063:級友との再会

 サムゲン大森林を抜けるとヨハマ連邦の領地となる。タマサイ王国からヨハマ連邦に入るための入国審査を受けていないので、不法入国になる可能性はあったが、目的地であるコツに向かって南下した。

 30分程度走ると、100名規模の軍隊が北東に向かって進軍しているところに鉢合わせてしまった。急いで岩場に隠れたが、先頭を歩いているのが見知った顔であったので思わず声をかけてしまった。


「竜崎、竜崎じゃないか…… 無事だったのか……」


 軍隊の率いているのは『竜崎(りゅうざき) 琴(こと)』。温泉旅行に出かけたメンバーの一人で小学校時代からの同級生。

 温泉旅行仲間と合うのはスカイブ帝国で会った勇者パーティー以来である。あまりの嬉しさに、勇者パーティーに受けた仕打ちを忘れてつい近寄ってしまった。


 隊列を組んでいた兵士たちが竜崎を護るように陣形を組み、剣をこちらにむけて取り囲んだ。


「北東の鉱山に出現した魔物討伐に向かっていたが『なぎさ』と会うとはな。久しぶりの再会を喜びたいところだが、ヨハマ領への不法侵入罪を償ってもらわねばならんな」


 それにしても勇者パーティーといい、級友と会うたびに敵意を向けられている気がする。軍隊を率いているくらいなので重職に就いているに違いない。


(ここで竜崎に取り入れれば話がスムーズに運ぶのではないか)


「事情があるんだ。説明するから聞いてもらえないか」


「黙れ!。これも民のためだ。不法侵入は厳罰だ。級友を傷つけることはしたくない! おとなしく捕まってもらえぬか」


「………」


 沈黙が流れる。ここでヨハマ軍と戦うわけにもいかず、うつむいて確保される覚悟をした。捕らわれた先で聖女と呼ばれる領主との交渉に賭けるしかない。

 そんな事を考えていると一人の兵士が鉱山方面から血相をかえて馬を走らせてきた。


「竜崎将軍、魔物です、鉱山から魔物が湧きだしてきましたきました」


「なんだと。予想より早いな…… 全軍、陣形を取って待ち構えるぞ」


「なぎさは軍の後ろで待っておれ。この場を逃げ出したら罪が重くなるからな」


 兵士が馬を走らせてきた方から黒く巨大な影が近づいてくるのが分かった。マップで強さを確認すると『アトラク=ナクア LV70』かなりの強敵である。


 真っ黒いクモのような生物。身体は金属のように黒く光沢を帯びており節々が赤く光っている。何より顔の部分が女性…… 頭から大腿部までが埋め込まれた黒髪の女性だ。大腿部から先は蜘蛛と同化し、人の手は鋭く長いシミターのような月型の刃になっている。モンスターの足先は鋭く尖り地面に穴を開けながら迫ってくる。


『ハハハハ。我が名は魔人アトラク=ナクア。人間どもよ! 煩わしくも鉱山に立ち入るお前たちを滅ぼしてくれるわ!』


 2重に響くような甲高い声が脳に直接語り掛けてくるように侵蝕する、両手の刃を挙げると、刃の間に魔法陣が描かれて巨大なクモが続々と召喚される。ざっと数えて20匹。


 『スパイビック LV20』そこそこの強さをもつクモであるが、竜崎の的確な指示で素晴らしく連携の取れた兵士たちによって、次々と葬り去られる。


 イライラした様子を見せていたアトラク=ナクアは業を煮やしたのか、腕の刃を振り払うと、かまいたちのような真空の刃が連邦兵を襲う…… 刃に触れた数名の連邦兵は出血と共に倒れていった。


 連続して真空の刃を放ち連邦兵の数を徐々に減らしていく。 


【ハハハハ。脆いね~脆いね人間は。弱めに打ってあげてるんだからぁ。ほらほら、早く助けてあげないとみんな出血死しちゃうよ】


 真空の刃を何回も何回も連続で打ち出していく…… 連邦兵は避けることも受けることも出来ずに倒れていく。


 竜崎はアトラク=ナクアの刃を刀で受け止めるが刀ごと後方に弾き飛ばされてしまう。更に2撃目の刃が倒れた竜崎を襲った。目をつぶって覚悟を決めたのか体に力が入る竜崎。


 流石に見ていられなくなった僕は、ドラグナイト鉱石の変質武器『ライカ』と『レイカ』を使って真空の刃を竜崎に突き刺さる直前で弾き飛ばした。


「竜崎、大丈夫か」

 刀を構えたまま振り向き竜崎の安否を確認する。恐怖とも感謝とも取れる目が向けられている。


「なぎさ、どうして……」


 (……色の力はなるべく人前では使えない。出来るだけ武器で倒すんだ)


「竜崎、息のある兵士にこれを使え」

 手持ちのポーションを箱ごと渡してアトラク=ナクアに飛び掛かった。


 アトラク=ナクアは容赦なく連続で真空の刃を打ち出してくる。両手に持った刀で全て弾き返し、隙を見てアトラク=ナクアの人の姿をした顔の頭に生える触肢を切り落とした。


『ぐぬぬ。お前は本当に人間か……。このアトラク=ナクアに傷を付けるとは』


 アトラク=ナクアは口から糸を吐いて切られた触肢跡に巻き付けると、数秒ほどで糸が吸収されて触肢が復元した。


「この場は引いてもらう事はできませんか」


『ほざけ、人間が!』


 アトラク=ナクアは怒りをあらわにしている。真空の刃では倒せないと悟ったのか間合いを詰めて接近戦に持ち込んできた。図体がでかい癖に早い。両手の刃が刀のように的確に急所を狙ってくる。それを二刀(ライカとレイカ)を使って防いでいる。二刀流の対決は平行線を辿っていた。


 何か来る!! 違和感を悟った僕は大きく間合いをとった。その場にはアトラク=ナクアが出した真っ白な糸が残されている。


『勘がいいね~。 動きを封じて切り刻んでやろうと思ったのに。ククク』


 アトラク=ナクアの粘着糸を警戒するように、懐に飛び込んでは避け飛び込んでは避けをヒットアンドウェイ戦法で斬りかかる。そんな攻防が小一時間続いていた。


 しかしただ攻撃を繰り返していたわけではない。戦いながら一つの作戦を実行していたのだ。バレないように『燃料湧泉』で原油をアトラク=ナクアの体に少しづつ染み込ませていたのだ。


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