083:異空間ルーム
屋敷の扉が閉まり、新たに扉を開くと全く別の内装が広がっていた。どことなく見たことのある内装だった。
「懐かしいわねー。ここはペルシャと会った時の屋敷ねぇ」
赤い絨毯の先にある階段は途中で弧を描くようにY字に分岐している。階段の合間には巨大な絵画が飾られ、その絵には天使たちが楽しそうに遊ぶ姿が描かれている。その中には僕に似た人物が描かれていた。
食堂は左方向へ向かって階段を登り、正面が食堂であることが分かっている。
食堂に向かって歩いていると、おもむろに女王ペリーヌが屋敷の説明をしてくれた。この屋敷は天女族全ての家を兼ねており、羽衣を持った者が扉を開けると屋敷の中に自分専用の空間が出来る。
羽衣を持つ女王に認められた者が屋敷の扉を開くと自分の専用空間が作られ、羽衣が認証キーとなり自由に出入りできるようになるという。
ここに建つ屋敷1件が一族全員の住み処となり公共施設も兼ねているという。空間の数はおよそ1000。全ての空間には絵画が飾られ、そこに描かれた者は空間の主に認められた証となり自由にアクセスできるのだという。
ペルシャが帰れなかった件は、屋敷のもう一つの機能が関係している。この屋敷は空間の出入り口を別の場所に1ヶ所だけ作ることが出来る。その出入り口をつくるために現地で羽衣の力を使う必要があるという。
ペルシャは、女王(はは)を驚かせようと、1人でスカイブ帝国東に屋敷を建てたまでは良かったが、周辺を散歩していると、水場で洗濯をしたら汚してしまったので、羽衣の力が喪失し、屋敷空間の機能が使えずこの国に戻ることも空に浮くことも出来なくなってしまったようだ。
不幸なことにペルシャはサプライズで出て行ったので居場所も分からず探すことができなかった所を助けてもらったということみたいだ。
話が途切れる頃には既に食堂の前で立ち話になっていた。ユニは既に飽きていたようで話が終わるや否や勢いよく扉を開けて駆けていった。……それもそのはず扉の外にまで食事の美味しそうな匂いが漂っていた。
「みなさん。お久しぶりです。あの時は本当にありがとうございました。あなたがたがこの世界に足を踏み入れて直ぐにシェフにお料理を作ってもらったの」
「ペルシャ。ちゃんと前もって説明しておかないと、侵入者かと思って警戒しちゃうでしょ。マーハたちにも余計な心労をかけなくて済んだのに」
「ごめんなさい。どうしてもみんなをビックリさせたくて……絨毯さんがビックリさせた方が楽しいからって」
「お・な・か・空いたのじゃーーー。こんないい匂いの中我慢できないのじゃーー」
「あらまぁごめんなさい。ペルシャ、折角だから食事にしましょう」
肉や魚、野菜などの見知った料理だけでなく、民族料理やオリジナル料理なども彩りよく盛り付けられ、テーブルにところ狭しと置かれていた。
『『いただきまーす』』
ユニやウタハはすごい勢いで食べ始めた。普段は僕の作る料理を食べることが多いので、味に筋が通っているシェフの料理がよっぽど気に入ったようだ。
……時折、僕の料理に失礼なことを言っているのが聞こえた。
「そういえばペルシャ。絵画になぎささんが書かれていましたが、あなたのプライベートルームに男性を自由に出入り出来るようにしてしまうのは好ましくありませんわよ」
「お母様、いいのですよ。私を助けてくれたなぎささんと結婚したいです。それになぎささんと一緒にいる女性たちとも仲良くしたいですし、みんなと一緒に暮らしたいのです」
思わすむせ込んでしまった。リリスとアカリの目つきが少し怖かったが、ユニとウタハは聞こえていなかったのか、食べ続けていた。
「それはいい考えだわね。天女族は結婚しても天女族ということを旦那に明かしません。天女族の子は必ず女の子が生まれ、成人すると母から子へ種族のことを教えて新たな旦那様すことで種を残しています。この種を知っているなぎささんが姫であるペルシャと結婚したらこの地始まって以来の王様が誕生するわね」
ペリーヌ王女は笑っている。そんなに簡単に種族にとっての大きな変化を決めてしまって良いのだろうか…… アカリとリリスは「何か言ってやりなさいよ」という仕草で訴えている。
「王女様、ペルシャ。その話はあとでゆっくりするとして……」
リリスとアカリは「断らないの?」という顔をしていた。それを見て言い方を失敗した……あちゃーと思ってしまったが、どうしても聞かなくてはならないことがあるので話を続けた。
「ベヌスを護る海底神殿について聞きたいのです」
ペルシャは良くわからなそうな顔をしていたが、ペリーヌ王女は明らかに知っている表情を一瞬見せた。
「あなた方はベヌスをご存じなのですか」
「はい。一度ベヌスに行ったことがあります。どうしてもドリアラに聞きたいことがあるのでベヌスへ渡る方法を探しています」
「そうですか。ドリアラ様に会いに……。ベヌスや海底神殿はどうなっていましたか」
「ベヌスは荒廃していました。しかし、今は緑あふれる姿を取り戻しているので安心してください。そこで海底神殿の守護者であったサキュバス族リリスと知り合ったのです」
リリスは角と羽を出して、サキュバス族の姿を現してアピールした。
「そうですか…… サキュバス族が守護者を継いだのですね。確かに私たち天女族は守護者としてベヌスを護っていました。しかし、とある事情で海底神殿を去ったのです」
「詳しい話を言いたくなければ言わなくても大丈夫です。僕が教えてほしいのは一つだけ、海底神殿への渡り方を教えてください」
…………部屋の中は食事の音だけが響いていた。
「みなさん。もう少しだけ考えさせてください。ドリアラ様と内密にする約束なのですが、きっとあなた方ならドリアラ様も許して下さるでしょう。しかし、渡る方法が雲を掴むようことであり、気持ちの整理もついていないので、しばらくこの村でお過ごしください」
そう言って、王女は席を立ち食堂を出て行った。
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