125 ニコとユニ
そこで見たモノは……。
巨大な空間。外壁を添うように繋がる通路を抜け地上におりると遥か彼方まで空間が広がっている。この建造物は空洞で何もない。ただ一つを除いては……。
部屋の中央だろうか、背の高い三角錐の建造物の先が光り輝いている。目の前に横たわる女性から伸びる光、その前で様子を見ているセレンの姿。
「遅かったな。フフフ、塔でゆっくり話させてもらったからな。それに見えていたぞ、通路で遊んでるお前たちの姿を」
「あれは一体何だったのじゃ」
「ニコ様の記憶だよ。身体から生命力を台座に移しているときに出た記憶だ。それが建物内に霧散して中にいる者に影響を与えたのだろう」
「ニコはどうなるんじゃ」
「残念ながらニコ様は贄としての責を果たした。ユニ、君はなんでニコに捨てられたか分かるかい」
「捨てられた? メイシンガに置いて行かれたのじゃ」
「ニコ様の記憶が見せてくれたよ。ユニコーンの町、ペガサスの町、隣り合う姉妹都市。その中で姉妹のように育ったユニコーン族のユニ、ペガサス族のニコ。その2つの町が人間によって滅ぼされた」
「町が滅ぼされた……じゃか」
「ああ、攻め込まれることを事前に察知したニコ様はユニを連れてこの町に身を隠そうとした。しかし、この町の実情を知ってユニを置いていくことにしたという訳だ。そこで『白銀の翼』作り力を発揮したニコ様は長になるまで上り詰めた」
「じゃあユニは置いて行かれたんじゃなくて助けられたんじゃないか」
「セレンは一体何者なんだ」
「わたしは天女族の子供。いないことにされた天女族の子供だ……」
セレンは語り始めた。ツッカイに流れ着いた5人の天女族、5人はそれぞれ子供をもうけたが、一人だけ双子を生んだ。その一人が髪色が遺伝する天女族の理と反していた。母は気にすることなく育ててくれたが、父は、夫婦と違う髪色の子供を認めなかった。その子供を神に還そうとタナリに私を捨てた。拾われて下働きとして細々と暮らしていたがニコに拾われ鍛えられたという話。
「それならなお更ニコのことを助けないとならないじゃないか」
「そうだろうな。しかしな、この町に住み続けていると人間の悪い部分ばかり目につくんだよ。何が正しいのか分からなくなるほどにな。わたしは生まれてからずっとこの町で過ごしてきた」
「ニコ、ニコ……」
走るユニ。
「最後の別れだ。ニコ様に寄り添ってやってくれ」
横たわるニコを抱え上げるユニ。大声で叫ぶユニ。力なくユニの腕で眠るニコ、目を開けることのないニコ。
「ニコー」
取り出した丸薬をニコに押し込むユニ。飲み込む力もないのか飲み込ませることが出来ない。何かを思いついたのか、ユニは自分の口で咀嚼し液体をニコに無理やり飲ませた。
僅かばかりの光がニコを包む。ユニの腕の中でニコがかすかに意識を取り戻す。
「ユニ、ユニか。記憶を逆行して昔を思い出したのだ」
「ニコ、ユニを守るためにメイシンガに置いていったのじゃか」
「ユニはニコの妹だ。ずっと一緒に笑っていたかったのだ」
腕に感じるニコの力が薄れていく。ユニは思いっきりニコを抱きしめた。
「ユニ、角が折れているのか。感じるのだ。残った私の力もらってくれ、私の最後の望み、ユニと共に歩みたいのだ」
ニコは白い光へと姿を変えてユニに吸収されていく。
ユニの立派な角が額に形成されていく。同時に白い光がユニの背中に翼となって形成する。
ユニコーンとペガサスの特徴を併せ持ったユニが誕生した。
「すごいのじゃー、ユニの力が戻ったのじゃ。ニコの魔力も体の中にあるのじゃ」
地響きとともに三角錐に溜まった光が筒を通じて地面に吸い込まれていく。
「なぎさくん、君たちとはもっと早く分かりあいたかったよ。そうしたら違った結末を迎えたかもしれないな」
三角錐のオブジェクトが跳ね上がりセレンの体幹に突き刺さる。建物の壁が光を帯び、飛び出すようにセレンに突き刺さる三角錐を伝わって体に流れ込む。
建物の壁が徐々に薄くなり、薄っすらと外の景色が見え始めるとそのまま全ての建物が光となってセレンの体に収まった。
セレンは光によって輪郭がぼやけた大きな体を形成するが、輪郭がはっきりするように圧縮され元のサイズに戻る。戻った身体はセレンとは違う者だった。
『長年蓄えた魔力、天女の力、そして信仰心。とうとう復活できた』
「セレンは、セレンはどこに行ったんだ」
『我の核となって生きている。依り代がないと存在することができない二面神オメテオトルのな。神としてこの世界見定めてやろうぞ』
瞬く間に姿を消した。転移したのではない移動する姿が残像にしか見えなかったほどのスピード。戦っていたら勝てたかは分からない強さを感じた。
「ユニ、みんなのところに戻ろう」
消失したオブジェクト、崩れている橋、その上を颯爽と飛ぶユニの姿。
「気持ちいいのじゃ~。ニコの羽はすごいのじゃ」
脇を抱えられユニに連れられるがまま空を飛ぶ。さすがペガサスの羽と言って良いのかものすごいスピードである。
5重の塔に入ると大きな違和感があった。
──これは結界
結界に穴を空けてユニと共に階段を駆け下りる。
4階……
3階……
2階……
そして見たモノは。
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