120:交錯する事情

 勇者パーティーの一人で、伊和凪と一緒にバチ王国へ行ったという女性、古式凛だった。それに気づいたアカリが声を上げた。


「凛ちゃん!」


「なぎさ先輩たち……。どうしてここへ。ワナギさんどういうことですか」


「すまんすまん古式くん。ちょっと驚かせてやろうと思って秘密にしていたんだ」


「ごめんなさい、お兄様は人を驚かせるのが好きなんです。状況関係なしにやるから困ってて」


「それにしてもリンちゃん久しぶりねぇ。何年振りかしらぁ、大きくなったわね」


 アカリが古式の傍まで歩くと頭の上に手をポンッと置いた。


「あのぅ、わたしたちお会いしたことありましたっけ?」


 不思議な表情を浮かべる古式。それを見たアカリはしまったとばかりの表情に変わる。


「凛ちゃんこの人はアカリ。君が知っている那由姉さん……じゃなくて神薙那由の精神が転生されたんだ姿なんだ」


「えっ?えっ?神薙先輩ですか。話し方も全然違いますけど」


 乾いた笑いを浮かべるアカリ。


「リンちゃん、私はねぇこの世界に精神と記憶だけが転生されてこの体に憑依したのよ。だからね性格はこの子のものなの」


「そして私が神薙那由の体です。訳があって見た目は全然違うけどね」


「えっ?えっ? 良く分からないです。でも体の方は……言われてみたら神薙先輩にそっくりかも」


 全員が円卓に座る。見まわして話の本題に入った。


「凛ちゃん。まずは何で伊和凪さんと一緒にいるか教えてもらえないかな」


「なぎさ先輩。実は……

 なぎさ先輩がグレイダー迷宮から姿を消した後のことです。

 前に蒔田先生(65話)が言っていたことを思い出したんです。スカイブ帝国が秘宝を探す目的についてを……。

 そのことを聖先輩に相談したら性根を叩き直してやると訓練場に連れられ模擬戦をしたんです。……そしたら圧勝してしまった。なぎさ先輩にもらった武器がとても手に馴染むし力も沸いて来るんです」


「アンガスが言っていたよ。聖たちを打ち負かしたって(106話)」


「はい。アンガス先輩が言った通り、聖先輩のプライドに傷をつけてしまったみたいで、斉木先輩や里中先輩も加わったのですが打ち負かしてしまいました。そんなことを公(おおやけ)に出来るはずもなく、一人、孤立していたらなぎさ先輩を探している沙耶ちゃんと会ったんです」


「ちょっと待って。わたしとユニがメイシンガの近くで会った時……確かに『恋人を探している』って言ってたわ」


「なぎさ! どういうことなのじゃ。ちゃんと説明するのじゃ!」


「ふふっ。なぎさ先輩はモテますね。心配しないでください沙耶ちゃんは思い込みが激しいんです。本当に恋人だったわけじゃないですから。

 スカイブ帝国で孤立していたしなぎさ先輩にも会いたかったから沙耶ちゃんと一緒にスカイブ帝国を出ちゃいました。

 ちなみにこの世界に来たのは、私たちが転移された場所に足しげく通ってなぎさ先輩の痕跡を探していたらこの世界に飛ばされたって言ってました」


「「なんか妬けるわねぇ」」 ──リリスとアカリがハモった。


「それで情報が集まるバチ王国に流れた私たちは商人の傭兵となってなぎさ先輩の情報を集めていたんです。ワナギさんはモールス商人の守護隊長で私たちはその下で働いていたんです」


「そうなんだよ。古式くんと伊和凪くんは優秀でね。わたしたち守護隊長が束になってもかなわない強さなんだよ」


「凛ちゃん、それがどうしてこんなことになったの?」


「多分、沙耶ちゃんの力のせいだと思います。自分を投影して戦うんです。実態のある分身で戦うような……。分身なので本体にはダメージが入りませんし、相手の能力を低下させる魔法を使っていました。その投影の力に目を付けていた者がいたことは知っていたのですがひとりの時に襲われたようで……」


「そんなことがあったんだ」


「なぎさ先輩たちのことも教えて下さい! 何なんですかグレイダーセクションでの異常な強さは。それにこんな武器を作ることができる力のことを」


「凛ちゃん、それはおいおい話すよ。それよりもほら」


 なぎさの目線の先、指差す方向に目を覚ましたのか伊和凪沙耶が上体を起こし右手で顔をこすり意識をしっかり取り戻そうとしている。みんなが駆け寄り沙耶を取り囲む。


「沙耶ちゃん、沙耶ちゃん大丈夫? 無事なの?」


「う、うーん。ここは一体どこなんだ、なんだお前たちは、一体誰なんだ」


 上体を起こしたまま顔を見回す沙耶。とぼけているのか寝ぼけているのか目を見開き自分の右手のひらを見つめている。


「伊和凪さん大丈夫? /沙耶ちゃん大丈夫?」 ──僕と凛の声がハモった。


「うーん、分からないのだ。一体何がおこったんだ。私のことを知っているのであろう君たちのことが全然わからないのだ」


「なぎさ、もしかして記憶喪失なんじゃ」


「沙耶ちゃーん、わたしよー。神薙那由よ~。神社で良くお話ししたでしょ」


「赤い髪の女なんて知らないぞ。一体お前たちは私に何をしたんだ」


「伊和凪くん、部隊長のワナギだ。どうやら君は記憶を失っているようだ。行く当てもなかろう、暫くここにいなさい。古式くんは伊和凪くんのことを看ていてあげなさい」


「ワナギ隊長分かりました。沙耶ちゃんともどもしばらくここでお世話になります」


「マリン、ふたりを頼む。私はなぎさくんとふたりで話がしたい。ちょっといいかな」


「分かりました」


 ワナギに連れられるまま奥の個室へと通される。さっきまで居た大広間がギューッと凝縮されたような部屋。中央には装飾された四角テーブルが置かれ、その周りにはスペースを贅沢に使って4脚の椅子が置かれている。


 扉に入るや否やワナギが話し出した。


「なぎさくん。今日初めて会うわけだが、古式くんや伊和凪くんの話し、さっきは流されたけどモールス様の知り合いでもある君なら信用できるから伝えておきたい」


「モールスさん……。あっ~! オークションでハッコウ遺跡を勧めてくれた商人の」


「そうだ。モールス様は自分の目で見た信用に足る人間にしか情報を教えないんだ。有用な情報であればお金になる。しかしお金になるからと言って誰でも教える訳じゃないんだよ。初対面の君に無償で情報を教えるなんてあの場にいながらビックリしたよ」


「ああ、モールス商人の近くにいた……」


「まあ、その話は良いんだ。君が信用に足る人間と言った理由でもある。伝えたいのは悪しき組織『ダークウィングス』のことを」


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