121:危険なタナリ
「まあ、その話は良いんだ。君が信用に足る人間と言った理由だ。伝えたいのは悪しき組織『ダークウィングス』のことを」
「ダークウィングス? 凄い名前ですね」
ワナギに右手で座るように促されて椅子に座った。ワナギは座りながら説明を始める。
「まあ名前は良いんだ。君も分かるだろうがバチのような大きな都市には必ずと言ってよいほど悪いやつらが組織を形成している。その中でも一番大きな組織と言ってもいい。その組織に伊和凪くんが狙われているという情報があったんだ」
「そんな大きな組織になぜ伊和凪さんが……」
「私たちモールス商会は守護隊がモールス様の意向を汲んで行動を起こすのだが、他の商会は外部組織に依頼するケースが多くてな。ダークウィングスを悪しき組織と言ったがあくまで私たちの視点だ。依頼する側からしたら何でもやってくれる頼もしい組織なのだろうな」
「ダークウィングスは健全な組織なんですか?」
「いや、表向きは『白銀の翼』と銘打って依頼を受けているが、『ダークウィングス』として裏の仕事を引き受けているって話だ」
(白銀……、メイシンガで初めてふろやのお客として来たセレンとニコが所属しているという白銀の翼が……)
「大丈夫かなぎさくん。ダークウィングスの話をしたが、依頼を請け負う組織はほとんどが裏の顔を持っている。それもバチ王国民の多くが崇拝する神『ビレインバアス』の名のもとにな」
「神……タナリ?」
「そうだ。この国の神はタナリに祀られている。タナリはその組織が多く集まる総本山なんだ。人間には表と裏の二面性を持っていて正しくも悪しくもある。その教えに賛同できないモールス商会は自商会で守護隊を組んでいるんだ」
「二面性ですか」
「ああ、表と裏。人によって価値観は違う。ある人にとっては悪でも、善と捉える者も居る。そういう考えらしい。どういう基準で白銀の翼とダークウィングスを使い分けてるかまでは知らないけどな」
「分かる気がします……」
これまで僕が信じた道を通って来た。もちろんこれからもそうするつもりだ。しかし色々な国、色々な人々を見て、なにが『正しい』のかは人によって違うという出来事を思い出していた……
「なぎさくん大丈夫かね?」
「ええ。ちょっと色々なことを思い出してしまいましてね」
「生きていれば色んなことがある。いいこと、悪いこと、まあ自分が信じた道を歩むしかないんだけどな」
「そうですね。ぼくは仲間たちとともに自分が信じた道を突き進むのみです」
「君は強いんだね。色々なことを経験してきたんだろう。顔が物語っているよ」
「そんなことないですよ。リリスたちみんなに随分と助けられてますから」
「ハハハ。そうしたらタナリから帰ってきたらみんなでパーティーをしよう……ふむ、とっておきのサプライズを用意しておくよ」
▽ ▽ ▽ ▽
僕たちはタナリに向けて歩いていた。凛ちゃんと伊和凪さんはイサヤ家で待機してもらい僕たちは神の町へ。みんなには事情を話し戦闘になる危険性を伝えておいた。
「やるのじゃ、やるのじゃ、思いっきり暴れるのじゃー。ユニの三節混をつかうのじゃー」
騒ぎ立てるユニを制止するようにウタハが声をかける。
「ユニさん角がないんだから大人しくしていてください。ここは私となぎささんで全滅させて──」
ゴツン ──アカリの拳がウタハとユニにヒットした。
「ウタハちゃん、ユニちゃん、いい加減にしなさい。遊びに行くんじゃないのよ。それに出来る限り戦いにならないようにするの」
「そうよ。バチ王国の神を祀っている町なのだから平和にいきましょう」
「そうだね。あんなに発展した商業都市が崇拝する神なんだからきっと平和的な解決が出来ると思うんだ。だからよっぽどのことがない限りは手を出さないでね」
「「ごめんなのじゃ / ごめんなさいです」」
タナリ周辺は森林地帯となっており、中央には神を祀る巨大な建造物があると言われている。高く伸びた木々が建物を隠し全貌は限られた者しか見ることは出来ないという。
街道を進んでいくと徐々に迫る森林地帯。サムゲン大森林とは違った神秘的な雰囲気が漂っている。神社の中に感じるものと似ている。
森林地帯の中にはマップで確認する限り、いくつもの生命体反応があり赤とも青とも言い難い不思議な色で表示されている。
「(小声)みんな、森の中に沢山の気配がある。気を付けてね」
木々の合間を縫うように繋がる街道を進んでいく。葉の隙間から漏れる光が唯一の道を照らす手掛かりとなり、生命反応は僕たちが進むにつれて後を追うようについてくる。
「なぎさ、いつものように炎を出して明るくするのじゃ」
マップに表示されている反応が徐々に赤色に変わっていくのが分かる。全ての会話が筒抜けで内容によって敵か味方か見られているのだろう。
「ははは、今日は松明をもってきていないからね。ちょっと暗いけど我慢して進もうか」
回りくどい言い方がユニに伝わるか分からなかったが、リリスが気づいたようでユニの肩に手を置く。
「そうよ。我慢しなさい。炎を使うのだってタダじゃないのよ」
いつもと違う雰囲気で話すリリスの様子に察したのかそのまま押し黙った。おかげでウタハやアカリにも何かあると伝えることが出来た。
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