050:求めた薬草

『それなら問答無用で戦うしかありまセンねー。じゃあいきマース』


 こちらの意向を確認することもなく戦闘が始まった。


 ──ランプから出る白煙が煙訓練のように周囲を薄っすらと白く包み込んでいく。視界にはそれほど影響はないが、意味なく白煙を発生させることは無いので、どんな攻撃が来ても対処できるよう身構える。


 突然ウタハの右空間の白煙の一部が円を描くように濃くなる。濃くなった場所から青い拳がウタハに飛んできたのを咄嗟に右手で拳をガードする。……が白煙外まで後方に吹き飛ばされた。不意打ちでガードが遅れてしまい攻撃を吸収しきれなかった。


 回復の緑水をウタハに放つが白煙から出現した手によって遮られた。


 青魔人は百烈拳(ひゃくれつけん)を思わせる攻撃を繰り出した。拳の連打が白煙を通して濃くなった場所から右に左に上に下に暴風雨の様に拳が叩き付けられる。


 ウタハに攻撃した時に見たおかげで対処は簡単だった。拳が出現する一瞬前に白煙が濃くなる。さすがにこれまで戦ってきた経験が生かされたのだろう。

 

 僕は水の壁、リリスは魔力の壁、ユニは武器化した盾でガードする。


『まだまだ行きますよー』 ──

 青魔人は力を溜め始める。……体中に力を入れ全身が震るえている。しばらくすると体中を包むオーラが膨らんでいく。



 ……顔つきが強面に変わり力強いかけ声を上げると力を解放させた。

 溜めたオーラが変化するように腕だけが膨れ上がりマッチョな筋肉で纏われる。今までの攻撃が冗談だったのかスピードと威力を上げてきた。

 既に攻撃を見切っておりスピードや威力が上がってもパターンが変わらないので問題はなかった。


「じゃあ、みんな反撃だ!」


 攻撃を防ぐことに専念していた僕たちは反撃を開始する。


 僕は『燃料湧泉』と『熱与奪』を使って水柱を火柱に変化させ、リリスは魔力障壁を雷障壁に切り替える。ユニは丸薬を使って変身して盾の表面を剣山のように変化させる。


『あちっ』 ……僕への攻撃は、拳が火柱によって燃える。次第に焦げた臭いが広がってくる。


『ぎゃっ』 ……リリスへの攻撃は、拳が雷障壁によって感電する。触れるたびに電気がはじけ飛びバチバチと音を響かせる。


『いたっ』 ……ユニへの攻撃は、拳が針がに突き刺さり傷つける。触れるたびに痛みが積み重なり手を開いて防ごうとする。


 勢いにのった青魔人は攻撃を急には止められず、自分で攻撃して勝手にダメージを受けているような構図になっていた。


『イタタタ……やりますね。これならどうでしょう』


 体全体を煙化して青魔人が広がっている白煙と同化した。

 白煙の中から拳が形成され襲ってくる。白煙が濃くなるなどの前兆がなく、どこから飛んでくるか予測不能な攻撃にリリスとユニは白煙から脱出するのがやっとであった。


 気になるのは青魔人の攻撃力がだいぶ落ちていることだ。どうやら拳を構成する白煙の密度によって威力が変わるようである。予測不能な拳は威力が犠牲になっているようだ。


 白煙に残っているのは僕ひとり。抜け出た者へは攻撃してこない。水の力を太く地面に放出しペットボトルロケットのように勢いを使って空に舞う。白煙を抜け頂点で全容を確認する


 ──落下


 水の力をゼリー化してすべての白煙を包み込んだ。


「リリス、炎をお願い」

「ファイアーラップ」


 連携が取れていたかのように詠唱が終わっていたリリスは魔法を放つ。放たれた炎は広がりながら宙に浮くゼリーを包み込んだ。青魔人を包んだゼリーが巨大な人魂のように燃焼する。


「ユニ、フライパン」

「分かっているのじゃ」


 炎全体を潰す程のフライパンに変形させて燃え盛る火の玉に叩きつける。フライパンが地面に突き刺さり白煙化している青魔人を閉じ込めた。


 ……プスプス


 フライパン隙間から黒い煙が漏れ出した。漏れた黒煙が集まってランプの口に吸い込まれるように入っていった。


 ……


『ちょっとあんた達やりスギよー。 危なく消滅するところだったじゃナーイ。レベルが下がっているとは言え私を倒すなんて凄い実力ね』


 体を構成する白い煙を随分と失ったのか、青魔人は3頭身の可愛らしい大きさになっていた。体型が変わったせいか可愛い声になって話し始めた。


 青魔人は『魔人』だが悪意や野望は無く、各地に点在するランプから呼ばれると、この地に呼び込んで願いを叶えている。願いを叶えるごとに一時的にレベルが下がるので下がったレベルを戻すために休息する必要がある。

 休息中に呼び出されると腕試しを持ち掛けて、強さを認めた相手にこの土地にある収集したアイテムを持てる分だけプレゼントしていた。


 あくまで腕試しなので一度倒れたウタハや、戦えないペルシャには全く手を出していなかった。ペルシャと共に早速薬草を求めてオアシスに向かった。

 オアシスは底が見えるほど済んでおり色とりどりの魚が泳いでいる。湖を取り囲むように木や緑が鬱蒼と茂っている。


「ない、ない、ない。薬草がない」


 ペルシャはオアシス中を走り回り探し回っていた。


『薬草ってこの地に生息する霊芝草のことデスかー』


「そうです。霊芝草を煎じたお湯で羽衣を洗うと汚れが奇麗に取れるはずなんです!」


『あー。霊芝草ならさっき願いを叶えた時にあるだけ使ったよー。金のポーション作るのに大量に使うんダヨねー。あと100年もすれば生えてくるんジャないかなー』


「……ひゃ ……百年」

 ペルシャは体中から力が抜けたように膝を付き泣き崩れてしまった。大粒の涙が渇いた地面に小さな泉を作る。


 羽衣をキレイにするのに必要な薬草とは『霊芝草』の事だった。ペルシャは何年もかけて調べ、何年もかけて協力をお願いし、やっとの思いで到着したこの地に『霊芝草』は無かった。


「ペルシャさん。羽衣をキレイにするのに必要な薬草って霊芝草だったんですか」


 ベオカでもらった霊芝草をバックから取り出してペルシャに渡した。霊芝草は非常に貴重な薬草で、1本あればハイポーションが100本も生成できる薬草である。


「な、なぎささん。こ、これは…… 霊芝草じゃないですか。こんな貴重なものをいただく事できませんよ。ただでさえここまで護衛をお願いしたのに霊芝草までもらったのでは申し訳ないです」

 ペルシャは震えていた。申し訳なさそうに遠慮しているか霊芝草をガッチリつかんでいる。 ……手だけは正直のようだ


「いいですよ。僕には無用の長物です。必要な人にも使ってもらった方が霊芝草も喜ぶと思います。それで足りますか?」


「十分です。ほんの一かけらでもいいのです。余った分はポーションにしてお渡ししますね」


 ペルシャはスキップするようにオアシスに走って行った。音符がペルシャの回りをクルクルしているのが見えるほど嬉しそうな後ろ姿だった。

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