119:突然の再会
僕たちはバチ王国にいた。
ツッカイから向かうと近いのだが、妻と子を保護した手前、町に入るのは気が引けるので、スカイブ帝国西にあるペルシャの家から直接タナリに向かおうかと考えたら、メイドのウンネからバチ王国に住むマリン (52話)を紹介された。
ギルドの受付嬢であるマリンは天女族の一人で、屋敷の絵画を通じてマリン邸に移動し、円卓を囲んでお茶を飲んでいた。
「なぎささんがペリーヌ王女の知り合いだったなんて知りませんでした。あの時は失礼をしました」
「僕たちはタナリに行くためにマリンさんに協力をしてもらっているんです。今まで通り普通にしてください」
「なぎささんって一体何者なんですか? 未だにランクプレートのレベルは1のままなのに、ペリーヌ王女やペルシャ様を顎で使い、あの最凶の支隊と言われた部隊の娘たちをメイドに従えるだなんて」
「マリンさん……。ちょっと誤解が。ペルシャたちは顎で使ってないしウンネたちを従えているわけでもないよ。みんな僕の仲間たちだよ」
円卓の中央にある燭台の炎から放たれた光がゆらめいた。装飾品として置かれた燭台は明かりとしての機能はほとんどないが、見つめるとリラックス効果がある。
「あら、お兄様かしら」
音もなく開いた扉の先にはひとりの男が立っていた。女性をお姫様抱っこして入ってくる。そのまま円卓の奥にある木目調の四角い机に横にさせた。
「マリン、今帰った。すまないが布団を持ってきてもらえないか」
「お兄様分かりました。なぎささんちょっと待っていてくださいね」
マリンは椅子を立つと奥の部屋へと消えていった。
「君はナギサ、ナギサって言うのかね。もしかしてイワヤナギサくんじゃないよね」
「マリンさんのお兄さん? 僕たちは初対面ですよね」
ビックリした表情で近寄ってくるマリンの兄。心なしか怖い顔をしているようにも見える。
ユニが襲ってくるものと勘違いしたのか戦闘態勢をとって威嚇した。
「なぎさを知っているお前は何者なのじゃ」
敵として見られてしまったと気づいたのか、右手の平を後頭部に運びそのまま頭を擦りながら自己紹介をした。
「すまない。敵対している訳じゃないから落ち着いて欲しい。私はマリンの兄でワナギ・イサヤと言う。今連れてきた女性が君を探していたんだよ」
「イサヤ?」考え込むリリス。握った拳で軽くこめかみを叩きながら考えている。その間にワナギが連れてきた女性の元へ近寄った」
「「 !!! 」」 ──衝撃的な事実に気付いた。
「伊和凪 (いわなぎ)、伊和凪 沙耶じゃないか!」 ──なぎさは叫んだ。
「イサヤって、コツの部隊長とマーハさん!」
「「「「えーーー!!! (なのじゃ) 」」」
驚きが勝り思考がストップする。みなが声を失ったことで部屋の中は静寂に包まれた。
そんな静寂を破ったのがマリン。
「お兄様、布団を持ってきました」
何も知らずに駆けてくるマリン。そのまま横たわる女性に布団をかけた。そこにゆっくりとアカリが近づく。
「マリンちゃん、あなたマーハって人を知っている?」
「ええ。マーハはわたしの母です。母を知ってるんですか」
「マーハさんはコツで部隊長とケンカをして『天界(てんかい)』に帰っていたみたいですよ。でも良かったですよねぇ。仲直り出来て」
「天界? 母が天界に帰ったってどういうことだ」
ウタハの一言で場が凍り付いた。天女族のことを族外の者に言う事は禁忌とされる。マーハやマリンが天女族であることを示唆することもご法度。慌ててフォローに入る。
「ウタハの言い方が悪かったんですよ。マーハはイサヤ隊長とケンカをして今後のことをどうするか実家に『転回(てんかい)』して帰ったと言いたかったんです。ウタハの方言ですね」
少し考えたワナギは左手の平に右手拳を叩き納得すると扉へと向かって歩いていった。
「マリンすまない。未だ仕事が残ってるんだ。サヤのことを頼む」
ワナギがこの場から退場したことで大きなため息が部屋の中で何重奏にもなって響いた。
『天界』というトップシークレットを漏らしたウタハを罰するようにリリスとアカリがウタハに詰め寄った。
「それにしてもなぎさちゃん、沙耶ちゃんはどうやってこの世界に来たのかしらね」
「そうなんだよね。アンガスがバチ王国に凛ちゃん(古式)と伊和凪(沙耶)さんがいるって言ってたけど(106話)。まあ今は目を覚ますのを待つしかないね」
「この娘を知っているのじゃ。ヨハマに行くときに蛙に食べられそうになっていた(62話)のじゃ」
「なぎさ、前にも言ったけど(106話)、ユニが言った通りメイシンガの近くで会ったのよ。不思議な魔法を使う子だったわ」
バス旅行のメンバーではない伊和凪がどうやってこの世界に辿り着いたのか。それに魔法まで使うとは一体どういうことなのだろう。色々と頭を巡らせながら円卓の椅子に座る。
その隣に座るアカリ。
「沙耶ちゃんって良く神社(神薙神社)にお参りに来ていたから知ってるのよ。なぎさちゃんのことを追っかけてるって有名だったからね」
「そうなの? 僕は全然知らなかったよ。家の前やお風呂屋さんで良く見かけたから近所なのかとばっかり思ってた」
「相変わらず自分の事には鈍いのね。アカリ、なぎさは昔からこうだったの?」
「そうね。リリスの言う通りよ。カッコいい訳でも勉強が出来るわけでもないんだけど妙に女の子にはモテていたわね」
「ちょっと変な事言わないでよ。まったく那由姉さんは」
「そういえば、スカイブ帝国の勇者パーティーにいた刀使いもなぎささんのことを気にしているようでしたね」
ウタハがボソッと声を出す。
「そうじゃそうじゃ。ユニたちに怖い視線をビシビシ浴びせていたのじゃ」
「ユニちゃん、凛ちゃんもなぎさちゃんのことが好きだって有名だったわね」
「まったくなぎさは……。どうせ知らなかったとでも言うんでしょうけど」
「ちょっとリリス。確かにプレゼントやメッセージは良く来ていたけど」
「そう考えると女ったらしですよね、なぎささんは」
ガチャ ──勢いよく扉が開いた。その先には一人の女性が立っている。
「凛ちゃん!」
勇者パーティーの一人。伊和凪と一緒にバチ王国へ行ったという女性、古式凛だった。
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