061:サムゲン大森林の危機

 トウガン砦を抜けて北に向かう。2頭牽きの馬車は初めてなので、馬を上手く制御することができずにフラフラしている。

 フラフラと走る馬車に見かねて「わしが牽くのじゃ」と、1頭の馬はウタハに押し付けて、もう1頭の馬と一緒に馬車を牽き始めた。ユニが主になって牽いているおかげで、真っすぐ進むことができている。


 マップを確認しながら召喚獣を呼べる場所を探す。街道には人が多く中々良い場所が見つからないままキクに近づいていく。キクといえは、この世界に転移された町。今になって思えば、そこから全て始まったことを懐古してしまう。


 馬車を走らせていると街道から小高い丘が見えた。丘には人影も無く馬車ごと通れる傾斜の少ない道が続いている。丘を越えた開け場所でアルラウネを呼び出しして詳しい話を聞いた。

 

「みんなー大変だよ。タマサイ王国がベオカにポーションの作り方を教えるように命令してきたの。従わなければ村を滅ぼすって」


 タマサイ王国のカナモ王が亡くなり、第1王子コクラが継いだという情報をユッタで聞いたが、コクラ王はずいぶんと好戦的なようだ。


「それ以上はねー 分かんなーい 助けてくれる?」


「なぎささん。私からもお願いできないでしょうか」


 (霊芝草を栽培しているベオカを標的に…… 今まで平和的にやってきたタマサイ王が変わっただけで急に好戦的になるものなのだろうか。少し違和感がある)


「コクラ王の考えは解せないが、アルラウネが世話になっているベオカを助けるために、サムゲン大森林に行こう!」


「オッケー。みんなありがとうね-。サムゲン大森林に全員を転送するには魔力が足りないからなぎさに手伝ってもらっていいかな」


「出来る事ならなんでもするよ」


「じゃあ、わたちは直接魔力を吸えないから、ウタハを媒介にもらっていいかな。ウタハは召喚魔法陣を描いて、なぎさの口から魔力を吸ってもらっていいかな」


「くくくく口からってキスの事ですか!? 私がなぎささんとですか!? いいんですか!?」


「だって魔力をもらうのに一番良いでしょ。出し入れできる穴であればどこでもいいんだけどー」


 リリスの頭に色んな妄想が頭を巡っているのか頬を赤らめていた。キス以上を考えるならキスの方がましである。


「ウタハさん緊急事態です! なぎさとキスする事を許します」


 リリスはウタハの頭をガッシリと掴んでなぎさの唇の押し付けた。

 緑光が口を介してなぎさからウタハに流れ込むのが分かる。ウタハを包む光が強くなるとともに魔法陣の光も強くなっていく。


「イイネー。魔力がいっぱいきたよー。それじゃあ転送するよー」


 魔法陣の緑光が最大限に達したのか、竜巻のように光が巻き上がる。巻き上がった光は皆を包みこみ、余りにも眩しい光に目を開けていられなかった。


 …………

 

 目を開けると霊芝草の畑にいた……って、ウタハさんソロソロ唇を離してください。両手両足でがっちりと手足をロックされ唇を奪い続けられていた。その様子を見たリリスとユニは、ウタハの体を引き剥がしてキツイお仕置きをした(文章で表現できな程に……)。


「皆様お久しぶりです。ウリフ村長が老衰で亡くなられたので、新しく村長になりましたメタフです」──食堂で霊芝草を隠すため芝居をうった屈強な男の一人である──


 タマサイ王が第1王子に変わってから情勢は一変してしまったようだ。軍事力に注力し、その一環としてベオカの回復薬が目を付けられた。自国で大量生産をするために製法を聞き出そうという算段らしい。従わなければ村を滅ぼしてから製法を探るので、生か死の好きな方を選べと突きつけられているということだ。


「返答の期限は14日間。その時に使者に回答を伝えなければならない。いくら考えても良い案が浮かばず、助けて欲しくてアルウラネに伝達したもらったんだ」


 ベオカ、霊芝草、森の全てを守る。そんな解決策が本当にあるのだろうか。一介の人間に何が出来るだろう……  そもそも霊芝草は何にために作って居るのだろうか。そこから考えなくてはならない。


 メタフ村長によれば、霊芝草を作るのはベオカ民の生活のためだと言う。しかし霊芝草のせいでベオカ民が危険に晒されているという事実をどう捉えているのだろうか。

 ベオカ集会の中で『霊芝草作りを止める』案も出たが、ベオカ民は製法を知っていると思われている以上、拷問を受ける可能性がある。素直に教えてしまうのも一つの手だが、製法を知っている者を生かしておく保証もない。


「それなら、別の場所に村を作って逃げたら良いのじゃ」


 その一言は、誰も思いつかなかった案である。ベオカを捨てて新しく村を作る。一番はベオカ民を守るという事を考えると素晴らしい提案である。

 霊芝草を作っても作らなくてもベオカの民が守られないのであれば村を捨ててでもベオカ民を守りたいという強い想いがある。

 村民はメタフ村長の決断に一任しているようで、どのような結論を出しても、どのような結果になったとしても村長についていく覚悟があった。


 しかし、ベオカを出てどこに行けばいいのか……。タマサイ領だと意味がないので、国外を考えなくてはならない。

 地図を眺めていると、サムゲン大森林の南にヨハマ連邦領のコツがある。サムゲン大森林の南端がタマサイ王国の国境であり、コツまで森は続いていない。コツ領まで森林を繋げて村を作れればタマサイは手を出せないのではないか。


 茶の力である『土壌改良』と緑の力である『緑の力』を活用すれば森を作り出すことが出来るはず。不可能を可能にする手段を手にしていたことが幸いした。


 しかし大きな問題点が2つある。一つはコツの領主から了承を得る必要がある点、もう一つは色の力を人前で使わなければならないという点だ。

 コツの領主は聖女様と呼ばれているので期待は出来る。それにヨハマ連邦のアールド王子に恩を売ることが出来ているので、味方につけられるかがキーポイントになる。

 色の力を知られないためには、1人で作業をする必要がある。監視役を付けられる可能性もあるので、聖女様と呼ばれる領主の人柄がとても重要になってくる。


 全ての問題点をタマサイ王国の使者がベオカに到着するまでに完結しなくてはならない。一つずつ解決していっては時間が足りないので、危険を承知してチームを複数に分けることにした。 


『リリス、ユニチーム』

 ヨハマ連邦首都に向かってアールド王子の協力を仰ぐチーム。ユニコーンであるユニの脚力とリリスの交渉力が頼みの綱となる。

「なぎさ。わたしに任せて。いざとなったら精神介入で……」

「ユニの脚は早いのじゃ。ユニたちに任せるのじゃ」


『ウタハチーム』

 召喚獣アルラウネと協力してベオカ民を護衛しながらコツへ誘導するチーム。霊芝草の畑を焼き払ってすべての証拠を隠滅する。このチームは作戦完了に合わせてコツに入る必要があるので7日の準備期間を経て出発となる。


「私とアルラウネがいれば護衛なんて余裕ですよー」

「にーちゃんとねーちゃんのために、わたちガンバるよー」


『なぎさ単独チーム』

 コツで領主と交渉する役割。ベオカ出発から10日後にベオカ民がコツに到着する予定なので、それまでにある程度の交渉を済ませアールド王子の到着を待つ。




 作戦中に身の危険を感じたらすぐに撤退することを徹底する。どこかしらのチームが失敗した場合は、ベオカ民は霊芝草とアルラウネを捨ててコツの領民として亡命させてもらう作戦に切り替える。


 リリス、ユニ、ウタハ。みんなと出会ってから別働経験がない中で作戦を実行しなければならない。誰一人欠けることなく無事に再会できることを願うばかりである。

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