086:つながる関係

 コツの屋敷に戻ると家に帰ってきた懐かしい気持ちが沸き上がる。この世界に来て初めて同級生に優しくしてもらった場所であり、短時間でも安心して生活できたから体が覚えているのかもしれない。


 屋敷に到着すると執事とメイドが出迎えてくれた。ボディーガードも兼ねているのか、優しげな出で立ちの中に強さを感じる者ばかりだ。


 竜崎によると、流行病(はやりやまい)でコツは貧困が蔓延していたが、先生が領主となってから復興が進み国が繁栄したことで。雇用問題や安全対策の一環から国民に懇願されたので受け入れたそうである。


「なぎさくん、久しぶりね。マーハさんも一緒なんて珍しい組み合わせね。……それにそちらの女性は誰かしら! また新しい女性を連れているのね!」


「先生。この女性は姉みたいな人です」


「んまぁ~! 彼女だけでなく、年上の女性まで手籠めにするなんて(怒怒怒)  先生は絶対に許しませんよ!」


「ちっ…違います! 僕の幼馴染なんです。高校生の時に行方不明になってしまった姉なんです」



「先生! なぎさの言っている事は本当です。今は女たらしになっていますが、その女性は『神薙那由』。わたしが高校生の時からお世話になっていた神薙神社(どうじょう)の娘です」


「竜崎さんが言うなら信用できるわね。そうですか……叔母さんの娘…… そっか。最後に会ったのは小学生だったわねぇ」 



「先生は神薙神社を知っているんですか?」



 こんな時に世間の狭さを感じる。どうやら先生は、神薙那由の父『神薙京』の姉『神薙舞』の子で、那由とは従妹関係だった。竜崎が高校時代に弓道部が廃部となってから、剣の稽古に神薙道場に行っていたことは知っていたが、僕が神薙神社と幼馴染の関係にあったことは知らなかったようだ。




「あの~ そろそろ本題に入りませんか~」


 意外な再会に雰囲気は同窓会。緊張感の欠片もない空気になっていた。そこをマーハが遮り本来の流れに戻そうと必死そうに見えた (表情は変わらないが)。

 


「先生、ポーションのことなんですが……」


 霊芝草のことは伏せて話をした。コツ領に新しく作った町『コッカオ』のポーションを、マーハの故郷で定期的に購入したいことを伝えた。


「そうですか……。元々なぎささんの町でもあるわけですから断れません。しかし、コツの領主として一つだけ聞かせてください」


 先生から聞かれたことは『戦いや戦争に使うのではないか』ということ。確かに町でポーションを定期的に購入したいと言えば、戦や魔獣討伐で怪我をした兵士を癒す目的を想像するのだろう。



「一時的であれば魔獣討伐だと思えるんだけど、定期的な購入となると色々と物騒なことも考えちゃうのよね。でもねっ、私は領主をなぎささんに任せたいって言ったでしょ。コッカオは町長を。ヨハマ王子に至っては国王の座を譲るとまで言わせたあなたを信じるわ」


 …………


「ありがとう。マーハたちの生活にどうしても必要なんだ」


 この国では、定期的な軍事物資の取引について領主の許可が必要となる。薬草やポーションもその一部であるのだ。商取引のルールはメイシンガで『ふろや』をオープンした時に国の情勢と共に色々と学ばされた。


 ドタドタドタ バタン!  


「マーハ、マーハ! 帰ってきてくれないか」


 コツで竜崎が将軍のもつ部隊の部隊長イサヤが血相を変えて屋敷に飛び込んできた。礼節を欠いた上、額には汗、鎧の隙間から漏れ出す湯気が必死さを醸し出している。マーハが町に戻ったことを聞きつけ、訓練を放って駆け付けていた。



「あなた! 仕事を優先して私を放っておいて! 今更何のつもり!」


「本当に申し訳ない。これからは家庭を大事にするから戻ってきてはくれないだろうか」


「わたしには今の生活があるの! 今は任務でなぎささんと来ているけど故郷に戻らなくてはならないの!」


「それからでも良い。任務というからに要職に就いたのだろう。出来る範囲で良い! 私の妻として一緒にいて欲しいんだ!」


「う~ん~。国を護る身としては~…… あ~。今のは聞かなかったことにして下さいね~。なぎささんは~ どう思いますか~」


 どうやらマーハは天然の様だ。夫婦喧嘩を目の当たりにしたせいなのか、『国を護る』という部分には誰も触れなかった。でも、夫婦喧嘩のことを振られても恋愛経験も少ない僕に良い答えは浮かばない…… でも、ここはしっかりと返さなければならない使命感があった。


「マッ マーハさん。僕は、よっ良いと思います。ああなたなら任務を全うしながらでも立派にイサヤさんとの夫婦生活を続けられると思います。それに、いつものマーハさんに口調が戻っているのでイサヤさんとの再出発を心の中では受け入れてるのではないでしょうか」



「なぎさちゃん、琴ちゃん、叔母さん。ひとりの男性にそこまで愛されているのって素晴らしいことだわ。色々手を出している誰かさんにも聞かせてあげたいわね」



「そうだな。神薙先輩の言う通りだと思うぞ」



「やっぱり女性はひとりの男性から愛されるべきよ! ……それと叔母さんはやめてぇぇ」



「その通りだ! 蒔田殿。そろそろ私の願いに首を縦に振ってはもらえないだろうか」


「ミルド王子!」


 どうやらコツの所属するヨハマ連邦第2王子である『ミルド・ベイ・ヨハマ』(44話~)が蒔田先生(コツ領主)に求婚をしているらしい。異世界人であるということ、身分の違いなどから断ってはいるのだが、ミルドは決して諦めず時間を見ては先生の元に訪れているそうだ。


 蒔田先生とミルド王子、イサヤ隊長とマーハたちの大人の事情は本人たちに任せて、霊芝草の栽培地であるコッカオ(69話)に向かった。


 

「大人って大変ねぇ。なぎさちゃんも決断しなければならないときが来ると思うとドキドキしちゃうわね」


「ほんとうですね~。なぎささんは誰と結ばれるんでしょうね~。……私は同じ一族としてペルシャ様を応援しますけど~」


「なぎさはきっと。優柔不断で選べないと思うんぞ。まあ、それで全員に逃げられたら仕方ないからコツで養ってやってもいいぞ」


「琴ちゃん、それはある意味プロポーズよ」


「ちっ、違うぞ! 昔馴染みの情けだっ。 なっ、那由先輩。へっ変に勘繰るんじゃない」


「若いっていいわねぇ~ 私もそんな時代があったわねぇ~ イサヤと知り合った時は~ ……」


 いつの間にか追いついてきたマーハを含めて女性陣が恋愛話で盛り上がっていた。なるべく話題に入らないように気配を消し飛び火してこないように注意していた。


 騒がしくも肩身の狭い中、短い道中が何倍の時間がかかったように感じながらもコッカオに到着した。



 

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