124:予想外の再会

「リリス、彼女は記憶を操ってない?」


「ええ、なぎさ。彼女からは魔力のようなものは出ていないわ」


「大丈夫だ。お前たちの記憶をいじったりしていない。しかしだ、確かにお前たちの記憶が実際に経験したものななのかと言われたら戸惑うだろう。逆に言われなければ気にしないものなのだよ」


「自分たちが常に刻んで来た人生を……1つ1つ作り上げてきた経験を勝手に変えるなんて良くない。何か違った方法があるはずだ」


「なぎさ。大丈夫だ、分かり合おうとは思っていない。私たちは私たちのやりかたでやるだけだ、それでは儀式が待っているので失礼する。おい、時間稼ぎは頼んだぞ」


「「ハッ!」」  

 男女二人の声が上方から聞こえた。セレンはそのまま塔の2階へと上って行った。


「ひさしぶりですなぁ、なぎささん」

「あれぇ、君たちは……ただの旅行者だと思ってたよ」


「瀬場さん……それに田下さん(59話)!」


「なぎさちゃんこの女性よ、聖君の執事と一緒に歩いていた女性(76話)」


「一体これは……」


 瀬場氏と田下るりの顔を交互に見比べて呆気にとられてしまう。


「そうですな。セレン殿の長話の後で恐縮ですが、私も昔話をしましょう。それになぎささんとは一度会っているのですよ。バチのオークションで」


「オークション?」


「ええ、S級ランクの商品を出品した『ゼロ』です。もっと言うならその時に語られた『レイ』も私です(55話)。彼女は私がスカウトした特殊部隊の人間に力を与えた者ですね」


「よろしくねー。コーヒー好きは本当よ。店にいる私は人間から見た良心の塊だけどね」


「しかしまぁ、スカイブの駒としてぼっちゃん(聖 剣)たちを転移させたまでは良かったけど、バラバラになるし思ったより戦力にならないし、なぎささんだけは道を外れるしで大変でしたよ」


「僕たちは駒だったっていうのか」


「そうですね。私が聖家の前に仕えていた人見家であれば簡単に目的を達成したのですが失敗しちゃいましてね。今は地道に目的の達成に向けて頑張っているんですよ」


「瀬場ちゃん、話が長いんだけど」


「いやはや、歳をとると余計なことまでしゃべっちゃいますな」



「なぎさちゃん、ユニちゃん。ふたりで先に行って。わたしたちはこの2人を食い止めるわ」


「そうね、アカリの言う通りかな。可愛らしいニコちゃんをユニが助けてあげないとね。なぎさ、ユニをちゃんと守るのよ」


「なぎささーん、私も一緒に行きたいんですけど、ここは我慢しますー。ふたりを倒して直ぐに追いつきますよー」


「まあいいでしょう。ふたりをお通ししましょう。上の階には誰もいませんので、最上階から像の方に道がつながっていますので、そちらにお進みください」


「瀬場ちゃん、みんなを止めなくても良いの?」


「そうですね。私たちも無敵ではないですからね。出来る事をやりましょう」



「みんな、ここは信用して任せるよ。ユニ行こう」


「うー、困ったのじゃ、リリスたちに何かあったら申し訳が立たないのじゃ」



「ユニ、バカね。私たちはあのなぎさを倒したのよ。負けるわけないじゃない」


「リリス、アカリ、これを渡しておくよ。アカリには姉さんのために作った薙刀、リリスには盾を。小さな球体だけど魔力を込めると立派な盾になるんだ。リリスは物理攻撃に弱いからね、危なくなったらしっかり身を護ってね、あ、アカリに渡した薙刀の刃はユニの魔力防御の素材と同じものを使っているからね」


「まったくなぎさちゃんは、さっさといきなさい」



「じゃあ行ってくる。終わったらみんなでまたお風呂入ろうね」


 ユニと共に階段を駆け上がった。2階、3階、4階、5階。確かに誰もいない。五重の塔といえばフロア毎に待ち構えている者を打ち倒すために、ひとり、またひとりと残して進むものだと相場が決まっているだけに拍子抜けした。


 こんなことを考えられるのも、リリスたちが負けるはずがないという絶対の自信が心の余裕を持たせていたからだろう。


「5階に着いたのじゃ、あそこの扉を抜ければいいんじゃな」


 扉を抜けた先、入り口からチラリと見えたオブジェクトが遠くに見える。ここからでも分かる巨大な建造物。あそこまで大きいと、キクやバチでも見えそうだが見たことを無いことを考えるとハッサドのように五重塔側からしか入れない結界が施されているのだろう。


 流線型で美しいオブジェクト。耳前辺りを境に人の横顔がくっついているような形をしている。半分は白、半分は薄いグレー。塔からオブジェクトに繋がる橋も真ん中で色が分かれている。


 ふたりが並んで歩ける横幅の橋を駆けて行く。しっかりと架かっているが手すりはない。5階の高さから見下ろす風景や景色。スカイブ帝国やタマサイのお城、バチの商業都市までもが一望できる。


 遠くから見えていたオブジェクトの表面はすべすべして柔らかい。言うなればアルビノの肌。感触も人肌のようだ。


 橋はオブジェクトの中央、外を向くふたりの横顔が重なる耳の穴。中の通路も中央で色が律義に分かれている。


「一体何の目的でここを作ったんだろうね」


「それにしてもここは暖かいのじゃ。壁もぷにぷに柔らかいしまるでニコの肌なのじゃ」


 通路は螺旋となって地上に向かって伸びている。パイプのように丸い螺旋を降りと滑り落ちてしまいそうだが、不思議な事に足や手が壁に触れると、接触に合わせるように絨毛(じゅうもう)のような突起が粘着するので平坦をな道を歩いているのと同じ感覚で歩ける。


「面白いのじゃー」


 ジャンプしてお尻で着地すると弾力によって跳ね返り立位に戻ることが出来る。2段尻ジャンプや3段尻ジャンプなど楽しんでいる。僕は月面着陸ゴッコをしていた。弾力を利用したジャンプが楽しい。


「ハッ! ……何かおかしい。ユニ、ユニ、ここに何をしに来たんだっけ」


「楽しいのじゃー、楽しいのじゃー、ニコも一緒に遊ぶのじゃー」


「ニコ、ニコ! そうだ、ニコに会いに来たんだ」


「そうなのじゃ! なんで遊んでいるのじゃ」


「何かが僕たちに干渉しているのかもしれないね。良く分からないけど急ごう」


 余計なことを考える間もないように一気に地上まで降りた。


 そこで見たモノは……。


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