126:タナリの神
そこで見たモノは。
「おや、思ったより早かったですね」
瀬場が階段を降りてきたなぎさたちに気付いて声をかける。
「ちょっと、なぎさちゃん、ユニちゃん早くニコの所にいきなさいよ」
「そうです。心配なのは分かりますがここは私たちに任せて下さい」
「アカリ、ウタハ、ちょっと可笑しいわよ。……ユニの背中に翼が生えてる」
「カッコいいのじゃ、ニコにもらったのじゃ」
「これはどういうことだ。瀬場さん、一体どうなってるんだ」
「ホッホッホ、私が張った結界の効果ですね。結界の中で進むスピードは1/60になるのです」
「どういうことなのじゃ?」
「ユニ、僕たちがニコの救出に向かって1時間が経ったとしよう。だけど結界の中は1分しか時間が進んでないんだ」
「ホッホッホ。その通りです。難点は自分たちも同じスピードで時間が進むので時間稼ぎにしか使えない事です。それに、なぎささんのように結界を破る力を持っている人には効果がないんですよ」
「瀬場ちゃん、こんなんだったら私、コーヒーでも飲んで待ってても良かったんじゃない」
「いやいや、わたしたちふたりではあの3人に勝てないでしょう。もしなぎささんと少女が塔を出る前に負けてしまっては困りますからねぇ。結界を張る時間稼ぎをしてもらわないと」
「まったく、私を捨て駒にして。でもいいわ。いじられるとゾクゾクきちゃう」
艶(なま)めかしくも狂気の表情を浮かべる田下。
「ホッホッホ、あとでご褒美をあげましょうね」
瀬場氏はそう言い残し、一瞬にして噴き上げる風を起こすと田下と共に消え去った。
リリスたちの元に駆け寄る。お互いに怪我がないかを確かめ合って無事を確認する。
「なぎさ、ニコはどうだったの?」
目を瞑りゆっくりと首を振る。
「仕方ないのじゃ、ニコはユニの中にいるのじゃ。ニコと共に伝説の『有翼のユニコーン』になったのじゃ」
改めて立派な翼を広げるユニ。真っ白な翼、取り外す翼……
「え!? ユニさん、翼がもげちゃいましたよー」
「そうなのじゃ、ユニコーン族は角をペガサス族は翼を脱着するのじゃ。角は力の源、翼は魔力の源なのじゃ」
角と翼を異空間収納にしまったりだしたりするユニ。みんなは呆気にとらわれている。そんな状況はお構いなしにニコニコするユニ。
「と、ところでなぎさ。セレンはどうなったの?」
「あ、ああ。セレンは……ニコの魔力、信仰の建物と共に神に体を乗っ取られたよ……」
ことの顛末を説明するなぎさ。建造物の正体、天女族であったセレン、魔力を吸い取られユニと同化したニコの話し……。
「ユニさんは、ニコさんが消滅して寂しくないんですか?」
「ちょっとウタハちゃん、折角ユニがニコニコしてるんだから余計なことを言わないの!」
「もちろん悲しいのじゃ。でもなのじゃ……ユニの中にニコを感じるのじゃ。それにニコは生きていると思うのじゃ。何よりも翼が残っていることが証拠なのじゃ」
翼をなでなでするユニ。今までに見たことない顔つき。大人の階段を1つ上ったような成長を感じさせていた。
「みんな、セレンもきっと生きていると思うんだ。神と名乗ったオメテオトルが確かに言った。『核となって生きている』って。最後にセレンと分かりあえたんだ。そんなセレンを取り戻したいんだ」
「なぎさちゃん、また女の子を増やす気ね。いいわよ手伝ってあげる」
「なぎささんもちろんなのです! わたしも協力します」
「仕方がないわね。なぎさが決めたことだもん。なぎさ帝国のメンバーがまた増えるんだね」
「みんな……みんなでセレンを助けよう! ……なぎさ帝国はやめて欲しいけど」
「ユニもやるのじゃ、ニコと一緒にセレンを助けるのじゃー!」
決意を胸に五重塔を出た。 そこで見た塔の前に広がる光景……。
何数百名もの人々が武器を構えて塔に対峙している。
その中から一人の女が前に出てきた。耳の長い女性。
「『白銀の翼』部隊長ハーフエルフのカリン・スムージーだ。ビレインバアス様の像が崩壊し、ニコ様、セレン様の気配も消えてしまった。像の消滅によってニコ様の想い、セレンの想いが白銀の翼に伝わってきた。『岩谷 なぎさ』、君を新たな主人とするようにな」
「カリンさん、僕を主人にって……君たちのことは何も知らないし、僕のことも知らないと思うんだ。それに、君たちの正義があるんじゃないかな」
「なぎさ殿、正義はニコ様の想いだ。それにここにいるみんなはニコ様に救われている。……そう、元はそんな者の心の拠り所としてこの町があったのさ。いつからこんなんなっちまったんだろうな」
「なぎさ、どうするの?」
「またなぎさ帝国に一歩近づくのじゃ!」
「ははは、なぎさちゃん凄いじゃない」
「帝国か……それはやめてって……そうか……待てよ。みんな、君たちを受け入れよう。僕について来たい人は一緒に来てくれ、残りたい人はここに残るといい。強制はしない。ひとりひとりが自分の正義がどこにあるのか考えて欲しい」
僕の元に集まったのは30人。『白銀の翼』のメンバーと小さな男女の兄弟。全てがニコとセレンを慕っている者たちだった。
残った者たちは、タナリを中心に活動する組織の面々。その中から数名の者たちが前に出てくる。その中の一人が叫ぶように言った。
「カリン、タナリの支配は降りるってことでいいんだよな」
「ああ、好きにするがいい」
『白銀の翼』メンバがー納得したようにうなずく。まるで軍隊のように同調した動き。
「ハッハッハ、やっと俺たちがトップを張る時がきたんだな! このメラリオンが」
「おい、お前何を言ってやがる。マテンロウこそ相応しい。やっと贄の建物がなくなったんだ。いまこそ我らが仕切る時」
組織のリーダーたちが言い争っている。一朝一夕では決まりそうもない。
「ねえカリン。ここって本当に神の地なんだよね?」
「なぎさ殿、破壊されたビアレンバアスの巨塔はタナリでは偶像として扱っていた。タナリの民がまとまるために作った神だ。みんなが偶像を信仰することで心の隙間を埋め一つの町として発展させたんだ。まあバチ王国ではタナリの組織がいることで発展したからな。神として神格化したんだろう。まさか本当に神が眠っているとは思わなかったけどな」
「ニコとセレンはどうしてその偶像である魔神に生命を利用されたんだろう……」
「それはじゃな、タナリのトップが5年に1度、1か月間あの巨塔で祈りを捧げるのじゃ。いつしか中央にあったあの三角錐に魔力をこめるようになったのじゃ。気づかぬうちにこっそりと魔神が魔力を溜めていたのじゃろう」
「ユニ、よく知っているね」
「分からんのじゃけど、頭に浮かんだのじゃ。きっとニコが教えてくれたのじゃ」
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