041:グレイダー迷宮での再会
──グレイダー迷宮
スカイブ帝国が秘宝を手に入れるためトーナメント優勝者を集めて攻略を目指している迷宮。帝国が秘宝を手に入れれば世界はスカイブ帝国に傾くとまでいわれる。特別な力を持つ異世界人までも召喚して欲する秘宝とは一体なんなのだろうか──
ウタハはトーナメントを1人で戦い抜き、弱小チームを率いて有名な強者を瞬殺しただけでなく、ダメージを一度も受けずに勝利する強さから『戦乙女』の二つ名が与えられていた。
「本当に勘弁してほしいです。私はただの『なかよし』の一員なのに『戦乙女』とか言われて街を歩けないんです……」
珍しくウタハが荒れていた。トーナメントが終わってからまともに街を歩けていない。宿屋の前には記者が待ち構え、ちょっと動けば人が付いてくる。声をかけられ返答しようものなら、そこを皮切りに取り囲まれてしまうので宿屋に一人缶詰め状態である。
大会後は、ウタハを宿屋に残して食材を中心に素材や消耗品を買い集めていた。一度の迷宮探索で秘宝を取得しそのまま姿をくらますことを考えている。取得後に帝国へ戻れば秘宝を取り上げられかねない。そのまま消息不明になって逃げたか死んだと思われることを狙っている。
迷宮の入り口は増築されたであろう立派な建築物で覆われており5メートルはある巨大な扉が行く手を拒んでいた。扉に触れるとランクプレートが光り輝き重く悲鳴のような音をたてながら扉が開く。
建物の中には看板が立てられ、死んでも自己責任。取得したアイテムやゴールドは発見者の物。貢献度によって爵位を与える。強調されていたのは『秘宝は必ず持ち帰ること』などが大きく書かれていた。
貢献度確認の名目に数名の調査官が配置されている。調査官といっても通常の兵士よりも強いオーラを発し目つきが鋭く見ただけで手練れと分かる。秘宝の盗難防止が本来の任務であろう事をうかがわせる。
迷宮内は煉瓦(れんが)作りの通路が広がり後付けしたであろう火が灯されている。魔物は出てくるが襲ってくるわけでもなくただ一本道を歩いているだけだった。帝国が長年この迷宮に強者を送り続け、いまだ秘宝を手に入れられていない理由がどこかにあるのだろう。
どんな強敵が襲ってきてもいいように戦術を決めて意識する。僕がチームの盾を引き受けリリスとウタハが後衛から遠距離攻撃する。そしてユニが武器チェンジを生かした遊撃といった具合だ。
20階まで降りてくると魔物の傾向も掴めてくる。攻略している階数イコールLV(レベル)程度の魔物が現れる。階を進めば進むほど魔獣が強くなっていく良くあるパターンだ。
「なぎさ、20階も過ぎたけどまだまだ楽勝じゃな」
「陣形も様になってきたし、これなら強い魔獣が出てきても大丈夫だと思うよ。ウタハは『歌』に慣れてきたので、他の歌も切らさないように歌ってもらっていいかな」
「分かりました。最初はどうしても忘れてしまう事が多かったのですが随分と慣れました。これから2種類を歌い続けられるようにします」
「ウタハは本当に良い声で歌うのね。またゆっくり聴かせてもらってもいいかな」
リリスは歌が好きなようだ。リリスを見ていると品行方正なお嬢さんのようで『サキュバス』のイメージと全く異なる。 ……デーモンアクスを持つと性格が変わるが。
地下25階に到着すると1面開けた場所に出た。見下ろすように眺めると草原が砂丘のようにゆるやかに起伏しながら続いている。その先には連なる山や深い森林が屋内であることを忘れさせる存在感を醸し出している。その中に見えるぽつぽつとあるいくつかの建物。 ……集落か?
「空が光ってる。鉱石がキラキラしているような…… 鉱石が高すぎて素材化出来ないや。残念」
「最近、なぎさは新しい素材にこだわるようになったよね」
「やっぱり、色々と試して新しいものを作ったりすれば便利になるからね」
新しい鉱石を見ると素材化したくなってしまう。鉱石にはそれぞれの特徴があり、空に見える鉱石は光を発し屋内を感じさせない明るさを保っている。この鉱石があれば地下室を作った時に燃料を気にすることなく明かりを灯すことが出来るのだ。
この先の広場にいくつかのテントが設営されているのが見えた。帝国のイメージカラーである赤をあしらったワンポールテント。この迷宮を探索している冒険者だろう、そこに行ってこの階の情報を聞いて見ようと思っている。
「片づけが終わったら出発するぞ!」
広場まで来ると既にテントの撤収作業をしているパーティーがいた。黄金の鎧を装備した男の指示で準備が進んでいく。その指示を出している男の声、身に着けている黄金の鎧の主を知っている。予想通り勇者パーティーの聖である。こちらに気づくと一方的に捲くし立てるように話しかけてきた。
「圧倒的な強さでトーナメント優勝を果たした岩谷様一行じゃないですか。早々に中間地点まで来るとはなかなかですね。まぁ、『戦乙女ウタハ』がいれば余裕か」
昔の正義感はどこに行ったのだろうか。人を見下し、元(もと)とは言え友人をこき下ろす言動。昔の聖からは想像できない性格の変化だ。特別な者として招かれ特別な訓練を受けたことで絶対的な強者となり、どこに行っても崇められる生活が聖を変えてしまったのかもしれない。
「ウタハさん。低レベルのお守りに嫌気がさしたらいつでも来てください。私たちは貴方の加入を心よりお待ちしております」
聖は貴族のお辞儀をウタハに向けるとメンバーに合図をしてさっさと奥へ消えていった。
「なぎさ先輩。私たちは最下層50階の目前まで行けたんです。今回の探索で秘宝を手に入れますので応援してくださいね」
古式はリリス、ユニ、ウタハを順に睨み僕に笑顔を向けながら聖の後を追いかけるように走っていった。
「相変わらずモテモテじゃな。ウタハは」
「やめて下さいよ。あんな人がなぎささんの友達だったなんて信じられないです。でも、昔のなぎささんを知っているなんていいなぁ…… ちっちゃいころのなぎささんはきっと……」
「なぎささん、折角ですのでここで一休みしていきませんか」
「そうだね地下にお風呂を作ろうと思っているんだ。テントを設営してテント下に地下室を作ればゆっくり過ごせると思うんだ」
広場の隅にテントを広げ、テントの中に地下へ続く階段を作ってリビング兼寝室と風呂場を作った。リビングは16畳ほどの広さを確保し小さいお風呂を作ると後々大変なので、10人は入れる大きな風呂場を確保した。
テントの素材は鉄の糸で編み込み入り口は塞ぐ。地下への入り口はカモフラージュして外からは開けられないようにしあるので安心だ。
今日の夕飯はバーベキューで盛り上がった。地下室なので換気をしっかりして帝国で買いためた肉を焼きまくった。タブ肉にシウ肉、リト肉だけでなくツジヒのムラ肉。かねてより食べてみたかった大きな骨のついたマンガ肉も焼いてかぶりついた。もちろん野菜類もバランスよく食べるようにした。
……食後は4人でお風呂に入ることになった。
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