048:汚れた羽衣

 食堂には長いテーブルが整列し真っ白で空をイメージさせる模様が描かれたテーブルクロスがシワなく敷かれている。テーブル一つ一つに蝋燭が3本刺さる燭台が置かれ蝋燭の炎が料理に揺らめいた光を浴ぜびせている。食事は肉に魚に野菜にスープにと色鮮やかに盛りつけられ所狭しとお皿が並んでいた。ペルシャは丁寧に着席を促した。


「通りすがりの私たちに食事と寝る部屋を用意していただき感謝いたします」


 ペルシャは困った顔をして何かを言いたそうにしているが言葉が詰まる。

 ……意を決したように説明を始めた。


「……実は、皆さまの事は存じておりました。戦乙女ウタハ様のパーティですよね」


 ペルシャは、スカイブ帝国で開催されている『グレイターセクション』を毎回観戦していた。そこで優勝者の人柄と強さを見立て接触をはかっていた。

 接触したパーティーにペルシャのお願いを依頼していた。しかしお金を持ち合わせていないので報奨金は支払えず、探索する時の素材や物品など依頼物以外の全てを報酬として差し出すことでお願いしたが全て断られていた。


 大切な羽衣をイナバ湖で洗濯していると、南にあるツッカイより汚染された水が流れ込んで大切な羽衣を汚してしまった。家に帰るために必要な羽衣を汚してしまい1人帰ることもできずこの地に残っているのだという。この織物を洗浄できる薬がワンワン岬にあるので取りに行きたい。つまりは護衛をしてほしい事だった。


 依頼を受けた者は行くなら自分たちだけで行ったほうが、薬も含めて全て自分たちのものになると相手にしてくれなかったそうだ。わたしにしか知らない道もあるからと説得するも依頼を受けてくれる冒険者は少なく薬は見つかっていないという。


「この依頼を受けるのじゃ。大切なものが無いという苦しみはユニも分かるのじゃ」


「私たちを頼ってくれたのだから、受けてあげてはいかがでしょうか。ペルシャさんを助けてあげたいです」


「この依頼受けてあげよう。平和を見つける旅だけど困っている人を見捨てて旅を続けたくない」


 それぞれがペルシャの依頼を受けることに賛成した。あとは僕の返答を待つばかりという目線がとても痛かった。


「よし。この依頼を受けよう」

 みんなの思いを尊重した。リリスの言う通り困っている人を見捨てた先にある自分たちだけの幸せより、せめて関わる人たちだけでも一緒に幸せになってもらいたいと思った。


「みなさん。ありがとうございます。わたしは、ウタハ様がリーダーだと思っていたのですが違うのですね」


「ペルシャさん。このパーティーは、みんなが家族のように旅を続けています。みんなもこう言っているので受けさせていただきます」


「みなさん。本当にありがとうございます」


 ペルシャは座り込んで涙した。立ち上がれない程に気が抜けたのか、うずくまって体を震わせていた。それほど嬉しかったのだろう。


 目的地のワンワン岬は、屋敷を東に海岸沿いに進んだ先にある。先ずはそこまでの移動方法を考えなくてはならない。

 バックにしまっている馬車をペルシャの前で取り出すことは出来ないし、ユニコーン化する姿をさらすわけにもいかない。


「それならこれで行きましょう」


 ペルシャが取り出したのは、1枚の絨毯。6人が座れる大きな幾何学的な模様が描かている。ペルシャが魔法を詠唱すると絨毯が1メートル程浮き上がった。

「これなら皆さん乗りますね」


「こういう魔法は見たことがありません」


「お~。これは何なのじゃ。初めて見るのじゃ」


「絨毯が浮くなんて凄いですね」


 ワンワン岬までの移動は確保された。明日の早朝に岬に向けて出発する。


 ……依頼について話し込んでしまい料理はすっかり冷めきっていた。 それでもペルシャの作った料理はとてもおいしく、皆が全て平らげた。



 ▽ ▽ ▽

 翌朝、準備を整えてワンワン岬へ魔法の絨毯に乗って出発した。


 その時僕は思い出してしまった…… 食堂の前で感じたお風呂の匂いを。ペルシャに聞くと、食後に入ってもらおうかと準備していたが、依頼を受けてもらった喜びですっかり頭から抜けてしまったようだ。


 ……次の機会に絶対に入らせてもらおう。あのお風呂が発していた匂いは絶対に素晴らしいお湯だと確信できる!


 魔法の絨毯に乗りながら、ある物語の事を考えていた。擦ると出てくる某青い魔人と奪い合う某ランプ。そして空飛ぶ魔法の絨毯が出てくる物語で頭をグルグル巡っていた。


 ペルシャの空飛ぶ絨毯は、唯一使える浮遊魔法で、1回使うと魔力が枯渇してしまい回復するまでは使えなくなってしまう。それにしても、空飛ぶ絨毯の移動は快適そのものだった。馬車と違って悪路をものともせず揺れがない。難点を挙げるとすれば狭いことくらいだ。


「あそこが洗濯に使っていたイナバ湖です」


 右方向にある湖は美しかったのだろう。黒く禍々しい油が浮かび周辺の植物は茶色く枯れかかっている。湖の南は水路で繋がる汚染物質を流したツッカイがある。ペルシャによると、領主が変わってから雰囲気が変わったと話していた。


 湖を越え東に向かって順調に進んでいる。 ……絨毯の座り心地は最高なのだが6人座りの広さに、5人が座っているので体が痛くなる。

 ユニは2人分のスペースを確保して寝ており、リリスとウタハは肩を寄せ合いながらウトウトしている。 静かに進む絨毯と爽やかな気持ちのいい風に抱かれ、あまりの気持ち良さに僕もウトウトしていた。絨毯から落ちそうになった所をペルシャに助けられたり、ペルシャにもたれかかって熟睡してしまったりした。


 ワンワン岬に繋がる『ワンダ』に到着するとビックリした。村の住民が既視感で一杯だったのだ。

 それはペットショップで見たような犬を人型にしたような亜人で溢れていた。耳に尻尾にと犬の特徴を良く捉えている亜人たちであった。

 僕は犬は詳しくないが、マルチーズやポメラニアン、柴犬など犬好きにとっては、ここに永住したくなるほどではないだろうか。


「ペルシャちゃんじゃありませんか。久しぶりねー」

 マルチーズっぽい女性から声をかけられた。

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