062:ベオカ民救出作戦開始

 作戦の期限はタマサイ王国の使者が到着する14日後まで。イレギュラーの可能性を考えると1分1秒も無駄には出来ない。


 ユニは回復薬と食料を異次元収納に準備すると、リリスとともにヨハマヘ出立した。

 ウタハは村長と協力して、ベオカ民の引っ越し準備と霊芝草畑の破壊を担当する。


 リリスとユニの出立を見送ると、すぐにコツに向かった。少しでも早く到着できるように、サムゲン大森林の中を突っ切る最短ルートを選択。植物をかき分けながら南下した。


 大森林の中は、魔獣がウヨウヨとエサを求め、盗賊が薬草を採取する冒険者を狙っている。

 時間制限がある作戦にイレギュラーな障害があると、とても煩わしく焦りを増長させる。

 こんな時こそ冷静に対処しなければならないのだが、簡単に精神コントロールができるほど大人にはなれない。


 時間短縮のため、襲ってくる魔獣を無視し、人の目となる盗賊は避けていく。作戦は順調だが心のモヤモヤは晴れなかった。


 一番モヤモヤしていたのはリリスたちの身で、いくら強いといっても普通の女の子たちだ。急に人の命がかかった役割を担わされ、必死になってがんばっている彼女たちのことを考えると胸が締め付けられる。



 しかし作戦は既に始まっている。みんなを信じて、頑張りを無駄にしなように、今は自分の役割をこなすことを考えなくてはならない。





 ▽ ▽ ▽

 ユニコーンとなったユニに跨(またが)り、リリスたちはヨハマ帝国首都に向けて駆け抜ける。

 ルートはベオカを出発し南にあるメイシンガを経由してさらに南のヨハマ領へ入る。国境を抜けたら、タンを経て東にある首都に到着する予定だ。


 街道沿いを走れば、危険もなく目的地に向かうことが出来るのだが、メイシンガだけは『ふろやマウントフジ』の嫌な思い出が甦ってしまい迂回してしまった。


 迂回したことで盗賊に襲われたり獣に追われたりもしたが、ユニのスピードが速すぎて追いつける者はいなかった。


 メイシンガを越えたあたりで巨大な魔獣に遭遇した。体は大きく焦げ茶色で表面はぬちょぬちょしているカエル。ところどころにイボイボがあり長い舌g……! 長い舌に女性が巻きつけられている。今にも飲み込まれそうである。


 女性からは、うっすらと同じ容姿の女性が背後霊のように浮かび上がり、手に持ったナイフでカエルの皮膚や舌を切りつけているが、ボヨーンと弾かれているだけだった。


 ユニはカエルに向かってジャンプ一閃。舌を蹄(ひづめ)で切り裂いた。

 女性は切断された舌と共に地面を転がり、舌からは解放されたが粘液が纏わりついて動くことはできない。



『ファイアーフレイム』


 リリスの炎がカエルを焼き尽くす。焼きあがったカエルは焼き鳥のような匂いを漂わせながら燃え尽きた。



 女性に纏わりつく粘液は、リリスの水魔法で洗い流し、ユニの異次元収納にあるポーションで回復させると力を取り戻した。



「『伊和凪 沙耶』と言います。カエルの餌になりそうなところを助けて下さってありがとうございます。恋人を探して旅をしているところでした」


「無事で何よりです。恋人が早く見つかるといいですね。それでは先を急ぎますので」


 ユニに跨りヨハマ領に向かって走った。助けられた女性は姿が見えなくなるまで手を振っていた。 


「さっきの女子(おなご)は、なぎさと名前が似ておるのじゃ──」



 ヨハマ連邦の国境に到着すると、門番兵はにこやかに応対してくれた。しかし検閲で王子謁見の目的を告げると、二重人格者かと思うほど態度を一変させる。


 目的を厳しく追及され声を荒げる門番兵。白馬に跨がった少女が、アールド王子に謁見目的で入国を希望しているとなると不信感が強かったのだろう。

 

 あまりにも厳しい追及に辟易していると、困ったときに見せるように言われたコインを思い出した。

 コインを取り出して、王国とのつながりを証明したことで、今までの追及はなんだったと思うほど態度が軟化し、お客様待遇で砦を抜けることができた。




 ▽ ▽ ▽

 ウタハとメタフ村長チームは霊芝草の処分をしていた。今まで村を支えてくれた畑や植物たちを破壊することに村長が躊躇していたが、数時間の葛藤の末に決意した。


 霊芝草をコツに持っていくことも考えたが、道中で誰に見つかるかわからないし、コツへの入国時に不審に思われないように1つも残さ無いように処分していく。

 しかし、アルラウネが「すこしなら収納しておけるよー」と異次元収納に僅かばかり保管してくれた。


 出発当日まで食料や素材など、当面必要な物品の準備に追われるが、日中は店を営業させて、外部に不審な動きを感知されないように細心の注意を払った。 


 コソコソ準備をしながら、作戦決行日が近づくにつれて、ベオカ民に不安が広がっていた。


「本当にこの村は大丈夫なのかね」


「どうせ王国に滅ぼされる運命だ。村長を信じるしかないんだよ」


「腕の立つ冒険者がベオカについてくれれば安心なんだけどなぁ。あの協力者たちじゃあ安心できないよ」


「そういえば、スカイブ帝国のトーナメントで優勝したのはLV1桁のパーティーって冒険者が噂してたぞ」


「聞いた聞いた。緑色の髪をした女性がパーティーを引っ張り、あまりの強さに戦乙女の二つ名がついたらしいな」


「そんな強い女性がこの村にいてくれたら安心なんだろうなー」


「緑色の髪っていえば、ウタハさんもそうだけどあんな優しそうな顔じゃなくて目が鋭く尖ってギラリとしてそうだ」


「優勝パーティーに助けを求めにスカイブへ行ったタロウがそろそろ戻ってくるんじゃないか」


 途中から話の輪に入ってしまったウタハは言い出せずにいた…… 同意を求められても適当に相槌をうつばかりで「それはわたしです!」なんて言えない。


 そこへ一人の男が走ってきた。


「みんなー優勝パーティーは迷宮に行ったっきり戻ってないって………… あ゛ぁぁぁ」


 戻ってきた男(タロウ)は混乱するように騒がしく叫んでいる。何を言っているのか理解不能で、言葉にもならない言葉を発しながらクルクル回ってへたりこんだ。


「ゆぅしょうしたぁぁ……う……たはぜんしゅ……」


「え゛ーーー」 ──村中に驚きの声が響く。


「テヘッ」

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