127 小瓶
カリンを中心とした『白銀の翼』のメンバー。タナリに捨てらて雑用をやっていた男女の兄弟、総勢32名が僕の元に集まった。
「カリン、ここにセレンの家ってあるのかな。もしあるなら案内して欲しいんだけど」
僕は考えていた。セレンが天女族であれば異空間扉を持っているのではないかということを……。小さいうちにここに来たということは扉自体知らないかもしれない。その時は、ペルシャの家をまた経由させてもらおう。
「なぎさ殿、セレンの家は5重塔4階です。2階以降はニコ様の認めた人でなければ入れません」
「なぎさ、確かにニコの魔力を塔に感じるのじゃ。ユニの持つニコの魔力と同じ力で壁がつくられているのじゃ」
「お前たち!」
僕たちのやり取りの外でタナリの支配をどこの組織が担うが言い争っていたリーダーたちが集まってこちらを睨みつけていた。
「俺はメラリオンのリーダー。この町の支配者は5重塔に住む決まりになっている。出ていくのならその塔を明け渡しやがれ」
1歩も2歩も前に出るリーダーたち。遮るようにカリンが前に出た。
「それだったら自分たちで取り戻せばよかろう。今までのリーダーはそうしてきたはずだ。組織トップの死による交代、下剋上、様々な方法でタナリのトップが決まってきた。明け渡せなんて情けないとは思わないか」
「カリン、言ったな。お前たちは40人足らず。こっちは数百人の戦力があるんだぞ」
一瞬後ずさるカリン。カリンを制止してアカリが前に出る。
「あのね。烏合の衆がいくら集まっても意味はないの。私がまとめて相手してあげるからさっさと人を集めなさい!」
カリンの方を振り向いて小声で囁く。
「ふふふ、私が悪役をやってあげるからなぎさ達を案内してあげてちょうだい」
「アカリ、頼むのじゃ」
「アカリさん、わたしも手伝いますか?」
「大丈夫よ。この子たちに任せるから。なぎさちゃんのエネルギーも入っているから強いわよー」
僕たちはアカリを信じてその場を任せた。
アカリを中心に大量のコウモリがどこからともなく出現する。数百羽にはなろうかというコウモリの大群が地面に着地するとメイドコウモリ(74話)へと姿を変えた。
アカリは魔法を唱えた。 ──ミラージュウォール──
タナリの民を囲うように光の壁が出現して閉じ込める。続けて光闇変換魔法をメイドコウモリにかける。闇色のオーラが可視化されて光色へと変換される。
「じゃあみんな宜しくね。出来るだけケガはさせないようにね。 ……タナリのみなさーん。その結界の中は光属性の者をパワーアップさせるの。それにね、魔法が当たると跳ね返して威力が倍増するから魔法を使うときにはケガに注意ね」
アカリはウィンクして親指を立てると、場をメイドコウモリたちに任せてなぎさの後を追った。
* * *
五重塔、4階セレンの部屋である。部屋と言っても必要最低限の物しか置いておらず生活感は感じられない。
「なぎさ、あそこよ」
フロアの隅、隠れた場所に見知った扉があった。天女族の扉……。様々な人々を繋いできた扉。
セレンの生い立ちを考えると、一族との繋がりを強くもてる扉を活用できなかったこれまでの人生を考えると悲しくなってしまう。
セレンを何とか助ける方法は無いのか。ニコを助ける方法は無いのか。そんなことを考えていた。
「ペルシャ……ペルシャ。扉を開けてもらって良いかな」
反応が無い。何回か呼びかけるが反応が無かった。ノックをしても反応が無い。ドアノブを掴んでガチャガチャしても……
「開いた」
ゆっくりと扉が開かれる。屋敷の中はウンネの部屋と全く同じ内装……。ただ違うのはテーブルの上に置かれた手紙と空の小瓶。
「なぎさ、あの小瓶って」
「ああ、リリスが思った通りの物だよ。ふろやマウントフジ閉店の時にセレンに渡したお風呂のお湯を入れた瓶だ」
「そうじゃそうじゃ、なんでここにあるのじゃか」
「手紙がある」
テーブルの上にある手紙を拾い上げて開く。そこにはこう綴られていた。
──なぎさ。君はいつかここに辿り着くだろう。その時には私とニコ様は無事では無いかもしれない。この手紙を読むときにどんな状況になっているかは私には分からない。しかしだ、私のことは良い、なんとかニコ様だけは助けてやってもらえないだろうか。ふろやマウントフジの最後の客の願いだ。
君のお湯を使ってニコ様の魔力によって君の屋敷にしてある。ここは好きに使ってくれたまえ──
「なぎさ、ニコとセレンはこうなることを分かっていたのね」
「ニコはユニコーン族長の娘だ。啓示を受け民を導く……一族の使命を全うしたのじゃ」
「僕たちはこれから魔神に占領されているタマサイを救おう。セレンの体、ニコのエネルギーをまとった二面神オメテオトルと名乗った魔神はタマサイの方へ飛び立った。もしかしたら牛頭鬼や馬頭鬼と仲間なのかもしれない」
「そうですー。人間を滅ぼそうなんて輩はやっつけてやるのですー」
「ウタハちゃん、いいの? そんなこと言って。また青魔人にあーだこーだ言われちゃうよ」
「アカリも分かってるんでしょ。わたしたちはなぎさについていくだけよ」
「そうじゃ、そうじゃ」
「カリンさん、もしかしたらタマサイと全面戦争になるかもしれません。死ぬか生きるのか戦いです。僕は人をひとりでも死なせたくありません。白銀の翼のみなさん、僕が言うのも申し訳ないですが強くなってください。相手を圧倒出来る位の強さに……生死を賭けた戦いではなく、相手をケガさせず無力化が出来るほどの強さに」
僕たちはバスリングに戻り、ウンネたちによって白銀の翼メンバーの訓練が始まった。
「カリンさん、まだまだ甘いですよ!」
ウンネたちメイド服を着た5人の天女族によって、しばらく『白銀の翼』メンバーの特訓が続くのであった。
「なんだここはー、最強と言われた『白銀の翼』が全く歯が立たなーい」
カリンたちの眠れない日々が始まった。
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