる者は、旦那と生活する自宅で洗濯する方法もあるが、天女族の掟で禁忌とされている。緩和する事も考えたが、天女族の存在がバレることを恐れて踏み切れないようだった。
「それならペルシャの時のように霊芝草で洗濯したらきれいになるんじゃないですか」
「そ~なのよね~。でも~、霊芝草は貴重な薬草なので中々手に入らないのですよ~」
「天女族に伝わる文献で、霊芝草はワンワン岬の先にある魔人の住むオアシスで採取できるという話があるの。ペルシャの話ではあと100年は待たないとならないって言っていたので困ってしまっていたの」
「じゃあ、これどうぞ」
バックから霊芝草を取り出して王女に手渡した。
「これは霊芝草……。なぎささんなんで……」
「少ないですが何個か在庫がありまして。良ければ差し上げますよ」
「こんな貴重なものを…… これで当面は問題を解決することが出来ます」
「当面ですか?」
「ええ~。霊芝草一本を貯水池に沈めておけば1か月位は水質の洗浄効果があるとおもうのですよ~。それを定期的に交換できれば良いのですけれどね~」
「海に流されるごみや油を遮断できれば一番良いんだけど、どこから流れ着くか分からないから難しいのよね」
霊芝草について心当たりがあった。先生が領主を任されているコツにある『コッカオ』。こことの繋がりがもてれば問題は解決するかもしれない…… しかし、天界とコッカオの物理的な距離を考えると難しいのではないか……
「なぎささん、どうしましたか」
「ええ、霊芝草に心当たりがありまして…… コツの知り合いに頼めばあるいは……」
「コツ! 今、コツって言ったのか! あそこは…… うーむ!」
「マーハ、言葉言葉!。なぎささん、実はコツの部隊長である『イサヤ』さんという方がマーハの旦那なんですよ。それで、コツという言葉に過剰に反応してしまったのだと思います」
「えぇぇ! あのイサヤさんとマーハさんが夫婦だったんですか。 コツのために一生懸命職務を全うしていましたよ」
「そうなのよ~ 昔から真面目で頑張り屋なのよ~ コツのために一生懸命で素晴らしい人なんだけど~ ……家に帰っても食事と寝るだけ! 非番も仕事に行っちゃう! 寂しくなって飛び出したのよ!」
マーハのキャラが不安定になっている。しかし気持ちは分かる気がする…… 母から、父は家庭を顧みない人だった。いつも帰ってくるのを待っていたけど寂しくて家を飛び出したと聞いたことがある。
「マーハさん。そんなことがあったんですか。コツに霊芝草の交渉に行ったらつながりが出来ちゃいますけど良いですか」
「もちろんです~。自分のプライベートと種族の命運を天秤にかけられませんから~」
「マーハ、今回は私がなぎささん同行しましょうか?」
「王女様~、私に行かせてください~。成功させて帰ってきますよ~」
「ペリーヌ王女、天女族は伏せて交渉が成功するように尽力しまてきます」
そうは行っても一つ問題があった。天界からコツまでの移動にかなりの時間を要するのだ。この問題と、コツに向かう人選。ここを考えていかなければならない。
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