038:仲間?との再会
1回戦の相手はウタハを捨てた『サクリファス』だった。その元仲間が対戦相手として目の前にいる。
「あれー。お前、ウタハじゃん。なにこんな所にいるのー」
「確かお前のレベル7だったよな、他のメンバーも1桁って随分弱いの集めたな」
「ははは。そんな底辺チームならお前がリーダーか。精々がんばって引っ張ってやれよ」
顔が青ざめ足が震えているウタハがそこにいた。サクリファスの笑い声だけならず、観衆の笑い声も重なってウタハの心を追い詰める。リリスはウタハを胸に手繰り寄せてギュッと抱きしめ、ユニはぎゅっと手を握る。僕は頭をポンポンと軽く撫でてあげると、今までの震えが嘘であったかのように笑顔に変わった。
「もう大丈夫です。みなさんありがとうございます」
目が輝きを取り戻し、やる気オーラをドバドバ出しながらニコッと笑っていた。
「それでは、両チームとも戦闘態勢を取ってください」
サクリファスは、武器を下ろしガチャガチャと鎧の音を立てながら面倒臭そうに移動する。
なかよしはウタハ1人残して後ろに下がり、観戦するように後ろに下がって座り応援を始める。
「ウタハーがんばってね」
「練習通りうまくやるんだよ」
「しっかり見ているから頑張るのじゃ」
応援を聞いたウタハは振り向いて笑顔を見せて大きく手を振って応えた。
審判はワナワナ震えていた。前代未聞、レベル1桁パーティーというだけでも初めてなのに、ひとりに戦わせようなんて常識外れも良いところ。
「き、君。本当にこれで良いのかね!」
「いいのじゃ。さっさとはじめるのじゃ」
ユニは離れた位置から自分のことのように大きく手を振って審判に答えた。
「舐めやがって……」
サクリファスは怒り心頭。観衆からは大きなブーイングが響き渡る。それぞれの想いが交錯しながら試合は始まった。
「それでは、第5試合…… 開始!」
ウタハに代わって加入したサクリファスは騎士。この場に似つかないシルバーのフルプレートを身につけていた。──騎士は防御力が高く簡単な回復魔法を使うことが出来る──
ウタハがチームで担っていた召喚獣の盾と歌の回復を代替えしたような役割である。
狩人が矢を速射し魔法使いの風魔法と合わせてウタハの周りに弾幕を作る。流石に優勝候補というだけあって弾幕一つを作るにも連携がとれていた。弾幕は僅かな空間を作り出し、そこを抜けるように戦士が飛びかかる。
ウタハは矢と魔法をスライディングして前方に避けながら飛び込んできた戦士の鳩尾(みぞおち)をシルバーナイフの柄で突く。鈍い音とと共に戦士の瞳は光を失い口から垂涎(すいぜん)を流しそのまま落下した。
魔法をかいくぐったウタハは2本の鏃(やじり)を丸くした矢を同時射ちで狩人と魔法使いの鳩尾(みぞおち)にヒットさせると、2人とも崩れ落ちるように意識を失った。──既に同時射ちの反動を利用したウタハは1回転しながら騎士の後ろに飛び込んでいた。そのままシルバーナイフのミネで薄くなっている鎧の首裏を打ち付けると、騎士は振り返る間もなく全身を震わせながら膝を付いて鎧の音を響かせながら倒れた。
開始から30秒足らずの出来事だった
──静まる観衆。音一つない空間
パチパチパチパチパチ
静寂を打ち破るなぎさの大きな拍手が時間を取り戻す。呆然と呆気にとらわれていた審判は慌てて試合を止めた。
「しょ。しょ勝者、『なかよし』」
まばらな歓声が徐々に勢いを増し波紋が広げるように歓声も広がっていく。そしてコロシアムは静寂から打って変わり大歓声に包まれた。
ウタハが涙を流しながら飛びつく。「勝ちました!」と何度も繰り返し、抱き着きながら喜びを表現している。それを見ていたリリスとユニは、いい加減にしろとばかりに2人を無理やり引き剥がした。
▽ ▽ ▽
控室に戻ったウタハはニコニコとニヤニヤを繰り返すように百面相をしている。そこへ響くノックの音が控室の音を掻き消した。ノックの主はイライラしているようでだんだんと叩く音が強くなる。
扉を開けると、見覚えのある男がひとり立っていた。
「リーダー」ウタハの一声でノックの主がサクリファスの戦士であることが分かった。
「ウタハ強くなったじゃないか。お守りするようなチームにいる位なら、面倒見てやるから戻ってこい」
叫ぶようにウタハに言葉を浴びせた。ウタハは立ち上がって僕の後ろに隠れて小さくなった。 リーダーの所へ行こうとすると、ウタハは思い立ったように僕の肩を掴み肩越しに顔を出して気持ちを伝えた。
「わたしは強くなんてありません。この中で一番弱いんです。誰にも勝つことは出来ません。それにみんなと一緒に居たいんです」
真剣な眼差しでサクリファスのリーダをまっすぐ見つめている。まるで、心で会話しているかのように火花を散らし見つめ合った。
「確かにな…… お前を短期間でここまで強くしたんだもんな……」
サクリファスのリーダーは踵を返し控室を去って行った。その後ろ姿は哀愁が漂っていた。
トーナメントは順調に消化され準決勝まで進んだ。準決勝はシード『メラリオン』が決勝にコマを先に進め、準決勝『マテンロウ』vs『なかよし』が開始される。
他チームの試合中は控室でじっと待つ。相手の編成や戦略を事前に知られない措置で、初見同士でお互いが戦えるように情報をシャットダウンする。実際の迷宮では、初見で強い魔物と戦うことが多々あるので、それに倣ったルールになっている。
『マテンロウ』にとって初見となる僕たちの情報は、くじ引きで審判が大声で漏らした全員レベル1桁ということだけだ。……情報漏洩は問題視されるのだがスルーされている。
両チームが出揃い準決勝が始まる。マテンロウは、くじ引きの時に沸き上がったブーイングや笑いの嵐が、一転してウタハコールに変化したことと優勝候補のサクリファスを撃破したという事実から何かを悟っているようだった。
「それでは各チーム戦闘態勢についてください」
前回同様にウタハ1人を残して僕たちは後ろに並んで座る。マテンロウは怒りをあらわにするが、ウタハコールが続いていることが何より相手を馬鹿にしていないことを物語っていることを理解したリーダーらしき男が仲間を制止した。
相手チームは前衛2人と後衛2人。装備から前衛がスピード特化の忍者2人で後衛が魔導士2人。魔法を避けさせて忍者が遊撃し仕留めるのが狙いだと予想される。
「準決勝を始めます。『マテンロウ』vs『なかよし』試合開始!」
最初に動いたのはマテンロウ。試合開始の合図と共に魔導士2人がウタハの左右の動きを封じるように巨大な炎と氷の魔法をそれぞれ放つ。合わせるように忍者はウタハの頭上の飛び掛かり、もうひとりの忍者はウタハ自身に切りかかった。
突進してきた忍者の刀をウタハは弓で受け止め、もう一方の手でシルバーナイフを頭上に投げて上から切りかかってきた忍者の鳩尾(みぞおち)に柄をヒットさせる。落ちてきたナイフをキャッチし、弓で受け止めている忍者の鳩尾(みぞおち)を柄で突いた。 魔法は素通りし頭上の忍者はウタハを飛び越え受け身がとれないまま落下して滑っていく。目前の忍者は後ずさりながら鳩尾を抑え意識を失って倒れた。
──司会を防ぐ目前の忍者を避けるようにジャンプし2本の矢を同時射ちで魔導士2人の鳩尾に命中させる。2発目の魔法を放つことがないまま魔導士はその場に沈んだ。
流れるようなウタハの攻撃と1回戦同様の秒殺が静寂を作りコロシアム全体を包み込んだ。
「勝ったのじゃ」ユニの一言がコロシアムの静寂を切り裂き時間を取り戻す。反応するように審判が試合を止めた。
「しょ、しょう勝者『なかよし』!」
割れんばかりの大歓声がコロシアム中に響き渡る。余りにも大きな歓声に飛ぶ鳥が落ちてくる程である。全ての歓声はウタハコールに集約されたが、ポツポツと戦乙女ウタハのコールが混じっていた。
控室に戻った僕たちは決勝を待っている。開始は1時間後、それまでの束の間の休息をとっている。これまでよく戦っているウタハをみんなで褒めたが、1回戦、2回戦共に秒殺で勝ち抜いた事実が自信となったウタハは調子に乗っていた。
「私も戦いたいのじゃ。決勝はユニと変わるのじゃ」
後ろで見ているだけのユニはウタハの戦いを見て体がウズいたようで雄たけびの様に声を上げる。「試合が終わったら私が全力で戦ってあげるから我慢してね」優しく声をかけるリリスの言葉を聞いてユニは2歩も3歩も後ずさった。
「やめておくのじゃ、リリスと戦ったら死んでしまいそうなのじゃ。ウタハに手合わせしてもらうのじゃ」
ユニはウタハに駆け寄り右手の小指を引っ張って自分の指を絡めて指切りを始めた。
そしてついにグレイターセクションの決勝戦が始まった。
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