039:戦乙女の称号

 決勝戦の時間。割れんばかりの歓声が控室まで届いてくる。歓声は主に3つ『メラリオン』『ウタハ』そして『戦乙女』が響いてくる。

 とうとう決勝戦の入場準備が告げられ控え室を出る。闘技場まで続く薄暗い通路を歩いていると、数回しか通ってないこの道が慣れ親しんだ風景であるような感覚が寂しさを募らせる。

 ……とは言っても僕は戦っておらず観ているだけだが、踏み出す一歩一歩がなぜかウタハの成長する一歩一歩と重なって見えたのだろう。太陽のまばゆい光を浴びると既に対戦相手が待っていた。

 


「それでは決勝戦を始めます。レベル1桁軍団とバカにされ笑われていたのが懐かしい。いまだかつてない低評判を跳ねのけて勝ち上がってきた、戦乙女ウタハ率いる『なかよし』」

 ……いつのまにかリーダーがウタハになっていた。しかもレベル1桁軍団と笑われたのは審判がレベルを漏らしたせいなのだが。


「対するは、圧倒的な魔法力で対戦相手を殲滅。誰一人触れることなく決勝に駒を進めた優勝候補筆頭、チーム『メラリオン』だー」


 決勝戦をが割れんばかりの歓声が盛り上げる。贔屓(ひいき)チームが破れた観客も好きなチームに乗り換え全力で応援している。あまりにも大きな歓声に観衆の気迫が伝わってきたのか、ユニの体がうずいたようで全身を震わせていた。


「それでは各チーム戦闘体制についてください」


 こちらは、1回戦や準決勝と同様にウタハ1人を前に立たせ、3人は後ろに並んで座って応援する。メラリオンはこちらを見て一瞬の怒りを見せたが、直ぐに冷静になり4人が横並びになった。

 相手チームは4人とも魔導服を着ている。お揃いの魔導帽と装飾の美しいローブを赤青黄緑の色違いで纏っており、華奢な体つきと膨らむ胸が女性チームであることを物語る。


「それでは、本大会最終試合である決勝を始めます。『メラリオン』vs『なかよし』試合開始ー!」


 ──トーナメント最後の戦いが始まった。


 開始と同時にしかけたのはメラリオン。魔導士が4人そろって火球、水球、風球、雷球と低位の魔法をウタハを取り囲むように連発した。流石決勝出場者だけあってウタハが避ける隙間を完全に塞いでいた。

 ウタハが弓で2本の矢を同時打ちし、魔法を爆発させると、その爆風が誘爆を招きすべての低位魔法を消し去った。爆煙が晴れるとメラリオンは陣形を前2人後2人に変え、既に次の魔法を詠唱している。狙ったように前2人が中位魔法ファイアフレイムを放って下がり詠唱を始める。数秒の間を置き続けて残りの2人がファイアフレイムを放つ。

 中位魔法の詠唱時間をカバーし合う長篠合戦の火縄銃を活用するような戦い方であった。複数の中位魔法に取り囲まれたウタハは、先の魔法を2本の同時射ちで消し去り、追撃魔法も2本の同時打ちで消し去った。

 そのまま前方に走り、次の魔法の詠唱が完了するより早く2本の同時射ちで魔導士の鳩尾にヒットさせ、詠唱が完了した魔導師のファイアフレイムの下を滑り抜けてそのまま勢いにのって魔導士に近づき2人の鳩尾を両手で殴りつけた。相手魔導士は4人とも鳩尾を抑え震えているが、行き場を失ったファイアフレイムが着弾し大きな爆発をさせると同時に4人の魔導士が膝を付いて前に倒れた。


 メラリオンの強力な魔法と、ウタハの秒殺に3度目のデジャブが起こる。千人規模の人がいる中で全く音のない世界。この静寂を破ったのは空を飛ぶ鳥の鳴き声だった。鳴き声に反応するように審判を下す。


「圧倒的低評価の『なかよし』が前評判を覆し奇跡の優勝を果たしました。この後は優勝チームの表彰を執り行いますので今暫くお待ちください」


 優勝チームへの歓声が鳴りやまない…… チームというよりはウタハへの歓声が全てであった。 もしかしたら選手よりも観衆の方がパワーがあるんじゃないかと思う程の歓声が続く。

 メラリオンは担架で運ばれ僕たちは準備された背もたれの長い金色の優勝者席につく。10分ほど待つと準備が整ったのか表彰式が開催された。


「それでは優勝チームへの祝辞と、優勝賞品の授与がおこなわれます」


『祝辞』

 コロシアムの観客席中央、特別席に現れたのが……『勇者パーティー』だった。聖、古式、里中、斉木。屋敷であったラフな格好とは違い、格の違いを現す美しい武具の数々を装備している。勇者パーティーが姿を現しただけで今までのウタハコールが勇者コールに塗り替わる。聖が右手を上げると観客は一気に静まった。


「チーム『なかよし』優勝おめでとう。1回戦から決勝まで1人で戦い抜いたウタハ殿に敬意を表する。この闘技大会はチーム戦であり他のメンバーにもウタハ殿のチームとして『グレイター迷宮』への参加資格を与える」


 聖が右手で合図すると、ミミアボックスのような装置を持った兵士が走って来た。それぞれが装置の魔法陣に両手を置くように促され、両手を置くと魔法陣が強く光り輝き、ランクプレートの賞罰に『グレイター迷宮入場資格』が追記された。


「今後、このチームがグレイター迷宮に挑戦する。観客の皆も応援してくれ。迷宮は普通のダンジョンとは段違いに高レベルだ。ウタハ殿以外は生き残れないかもしれない。逃げるのも勇気だ。ウタハ殿は、いつでも勇者パーティーに迎え入れる準備がある。それも覚えておくいい」

 そう言い残し、勇者パーティーは特別席から姿を消した。兵士により副賞として皮袋に入った白金貨50枚が送られたが、僕の受け取りは拒否され、直接ウタハに渡した。


 ……なかよしが退場してもウタハと戦乙女のコールがいつまでの続いていたのだった。

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