085:コツとの交渉
この天界(くに)からコツへ移動するのに何日かかるだろう。時間の問題もあるが、夜をまたいで墓地を越える事がユニやウタハにとって重大な問題になるだろう。天界に留まってもらうかタマサイ側から迂回する方法も考えなくてはならない。
「なぎささ~ん。どうしましたか~」
「ああ、マーハさん。コツまでの移動を考えていたんですよ」
「それなら~ 私の家がコツに通じているので~ 直ぐにでも行けますよ~」
「えっっ そうなんですか! ……そういえば、屋敷内の自分専用空間に別の場所へと通じる扉を作れるって言っていたような」
「はい~。『イサヤ』と結婚した時に貴族街に実家として建ててあります~。直ぐに出発しますか~」
マーハは天然なのだろうか、街灯の無いこの町では辺りは闇に包まれ、時間で言えば既に日付が変わるくらいの時間である。
「いえ、今日は遅いので明日出発しましょう」
王女とマーハにお辞儀をして屋敷に戻った。屋敷に到着するまで色々な考えが頭を巡った。霊芝草を定期的にこの国へ届ける事が出来れば一番良いのだが、いくら見知った人たちが交渉相手だとしても、国を守る人たちから簡単にOKを貰えるとは思えない。
ガチャ
何気に屋敷の扉を開くと、思い描いていた景色と違って一瞬の混乱が訪れた。リリスたちの居るペルシャの空間に入ったつもりが、僕が1度入った(82話)空間が広がっていたのだ。真っ暗闇の中、扉をガチャガチャと開け閉めするも、ペルシャの空間にたどり着ける事は無かった、
初めて入るこの空間は何度も来た場所であるように全ての部屋や位置、お風呂場やトイレに至るまで場所が手に取るように分かった。
この空間全てが僕の理想とする住まいなのだ。 ……お風呂の場所を1か所しかイメージしていなかったのは失敗したと思ったが。
他に行く当てもないので、この屋敷にある部屋で休むことにした。建物の中を興奮しながら見て回ったこともあって就寝したのが明け方近くになっていた。
▽ ▽ ▽
「なぎささーん、リリスさーん。どこですかー。食事の支度ができたみたですよー」
「ウタハ! どこを探してもいないのじゃ」
「なぎさちゃんとリリスちゃんは、どこに行ったのかなー。二人で逢引きしていたりして」
「みなさんどうしたのですか?」
食堂からペルシャが足早に出てくる。
「なぎささんとリリスさんがどこにもいないんですよ」
「アカリの言う通りふたりで逢い引きしているのじゃ!」
「みなさんちょっと待ってくださいね」
ペルシャは目をつぶり何かを探すように顔を軽く左右に動かしている。一本の光の線がアンテナのように頭から伸びてきた。
「…………」
「分かりました。なぎささんとリリスさんは、なぎささんの空間にいるようです。行ってみますか?」
「もちろん (なのじゃ)」 みんなの声がハモった。
屋敷内の空間移動は、扉の前で相手を想い描きノックをする。在宅していれば招き入れてくれるという普通のやり取りだが、全ての部屋空間にある絵画にお友達登録をすればその人物が描かれる仕組みで、描かれている人物は自由にその空間に移動できる。
王女や姫などの一部は、屋敷空間内の存在者と生死の把握、移動までもできる。緊急事態に備えてのことだが、絵画に触れて思念を送り入室許可を取るのだが、そのまま絵画を通り抜けるようになぎさ空間へ移動した。ふたりが別空間で過ごしていることにペルシャに嫉妬心があったのかもしれない。
その空間の一室でなぎさにくっつくようにリリスが寝ていた。
ババッッチチーーンン
アカリとユニのそれぞれの手のひらが両頬にヒットした。頬に伝わる痛みと睡眠中の急襲に驚いて飛び起きた。
「なにをしているの (じゃ)」
「あぁ、おふぁよう…… みんな揃ってどうしたの」
みながベットの上を指差している。なんのことかと思って目線を向けると……
「リリリリ……ングッ リリス! なんでここにいるの!?」
体を起こし目を擦(こす)りながらニコッと笑顔で目を合わせる。シーツを体に巻き付けているが、隙間から肌が露出している。寝起きの可愛い仕草につい見とれてしまい、他の存在を忘れてしまった。
「ハイハイ。その辺にしてもらって良いかしら」
アカリがリリスに服を羽織らせ説明を求めた。どうやら僕がリリスを連れ込んだのではなく、ベッドに潜り込んだことを理解してくれたようだ。
「夜中に目を覚ましたらなぎさが居なくて……夢魔を使ってなぎさを辿ったらここに来たの」
ニコッとした笑顔がとても可愛い。ふたりの世界に入りそうな雰囲気が広がり始めたところでペルシャが引き戻した。
「昨晩、ママとマーハと話をしていたみたいですが何かあったんですか?」
すっかり忘れてしまっていた。昨晩のことをかいつまんで説明し、霊芝草の交渉を目的にマーハとコツに向かうことを話した。今回は交渉に行くだけなので竜崎を知るアカリに同行をお願いした。
リリスたちが『』怒ると思っていたが、逆にアカリから文句をいわれてしまった。どうやら、ペルシャを案内役に女性だけで天界を散歩する約束をしていたらしい。
アカリとマーハを連れて、マーハ空間を経由してコツに出た。マーハの持つ屋敷空間は、幼少期を過ごした家をそのまま再現しているようで、父親が亡くなり、天女族である母と共に住んでいた場所。母親の死後、母親の屋敷空間が消滅したことで自分の屋敷空間の内装を再現して住んでいる。
驚いたのは、蒔田先生の住む屋敷の近所であった。思い返してみると、コツにいた時に何度もこのマーハの屋敷前を通ったことを思い出す。頭の中にある点と点がつながったことで物語の伏線が回収されたような嬉しさがあった。
コツを発ってから1か月も経っていないのに、懐かしの故郷に戻ってきた感覚がある。ここに僕の屋敷を建てたら幸せに暮らせるのかなぁ…… なんて考えていた。
「なぎさっ! なぎさじゃないか。なぜこんなところに居るんだ…… それに……マーハ殿ではないか。それと可愛い女の子…… なぎさ! お前はいつも女を連れて歩いてるんだな! リリスたちはどうしたんだ!」
「琴ちゃーん 久しぶりー」
アカリがロケットのように竜崎に飛びついた。咄嗟の出来事に無意識に体が動いたのだろう…… 竜崎の拳がアカリに向かって放たれていた。 アカリは何事もなかったかのように拳をすり抜けて竜崎に抱き着く。予想外の出来事に竜崎は普通の女の子のように慌てていた。
「那由姉さん、その姿じゃ竜崎には分かんないよ」
「那由…… 神薙先輩!? 貴様は神薙先輩だと言うのか!」
「琴ちゃん。貴様とはご挨拶ねぇ 道場でさんざん一緒に鍛錬したじゃない」
「あのう~。そろそろ本題に入っても~ 良いでしょうか~」
「そ、そうだ! アカリ、竜崎。再開の喜びは後でゆっくりするとして先生のところへ急ごう」
アカリとマーハを連れて、領主の屋敷に向かった。何かを感じ取ったのか竜崎も一緒に来ると言い先生のいる屋敷に入った。
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