049:魔人伝説
「ペルシャちゃんじゃないの~。久しぶりね~」
マルチーズっぽい女性から声をかけられた。マルチーズっぽいと言ってもイメージする犬がマルチーズというだけで人型の亜人(デミちゃん)である。 ……ただ耳と尻尾はマルチーズだが。
「ララパさんお久しぶりです。やっと協力してくれる人を見つけることが出来ました。今度こそ羽衣を奇麗にする薬を見つけたいです」
「今度は採取できるといいわね。もう何十組と失敗しちゃってるでしょ~」
今、不穏な事が聞こえた気がする。何十組? そんな危険な依頼だったのか……
「──あのドックカフェってところに行くのじゃ」
話の途中で、ユニはリリスとウタハの袖を掴みグイグイと引っ張ってお店の方を見ている。その瞳はいくつもの星が煌(きらめ)いているようだった。
ドックカフェを遠目に見ると、正真正銘マルチーズやポメラニアン、柴犬などの立派な犬が…… ん?
この村は女性の冒険者が異常に多いことに気づいた。犬カフェで寛いだり、亜人(デミちゃん)と触れ合ったりと楽しそうにしている人たくさんいた。
「なぎささん。この村は岬に住む魔人に願いを叶えてもらったんです」
「魔人に願いを?」
「はい。『犬と人間の共存と繁栄』を願いました」
ペルシャはこの村について説明してくれた。
ワンダで人間が産まれると犬も同時に生まれる。その1人と1匹は共存関係となり精神と肉体が共有されるので、片方が傷ついたり死亡すると共存している相手にも同様な事が起こる。大体10歳で大人になり90歳までが成人で寿命は120歳程度だと言う。
「この村に女性が多いのは、単純に犬が可愛く冒険の合間に癒されたい人たちに女性に多いからです。男の人は酒場のあるツッカイまで戻る人が多いですね」
確かにこの村に動物好きがいると離れられなそうである。元々この村に長居をするつもりはなかったので、食料や素材を買い足してワンワン岬へと出発した。
「いやなのじゃ、いやなのじゃ。もっとワンワンと遊ぶのじゃ~」
ダダをこねるユニ。リリスやウタハも犬と遊びたそうに後ろ髪を引かれているが、キリがないので帰ったら好きなだけ遊ばせてあげる約束でワンワン岬に向かった。
▽ ▽ ▽
洞窟の入口から海底へと続く洞窟はとても肌寒く薄暗かった。地下に進むにつれて海水が冷蔵庫のように冷気を密閉しているのか寒さが骨身に染みてくる。
こういった場所のために新しい魔法を考えていたのだ。『燃料湧泉』で放出した燃料を球状にして『熱与奪』で着火。灯油を使えば明かりにも暖房にもなる優れもの。少しづつ燃料を供給すれことで長持させることができるのだ。
素晴らしいことに灯油のツンとする臭いもしない上に燃焼による一酸化炭素も出ていなかった。
ん? いつのまにかみんなが僕から離れて歩いている。
「ひ、ひとだま……」「幽霊が出るのじゃ……」「お化けは嫌いです」「わ、わたしも幽霊とかは苦手なのです」
どうやら、ゆらゆらと浮遊する火球が人魂に見えたらしい。それにしてもペルシャまで幽霊が苦手とは…… あの洋館に1人で住んでいて怖くはないのだろうか。
岬の洞窟に出現する魔物はレベルが15~20程度。確かに中級冒険者向けの狩場なのかもしれないが、ララパが何十組も失敗したというほど難しい依頼だとは思えなかった。
現に、ウタハの召喚魔法を使ったスキルで、アルラウネのツルを『ペイッ』って叩くだけで魔物を倒している。
迷路のような洞窟をペルシャの案内で進んで行く。確かにココは案内がいなければ制覇するのに時間がかかりそうだ。それに案内されているので困難に感じないが結界をいくつも抜けている。結界を抜けるたびに魔物のレベルも上がっているが、魔物の強さよりもなぜ道を知っているのか不思議である。
それにしてもこの世界は、何かを隠すときに結界が良く使われている。現実世界ではセキュリティー対策と言ったら『鍵』だが、世界は『結界』がメインなのかもしれない。機会があったら『結界』を覚えてみたい。
結界を抜けて進んで行くと通路が突き当たった。道を間違えたのかと思ったが、壁のくぼみに金色のランプが置かれている。どうやらこのランプの場所が目的地だったようだ。
「さあ、ランプをこすって下さい」
絶対に魔人が出てくる気がしてならない。それにどう考えてもすんなりと願いを叶えてもらえるとも思えない。全てすんなりいくならありがたいが……
「さあ、さあ、ランプをこすって下さい」
ペルシャはエアーランプこすりをしている。目を輝かせ『早く、早く、早く』と言わんばかりの重圧(プレッシャー)をかけてくる。こすらないと先に進まないのは分かっているのだが、今までのキーワードを重ねると先が読めてしまう自分がいる。
『願いを聞く魔人』 『金色のランプ』 『ペルシャ』 『絨毯』
みんなの注目が集まる中、袖を手根で押さえてランプをこすった。
キュッ キュッ キュッ
(予想通り)ランプから真っ白な煙が大量にわき上がった。大量の煙が辺りを包みこんで視界を奪われた。視界が奪われる前にリリス、ユニ、ウタハ、ペルシャをはぐれないように引き寄せた。
真っ白な煙が徐々に薄くなり視界が回復してくる。
辺りは砂漠が広がっていた。左の方に美しいオアシスがあり、その先に『ダージ・マハル』の擬宝珠のような大きな玉ねぎ型のドームを携えた立派な宮殿が見えた。
そして……
目の前に宙に浮いたランプがユラユラと動いており、ランプの口から白い煙が立ち昇っている。白い煙の先と同化するように青い色をした上半身だけの人? がいる。煙から湧いているようにターバンを巻いた青い魔人がニコニコしていた。
『呼ばれて飛び出た青魔人~』
『何の御用ですかご主人様。 ……しかしあなたの願いは叶いまセーン。 さっき3つの願いを叶えてきたばかりデース。これ以上叶えたら私の力が落ちてしまいマース』
「魔人さんお願いします。願いを叶えていただかなくても良いので、オアシスに自生すると言われる薬草を採らせていただけませんでしょうか。なぎささんもお願いしてください」
『この世界にあるものを差し上げるわけにはいきまセーン。どうしても欲しかったらワタシを倒してくだサーイ』
『ん!? 今、なぎさと言いましたよね。君はなぎさという人間デスよね』
『さっき願いを叶えた女[*外伝参照]もなぎさって言っていまシター。それに魔人エリファスもなぎさって男にやられたって言っていまシター』
──魔人エリファス。ユニを助けるとき戦った魔法が効かない恐ろしい魔人。最終的には僕ではなく、ユニがとどめを刺した気がするけど……
『もう1人、紫の髪をした女性[*丸薬を飲んだユニ]がいたと聞きましたが、そんな女はどこにもいませんねー』
「なぎささんが魔人を倒したのですか。トーナメントの戦いもここまでの戦闘もウタハさんが全て倒していましたが……」
『それなら問答無用で戦うしかありまセンねー。それじゃあいきマース』
青魔人との戦闘が始まった──
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