122:タナリの街並み
街道を進んでいくと町に到着した。
タナリは町と言うより参道。幾重にも作られた鳥居が並び、抜けると道幅の広い石畳が敷かれた一本の道が奥へと伸びている。
両端には赤を基調とした京の街並みをイメージする建物がずらりと並び、参道の遥か先には5重塔がそびえている。
参道に一歩足を踏み入れると1人の男が道を塞いだ。例えるなら虚無僧。籠(カゴ)の笠をかぶり手には50センチほどの尺八を携え装束を身に着けている。
「君たちはここに何用かね。用無き者はここを通すわけにはいかん」
「白銀の翼のニコに会いたくてここにきたんです」
虚無僧がピクッと動き尺八から仕込み刃が伸びる。森の陰に隠れる生命体の色が赤く(敵対色)染まっていく。
「白銀の翼はタナリでトップに君臨する組織だ。君たちはそこまでの成果を残したのかね」
「成果って何なのじゃ。ユニはニコに会いに来ただけなのじゃ」
男はうつむくときびすを返して奥に向かって歩きはじめた。ついてこいということなのだろう。
僕たちはゆっくり虚無僧の後をついていった。
数々の建物を抜けて奥に向かって歩く虚無僧。遠くに見えていた5重塔が近づくにつれてどんどんと大きく見えてくる。
建物が途切れると塔に向かって更に道が続いている。塔の陰からチラッとモニュメントが横顔を覗かせた。
建物が途切れた最後の建物。格子状で赤い色をしている扉、どこかで見たことがあるのだが思い出せない。
男はその扉をスライドさせると右手を差し出して中に入るように促した。
ふたりが並んで通れるほどの通路を下っていく。明かりが等間隔で設置されているが薄暗い階段。
木を打ちつけただけの壁を手掛かりに階段をおりていくと大きな広間に出た。
壁や床がアダマンチウム鉱石でコーティングされた広間。中に入ると、格子状の赤い扉が閉められる。
右手側にある簡素な椅子に案内されると虚無僧は正面の椅子に座った。
「ようこそタナリへ。この場所は特別な客人の人となりを見せてもらう場所。仰々しい出迎えをしたが普通の町だ」
「とてもそうは思えませんけど」
僕の問いかけに笠をかぶったまま答える男。
「この国で主となる信仰神は『ビレインバアス』様。誰もが二面性をもつという教えなんだ。特にこの町は総本山だからね。私はこの姿で緊張感を演出することをもう一つの性格としているん── むっ!」
「みんな気を付けて!」
リリスが勢いよく椅子を倒して立ち上がり右手を水平に素早く動かして前かがみになる。
「リリスどうしたんだい」
「この人は私たちの頭に入ろうとしているわ。夢魔の力よ!」
「「「なんだって」」」
「流石はリリスくんだね。夢魔の力だけは僕の方が上だと思っていたけど、弾かれちゃうなんて随分成長したんだね」
ゆっくりと頭に被る笠を脱ぎ捨てる男。中からはリリスと同じ形の角が生えた男、そして腰には羽が現れた。
「先生!」
驚いた。この男はリリスが海底神殿で学校に行っている時の担任の先生。
「リリスくん久しぶりだね。他は初めましてだね、インキュバス族のキホーテといいます」
「インキュバス族……。やっぱり先生の噂は本当だったのね」
「リリスどういうことなの?」
「先生はサキュバス族という名前に対して嫌悪感をもっていたのよ。男性至上主義っていうのかしら、インキュバス族に名を改めようと色々と画策していたみたい。それにベヌス占拠を企てた1人でもあるの」
「リリスくんの言う通りだよ。族長ザックは非常に扱い易かった。まあ先走って自滅したんだけどね。そんなことは今はどうでもいいことだよ」
「キホーテ先生、そんなことって……」
「まあ待ちたまえ、サキュバスだインキュバスだと言ってたのは愚かだった。今はここで門番をする生活さ。さっきの夢魔の力だって別に何かしようとしたわけじゃぁない。君たちがタナリに害をなす人間か確かめたかっただけなんだ。失敗しちゃったけどね」
「キホーテさんは戦う意思はないと」
アカリが一歩前に出てキホーテを睨みつけた。
「ああ、僕がリリスくんにかなわないことは分かっているからね。それに戦う気もない」
そう言いながら立ち上がって、入って来た扉の方へ歩いていく。
「先生、どこに行くの」
「別にどうこうしようとするつもりはないよ。今はニコ様にとって大事な時期なんでね。心を乱されたら困るんだよ。ちゃんと食事は出すし不自由な思いはさせないから1か月ほどここに閉じ込められて欲しいんだ」
「ニコに、ニコに何があったのじゃ」
キホーテは赤い格子状の扉に手をかけて答えた。
「塔で大切な儀式があるんだよ。だから邪魔しないでくれ……とは言っても壁はアダマンチウム鉱石、扉は不接触魔法がかけられているから出られないけどな」
扉を閉めると階段を上る音を響かせいなくなった。
「思い出した! 赤い格子状の扉。不接触魔法……この世界に飛ばされて牢に入れられたときの扉。それに壁の色も同じ……」
「なぎさが女湯を覗いて捕まった時の話しじゃか」
「あぁ、そういえばわたし、あそこでなぎささんに裸を見られたんですよねぇ」
「ちょっと、ユニにウタハ、変な事言わないでよ」
「まったくなぎさちゃんは、お風呂で女性の裸を見るのが好きなの? そういえばさりげなーく、みんなが来るのを期待してるわよね」
「そうなんですか! なぎささん、それなら私はいつでも一緒に入りますよ!」
「またウタハが抜け駆けしようとしているのじゃ」
「ちょっとみんな……。リリス、なんとか言ってよ」
リリスは扉の前にいた。赤い格子扉を見つめて手を伸ばす──
「みんなー。開いたわよー」
伸ばした手が扉に触れるとそのまま音もなく扉が開かれた。
「なぎさ、壁は何とか鉱石と言っていたが堅いのじゃか」
「アダマンチウム鉱石だね。確かに硬い鉱石には違いないけど、ユニに作った武器の方が硬いよ」
ユニは三節混を取り出すと、おもむろに壁に叩きつけた。破壊することなくくっきりと棍の形を残して壁にめり込む。
「ユニさん壊しちゃだめですよー」
「ごめんなのじゃ、堅いって言うからためしたのじゃ」
「みんな、5重塔に向かおうか!」
「「「「おー! (なのじゃ)」」」」
扉を抜けて5重塔に向かった。
……念のためユニが壊した壁は変質の力を使って修復しておいた。
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